She isでは、特集テーマをもとにGirlfriendsに選曲してもらったプレイリストを毎月Spotifyで配信中。1月の特集テーマ「Dear コンプレックス」のプレイリストを担当したのは、昨年11月にカクバリズムから1stアルバム『Sway』をリリースしたシンガーソングライターのmei eharaさんです。
自分自身と闘い続けた女性ジャズシンガー・Nina Simoneの力強い一曲からはじまり、ありのままの自分を愛せないときに希望を与えてくれるようなQueenの壮大なオペラまで、気持ちを前に向けてくれるような選曲。音楽活動のほか文藝誌『園』も主宰している彼女が、コンプレックスについての考え方とともに丁寧に綴ってくれました。
01:Nina Simone “Feeling Good”
多くのミュージシャンにカバーされている“Feeling Good”。世界的にもとりわけ彼女のテイクが素晴らしいとされています。1960年代の黒人公民権運動に精力的に参加し、ジャズシンガーであると同時に革命家でもあったニーナ。しかし舞台上で喝采を受ける彼女も、夫からの暴力や成功の重圧、自分自身と闘う一人の女性でした。以前に見たインタビュー映像の中、彼女は「自由とは何か?」と質問され、「恐れないこと」と答えました。その言葉と鋭い眼光が非常に心に残っていて、時折思い出しています。
※ドキュメンタリー映画(『ニーナ・シモン〜魂の歌』、Netflixで配信中)を是非観て欲しい。
02:Michael Jackson “Ben”
マイケル・ジャクソンが亡くなった時、世界は不思議な場所だった。周囲は悲しむどころか面白おかしく盛り上がり、妙に興奮していた。彼の大ファンだったというわけでも無いのに、朝の訃報によって一日身も入らず、私の部品の何かがどこかへいってしまったような感覚と、周囲のお祭り騒ぎのギャップを解消できなかったことをよく覚えています。その夜、テレビではどの局もマイケルのことを報じ、特番が早々に組まれ、まわしたチャンネルから流れてきたのが”Ben”。忘れもしない。それでやっと、大泣きした。
03:Pamela Polland “Lighthouse”
「Lighthouse」というのは「灯台」で、恐らく「信じていれば暗いところから光に導かれる」というようなことを歌っていると思うのだけど(調べなさいよ)。2017年の春先だったか、アルバム制作や先々のことで考え込み街を徘徊していた際、ふらっと立ち寄ったレコード屋の店内にこの曲が大音量でかかり、なんともスカッとした。パメラのグーパンチみたいな歌声が最高です。どうでもよいのだけど、この曲が映画のエンディングだったら昇天するだろうにと常々思います。
04:Camille “Ta Douleur”
2002年に発売されたデビュー作『La sec des filles』がとても美しい作品で、おすすめなのだけれど……。その3年後発売されたセカンドアルバム『Le Fil』がとんでもなく変なアルバムで、「一体カミーユに何があったのか」と当時驚き笑ったのを覚えている。それに入っている曲です。この曲はライブ映像を特に見て欲しいですね。唾は飛ぶわ振り乱すわで、容姿や性別、場所なんてものは関係ないという感じ。なんて格好いい女性なんだろうと感動した、ティーンエイジの私。
05:The Doodie Brothers “Listen To The Music”
個人的「もうどうでもよくなるソング」第一位。人が揉めている時なんかは特に「かけたいな」「歌いだそうかな」と思っています。どうにもならない気持ちの時、皆さんはどうしているのでしょう。ふて寝か? 暴食か? 私もその時々で色々な発散法を試しますが、音楽が一番効果的だと思います。シンプルな歌詞で、繰り返されるメロディーも単調ですが、重なる楽器のどれもが自由に動いているにも関わらず、バランスが本当に素晴らしい。クラシックみたいです。純粋な音楽のパワーを感じます。
06:B.J.Thomas “Raindrops Keep Falling On My Head”
世界中の音楽の中で最も好きな曲。今回テーマが「コンプレックス」ということで、私にはどんなコンプレックスがあるだろうと過去を振り返っています。思えば私のコンプレックスは放置され続け、比較的最近になって放置することにしたものもある。横着者なので、どうにかしようとしないだけかもしれないけれど。
おそらくコンプレックスは変えられないもので、いっそ目をそらしてしまって、別のところで長けることができれば良い。「コンプレックスが武器になる」という言葉もありますが、無理にそれ自体を利用する必要もない。いっそ忘れてしまって、自由にやったらいいと思います。
07:Gustavito “Juriti”
全人類規模のフルーツバスケット、というイメージ。フルーツバスケットといっても、フルーツ盛り合わせのことではなく、椅子取りゲームが進化した、あの遊びのことです。今の子供たちは知っているのでしょうか。私はこういう遊び、好きではなかった。もしも座れなかったら、全員の視線が360度自分に向けられるのだから。その恐ろしさったら。なんせ私は自分の容姿に自信が全くないですから。それが今では人前に立って歌っているなんて、なんと信じがたい……。
08:Lonnie Smith “It’s Changed”
2017年、なぜかよく聴いていたアルバムに収録されている一曲。物事の変化の過程、時間の経過、歪みを感じる。ビートルズの"A Day In Life”で表現されているあれと近いような。ただ、この曲にそれほどの劇的な変化はない。氷が溶けるとか、トンネルを抜けるとか、目が醒めると朝だったとかその程度の変化。だから心地がいい。そこに意味を求めるなら自分で。占いのような曲。
09:Todd Rundgren “Love Of The Common Man”
特別である必要はなく、普通でいい。普通の愛が必要なんだ。普通であることを認めて欲しいという曲。本人は「特に何も考えずに作ってることが多いけれど、いい感じになったんだよね」というようなこと、言っていたような。
私も曲と歌詞を同時に作ることが多いので、完成することで自分が何を思っていたのか、何を望んでいるのかを知る場合があります。トッドにとってもこの曲が潜在的な気持ちの表れだったら面白い。彼の曲にはどれもどこか憂いがあり、歌謡曲的で好き(や、何もかも好き)。でも彼自身は大宅録先生で探究心があり、とても明るい人。好きなことに没頭するというのは、七難隠すのかもしれない。
10:Queen “Somebody To Love”
自分を信じる、ありのままを愛すということはなかなか難しい。私自身、私の全てを愛してあげることができない。むしろ腹立たしいことの方が多い……。愛せない部分、足りない部分を補ってくれるのが他人なのでしょうね。「誰か、僕が愛せる人を見つけて欲しい」と悲願するようで、とても希望に満ちています。「必ず見つかるよ」と歌っているのかもしれない。というわけで、この壮大なオペラで締めくくりたいと思います。