きくちゆみこ、エミリー、垂水萌選。
パートナーとの関係を見直す本

明治期の女性を描く作品から、名訳揃いの海外文学まで

2017年12月 特集:だれと生きる?
テキスト:羽佐田瑶子 撮影:竹中万季 編集:野村由芽
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読書家3人が選ぶ、誰かと生きることの謎を見つめるきっかけをくれる9冊

結婚ってなんだろう? 夫婦や、パートナーってなんだろう。その形はパートナーの数だけ存在するはずだから、「結婚する、しない」の前に、ひとりひとりがまず「誰とどう生きたいのか?」という地点に立ち返ることで、自分が求める生き方の道筋が見えてくるのではないだろうか? そんなふうに考え、She isの12月の特集「だれと生きる?」では、さまざまな方に、ごく私的な自身のパートナー観を教えていただく数々の企画を実施してきました。

そしてその一環として行ったのが、毎月の特集テーマから連想される本をゲストに選んでいただくイベント「She is BOOK TALK」。ゲストはパーソナルなZINEにファンも多い文筆家のきくちゆみこさん、普段から一緒に読書会をやっているというエミリーさん、垂水萌さん。読書家3人を駒沢公園近くの「出会い系本屋」ことSNOW SHOVELINGに迎え、参加者と共に本を囲み繰り広げられたこの度の催し。本への想いが溢れてなんと3時間超え(!)した親密な一夜を、凝縮してお届けします。

左からきくちゆみこさん、垂水萌さん、エミリーさん(会場:SNOW SHOVELING)

自分の物語を語ることで、自分の人生を切り開いていく『灯台守の話』

『灯台守の話』(著:ジャネット・ウィンターソン、訳:岸本佐知子)(Amazonで見る)/常にストックを用意して、人にプレゼントできるように準備しているぐらいきくちさんにとってお気に入りの一冊だそう

「射抜かれたように読んでいる」と、きくちゆみこさんが紹介してくれた1冊目は、ジャネット・ウィンターソンの『灯台守の話』(2007年)です。

孤児の少女シルバーは、盲目の灯台守ピューに引きとられます。ピューの仕事は船乗りの安全を守るために光を照らすことと、物語を語ること。「灯台って外を照らすもので、内側は真っ暗なんですよね。それで印象的なのが、灯台を日々守るということは、暗闇の中で自分の物語をつくることでもあるという言葉。自分でつくった物語をさらに自分で語ることが、人生を切り開いていくのだという考え方に私自身も大きな影響を受けました」。

ピューから聞いた恋愛物語から「真実の愛」を考え始めるシルバーについては、こう語ります。「この本の帯にも書いてある『真実の愛』という言葉って、一見恥ずかしいですよね。でも『真実の愛』を信じたり、追い求めたりすることで、やがて自分を愛せるようになる。自分が安心して生きていける場所を探すシルバーの姿を見て、あらためて愛というのは、相手のことを考えると同時に、私が私としてどう生きるのか考えることでもあると気づかされます」。

わかりあえなくても、言葉を尽くしながら共に生きる『フラニーとズーイ』

『フラニーとズーイ』(著:J・D・サリンジャー、訳:村上春樹)(Amazonで見る

「誰かと共に生きるためには、『対話をすること』が一番大事だと思い、この本を選びました」と垂水さんが紹介する1冊目はJ.D.サリンジャー著、村上春樹訳の『フラニーとズーイ』(初版は1968年、村上春樹訳は2014年)です。

名門大学に通う妹フラニーと、俳優の兄ズーイ。俗物的で知性のない世界に失望したフラニーは、宗教書にのめり込みます。そんな妹を救い出そうと言葉をかけ続けるズーイ。「フラニーとズーイの会話が全く噛み合っていないんです(笑)。でも、最後の一瞬だけ、わかりあえる。会話は簡単に終わらせることもできるけれど、わかりあえなくても言葉を尽くしていくことのよさを、この本で感じました」と垂水さん。「私は昔、マッチョな体型の人にどうしても惹かれてしまっていたんですけど、恋が冷めると会話がなくなってしまって。その後、会話が続く人と付き合ったらすごく楽しい。だから一緒にいるなら何より長く会話を楽しめる人がいいなというのは、読書と実体験の両方で体感していることなんです」。

相手の考えを理解できなくても、受け容れる『春になったら莓を摘みに』

『春になったら莓を摘みに』(梨木香歩)(Amazonで見る

「人生でずっと読んでいく本だと思います」とエミリーさんが選んだ1冊目は、梨木香歩さんのエッセイ『春になったら莓を摘みに』(2006年)です。

著者の英国留学時の下宿先の女主人、ウェスト夫人。人種や宗教、犯罪歴など関係なく、どんな人でも住まわせてしまう博愛主義のウェスト夫人との出会いや下宿先での出来事を描いています。「相手の考えを理解できなくても、受け容れる。たとえば最近、他国や異なる主張に対して、偏見を持つ人のまなざしを息苦しく感じることがあって。そんなときに、先入観を持たず、誰にでもフラットに接するウェスト夫人の柔らかさに心がほどけていく心地になるんです。私もこういう風に生きたい、と思えるあこがれの人です」と、すこし涙目になりながら語るエミリーさん。

それを受けてきくちさんは、「確かに『だれと生きる?』と問われると一生一緒に過ごすイメージだけど、私たちはどの瞬間も誰かと生きているわけですよね。それに気づきました」と思考をめぐらせます。異なるものを受け入れるのは少し怖いことだけれど、そもそも自分と全く同じ考えの人など一人もいないはず。自分の考えはずっと変わらないと決めつけて意思を押し通すのではなく、その瞬間ごとに柔軟に相手と対峙し、時には受け入れ、対応していくことが、他者と生きる上でもしかしたら重要なポイントなのかもしれません。

PROFILE

きくちゆみこ
きくちゆみこ

言葉を使った作品制作・展示をしたり、時おり翻訳もします。
「嘘つきたちのための」小さな文芸誌 (unintended.) L I A R S 発行人。

「わたし、現実なんていらない。わたしが欲しいのは魔法なの! そう、魔法よ。わたしがみんなにあげようとしてるのは魔法なのよ。わたしは物事をねじ曲げて伝えるわ。真実なんて語らない。わたしが語りたいのはね、真実であるべきことなのよ!」(テネシー・ウィリアムズ 『欲望という名の電車』)が座右の銘。

エミリー
エミリー

大学時代に文学と言葉に魅せられてから、ずっと、読むこと・考えること・言葉にすることを大切にしてきました。今ではそれが、私にとってとても大きな心の拠り所になっています。本を読むこと、考えること、言葉にすること、そのことについて誰かと語ること、それらがもたらしてくれる何にも代え難い面白さや豊かさや可能性の広がりを、もっともっと多くの人と共有出来たらいいな、と思っています。

垂水萌
垂水萌

よく本を読みます。どうやら人生のテーマが愛のようなので何を考えていても大体愛を巡る話になるし、モテに関して人生を通じて苛まれ続けています。また、読書好きなことによって合コンでアドバンテージを取れた試しが無いことを気に病んでいます。「書を捨てるな、合コンに行くな」を標語に掲げ、安易なモテに流されず、よく本を読みよく学び、真実の愛をなんとかしたいものだなぁと思っています。

INFORMATION

書籍情報
書籍情報
ジャネット・ウィンターソン(著)、岸本佐知子(訳)
『灯台守の話』

2007年10月発売
価格:2,160円(税込)
発行:白水社
Amazon

書籍情報
書籍情報
J・D・サリンジャー(著)、村上春樹(訳)
『フラニーとズーイ』

2014年2月28日(金)発売
価格:680円(税込)
発行:新潮社
Amazon

書籍情報
書籍情報
梨木香歩
『春になったら莓を摘みに』

2006年3月1日(水)発売
価格:497円(税込)
発行:新潮社
Amazon

書籍情報
書籍情報
レアード・ハント(著)、柴田元幸(訳)
『ネバーホーム』

2017年12月7日(木)発売
価格:1,944円(税込)
発行:朝日新聞出版
Amazon

書籍情報
書籍情報
柄谷行人、蓮實重彦
『柄谷行人蓮實重彦全対話』

2013年7月11日(木)発売
価格:2,376円(税込)
発行:講談社
Amazon

書籍情報
円地文子
『女坂』

1961年4月18日(火)発売
価格:529円(税込)
発行:新潮社
Amazon

書籍情報
カルヴィン・トムキンズ(著)、青山南(訳)
『優雅な生活が最高の復讐である』

2004年8月発売
価格:1,944円(税込)
発行:新潮社
Amazon

書籍情報
書籍情報
高橋哲哉
『デリダ 脱構築と正義』

2015年5月9日(土)発売
価格:1,220円(税込)
発行:講談社
Amazon

書籍情報
書籍情報
松田青子
『英子の森』

2014年2月10日(月)発売
価格:1,620円(税込)
発行:河出書房新社
Amazon

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