きくちゆみこ、エミリー、垂水萌選。
パートナーとの関係を見直す本

明治期の女性を描く作品から、名訳揃いの海外文学まで

2017年12月 特集:だれと生きる?
テキスト:羽佐田瑶子 撮影:竹中万季 編集:野村由芽
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どんなに遠く離れていても、一番に話しかけたいのは夫『ネバーホーム』

『ネバーホーム』(著:レアード・ハント、訳:柴田元幸)(Amazonで見る

「今まで読んできた本の中で、ここに出てくる夫婦はずっと心に残りそうです」と、きくちさんが紹介する2冊目はレアード・ハントの『ネバーホーム』(2017年)です。

南北戦争を舞台に、夫に代わって男装し、軍へ入隊した妻が戦地での日々と夫への愛を語った一冊。「戦争の中で血みどろで過酷な経験をしているのに、妻の言葉や描写が子どものように素朴で、夫を大好きなことが手紙のやり取りや思い出の語りで伝わってくるんです」。戦争という暗黒な部分と夫への愛という純粋な部分の対比が、一緒に生きていく覚悟をもつ2人の関係を強く示します。「少し世の中からはズレていて、きっと万人からは受け入れられないけれど、この2人だから結びついたんだろうなというカップルで。だからこそどんなに遠く離れていても、誰かと話していても、自分が一番に話しかけたい相手は自分の夫だ、という愛を強く感じます。この2人にはとにかく幸せでいてほしい」。この物語はフィクションですが、南北戦争下では、男装して戦地に赴いた女性兵士が実在したそうです。

「推移しつつあることへの配慮を共有することは愛」だという『柄谷行人蓮實重彦全対話』

『柄谷行人蓮實重彦全対話』(柄谷行人、蓮實重彦)(Amazonで見る

垂水さんが2冊目にあげたのは日本を代表する哲学者・文芸批評家である柄谷行人さんと東京大学総長もつとめた評論家の蓮實重彦さんによる、約20年におよぶ対談の記録『柄谷行人蓮實重彦全対話』(2013年)です。

文学や現代思想、映画、歴史など広くいろいろな話が繰り広げられ、印象的な文章が多いと話す垂水さんの本には付箋がいくつも貼られています。「特にグッときたのが、急に蓮實さんが熱くなりながら『推移しつつあることへの配慮を共有するというのは、僕の言葉で言えば愛なんだ』と言うところです。2人とも話に熱中しているうちに、気がつくと始めと全然違う話をしていて「あれっ?(笑)」ってなる場面も結構あるんです。でも語り合うことの楽しさというのは、そうやって互いに意見をぶつけ合っているうちに話がどんどんずれて、思ってもいないところにたどり着いてしまうという「会話の拡がり」を感じることだと思います」。

「答えのない会話を続けられる時間や相手というのは少なくて、そういう関係ができたら愛を感じて興奮しますね」ときくちさん。垂水さんも「小説を要約すると魅力が消えてしまうように、語り合うことの素晴らしさってその瞬間、その場にしかないと思っています。お互いに知っていることを交換するだけではなくて、会話を通して二人の間に新しい考えや気持ちが生まれる、その瞬間に私は愛を感じるからだと思います」と話しました。

すべてを犠牲にして死んでいく女性の一生を描いた『女坂』

エミリーさんの2冊目は、『源氏物語』の現代語完訳を成し遂げ、『文化勲章』も受賞した円地文子さんの小説『女坂』(1939年)です。明治時代、夫のために妾(めかけ)を探し、すべてを犠牲にして苦しみや憎しみを背負って死んでいく女性の一生を描いた作品。「何人もの妾の中で、ひとり不死身のように思われていたという正妻が主人公。彼女は夫に対してなにも言わないけれど、いろんな言葉を自分の中にためこんでいき、最後に悲しく死んでしまうシーンの言葉や風景に、誰かと生きるときになにが大切なのか考えさせられます」。

また、美しい文章表現も読みどころとのこと。「悲しくて辛い物語なのに、風景や心情の描写がとても綺麗で、小説を読む醍醐味を感じます」。難しい言葉づかいもありますが、それも含めて豊かな表現として味わっていただきたい一冊とのことです。

PROFILE

きくちゆみこ
きくちゆみこ

言葉を使った作品制作・展示をしたり、時おり翻訳もします。
「嘘つきたちのための」小さな文芸誌 (unintended.) L I A R S 発行人。

「わたし、現実なんていらない。わたしが欲しいのは魔法なの! そう、魔法よ。わたしがみんなにあげようとしてるのは魔法なのよ。わたしは物事をねじ曲げて伝えるわ。真実なんて語らない。わたしが語りたいのはね、真実であるべきことなのよ!」(テネシー・ウィリアムズ 『欲望という名の電車』)が座右の銘。

エミリー
エミリー

大学時代に文学と言葉に魅せられてから、ずっと、読むこと・考えること・言葉にすることを大切にしてきました。今ではそれが、私にとってとても大きな心の拠り所になっています。本を読むこと、考えること、言葉にすること、そのことについて誰かと語ること、それらがもたらしてくれる何にも代え難い面白さや豊かさや可能性の広がりを、もっともっと多くの人と共有出来たらいいな、と思っています。

垂水萌
垂水萌

よく本を読みます。どうやら人生のテーマが愛のようなので何を考えていても大体愛を巡る話になるし、モテに関して人生を通じて苛まれ続けています。また、読書好きなことによって合コンでアドバンテージを取れた試しが無いことを気に病んでいます。「書を捨てるな、合コンに行くな」を標語に掲げ、安易なモテに流されず、よく本を読みよく学び、真実の愛をなんとかしたいものだなぁと思っています。

INFORMATION

書籍情報
書籍情報
ジャネット・ウィンターソン(著)、岸本佐知子(訳)
『灯台守の話』

2007年10月発売
価格:2,160円(税込)
発行:白水社
Amazon

書籍情報
書籍情報
J・D・サリンジャー(著)、村上春樹(訳)
『フラニーとズーイ』

2014年2月28日(金)発売
価格:680円(税込)
発行:新潮社
Amazon

書籍情報
書籍情報
梨木香歩
『春になったら莓を摘みに』

2006年3月1日(水)発売
価格:497円(税込)
発行:新潮社
Amazon

書籍情報
書籍情報
レアード・ハント(著)、柴田元幸(訳)
『ネバーホーム』

2017年12月7日(木)発売
価格:1,944円(税込)
発行:朝日新聞出版
Amazon

書籍情報
書籍情報
柄谷行人、蓮實重彦
『柄谷行人蓮實重彦全対話』

2013年7月11日(木)発売
価格:2,376円(税込)
発行:講談社
Amazon

書籍情報
円地文子
『女坂』

1961年4月18日(火)発売
価格:529円(税込)
発行:新潮社
Amazon

書籍情報
カルヴィン・トムキンズ(著)、青山南(訳)
『優雅な生活が最高の復讐である』

2004年8月発売
価格:1,944円(税込)
発行:新潮社
Amazon

書籍情報
書籍情報
高橋哲哉
『デリダ 脱構築と正義』

2015年5月9日(土)発売
価格:1,220円(税込)
発行:講談社
Amazon

書籍情報
書籍情報
松田青子
『英子の森』

2014年2月10日(月)発売
価格:1,620円(税込)
発行:河出書房新社
Amazon

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