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コンプレックスをめぐり、少年アヤが選んだ児童文学5冊

自分自身にしかなれないし、なれないだけの価値がある

2018年1月 特集:Dear コンプレックス
テキスト:羽佐田瑶子 撮影:小池勇輝 編集:野村由芽
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フィクションの世界で経験した冒険は、確実に内面を豊かにする。『はてしない物語』

『はてしない物語』(著:ミヒャエル・エンデ、訳:上田真而子、佐藤 真理子)(Amazonで見る

アヤさんが3冊目に選んだのは、『モモ』でも有名なミヒャエル・エンデの『はてしない物語』(1982年)です。

「アヒルもぐり」と同じく、太っちょでいじめられっ子の主人公・バスチアンが、ある日『はてしない物語』という不思議な本に出会い、なんと物語のなかに入り込んで、異世界の大冒険を繰り広げます。

「物語の中で、バスチアンは世にも美しく勇敢な少年に変身します。おまけに絶対的な権力を与えられ、どうなってしまうかというと、あらゆる暴走の限りを尽くすんです。最後には、とうとうかけがえのない友人のことも傷つけてしまい……」

ハードカバーの本にはたくさんの付箋が。

「どうにか自分でないものになりたい、うつくしくて勇敢なものになりたいという渇望は、ぼく自身も覚えがあります。だからこそ、ものすごいページ数を割いて描かれるバスチアンの愚行の数々が、余計に突き刺さってくるんです。また、友人のアトレーユという少年が、バスチアンのあこがれを絵に描いたような美少年で、おまけにいいやつなんですよ。腹たつでしょう。近づこうとあがけばあがくほど遠のいてしまうんです」

アヤさんが泣きながら読んだ、という一節を朗読してくれました。

「愚行のはてに、バスチアンはある人物から『ただ受け止めてもらう』という経験をします。『辛いことがいっぱいあったでしょう。いい子でも悪い子でもあるがままでいい。だってあなたは遠い、遠い道を来たのですから』と。それによってこころが満たされて、ふたたび現実の、太っちょの自分に帰ることができるんです。ちょっとだけたくましくなって」

と大切そうにハードカバーを抱えて話します。

「現実はなにも変わっていないように見えて、フィクションの世界で経験した冒険や、こころの満たされる思いは、確実に彼の内面を豊かにするんです。たとえ生涯うつくしく、勇敢な少年にはなれなかったとしても」

「物語を通じて得られる体験を信じることは、アヤさんの中にある大切な感覚ですか?」と聞くと、大きくうなずかれました。

ほんとうの意味で他者と共に生きるということ。『ビッグ・オーとの出会い』

『続ぼくを探しに ビッグ・オーとの出会い』(著:シェル・シルヴァスタイン、訳:倉橋由美子)(Amazonで見る

アヤさんが紹介する4冊目は『続ぼくを探しに ビッグ・オーとの出会い』(1982年)です。『ぼくを探しに』(1979年)に続く2作目。三角形の形をした主人公が、自分を受け入れてくれる相手を追い求める物語です。

「いろんな読み方のできる本ですが、恋愛になぞらえるとわかりやすいと思うんです。三角は、自分をなにかのかけらだと思い込んでいるのか、はげしく相手を求めながら、どこか受動的です。そして、ただのかけらでしかない自分を求めてくれる、どこかへ運び出してくれる存在を待ちわびている。
しかしあるとき、完全なる球体『ビッグ・オー』と出会うんです。彼は、すこしのかけらも欲していません。完全な球体ですから、たったの1ミリだって、かけらの入り込む隙はないんです。
そんな彼に、『自分で転がってみろ』と言われるんですよね。そして、三角形なりに、いっしょうけんめい転がってみるんです。はじめはぎこちなく、そのうちだんだんと角が取れて、やがて完全な丸になっていく。
そうしてどこへだって転がっていける自分になったとき、ほんとうの意味で他者を求める、他者と共に生きる、ということができるようになるんです」

PROFILE

少年アヤ
少年アヤ

1989年生まれ。エッセイスト。
著書に自身のセクシュアリティやコンプレックスを綴ったエッセイ集『尼のような子』(祥伝社、2014年)、『少年アヤちゃん焦心日記』(河出書房新社、2014年)、小説『果てしのない世界め』(平凡社、2016年)など。

INFORMATION

書籍情報
書籍情報
少年アヤ
『果てしのない世界め』

2016年12月19日(月)発売
価格:1,512円(税込)
発行:平凡社
Amazon

書籍情報
書籍情報
トーベ・ヤンソン(著)、下村隆一(訳)
『ムーミン谷の夏まつり』

2013年12月13日(金)発売
価格:702円(税込)
発行:講談社
Amazon

書籍情報
書籍情報
フィリパ・ピアス(著)、猪熊薫子(訳)
『真夜中のパーティー』

2000年6月16日(金)発売
価格:691円(税込)
発行:岩波書店
Amazon

書籍情報
ミヒャエル・エンデ(著)、上田真而子、佐藤真理子(訳)
『はてしない物語』

1982年6月7日(月)発売
価格:3,089円(税込)
発行:岩波書店
Amazon

書籍情報
書籍情報
シェル・シルヴァスタイン(著)、倉橋由美子(訳)
『続ぼくを探しに ビッグ・オーとの出会い』

1982年7月1日(木)発売
価格:1,620円(税込)
発行:講談社
Amazon

書籍情報
書籍情報
中川李枝子(文)、大村百合子(絵)
『いやいやえん』

1962年12月25日(火)発売
価格:1,404円(税込)
発行:福音館書店
Amazon

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