少女漫画の世界を牽引する二人による、初の原画展
池袋のパルコミュージアムにて開催中の『くらもちふさこ・いくえみ綾 二人展「“あたしの好きな人”へ」』。くらもちふさこの初期の名作『おしゃべり階段』(1996年)のモノローグからサブタイトルが取られたこの二人展は、お互いにとって初の原画展だという。
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『くらもちふさこ・いくえみ綾 二人展「“あたしの好きな人”へ」』メインビジュアル
くらもちは1972年、いくえみ綾は1979年に『別冊マーガレット』でデビュー。2017年、くらもちは『花に染む』(2010~2016年)で『第21回手塚治虫文化賞マンガ大賞』を受賞し、いくえみは、『あなたのことはそれほど』(2012~2017年)が波瑠主演でドラマ化。この3月には『プリンシパル』(2010~2013年)の映画公開が控えている。受賞やメディアミックスといったニュースが続いているが、何よりともに少女漫画の世界を牽引する存在として、同業者も含めた多くのファンに長年愛され、支持され続けてきたことは周知のとおりだ。
ときめきの感情がよみがえり、目を奪われる。惜しみなく飾られた原画のパワー
今回の二人展で展示されている原画は、デビュー作から代表作、最新作まで、200点以上。
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左から、くらもちふさこ『天然コケッコー』原画、いくえみ綾『バラ色の明日』原画
惜しみなく飾られた原画たちに囲まれた空間。
二人の作品を読んだことがある人ならきっと、はじめて読んだときのときめきがそのままよみがえってくるはずだ。
この原画展ではじめて作品に出会う人も、吹き出しのなかに貼られた写植や、青鉛筆でひかれたトーンのアウトライン、スミベタの筆致、描かれた紙の質感など、印刷には反映されない原画ならではの痕跡に圧倒されるだろう。
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くらもちふさこ『いつもポケットにショパン』/迷いなく引かれた力強い線も、周囲にホワイトによる修正の跡がたくさん残っている線も、ただひとつの「この線」となって読者に届けられた。
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いくえみ綾『ベイビーブルー』/あざやかな発色が美しいカラー原画の数々は、たっぷり水分をふくんで描かれたことが伝わる紙のヨレやシワも相まって、特別な繊細さが強く印象に残る。
第一線を走る、尊敬し合う二人の交流
原画から飛び出すように飾られているのが、二人のおしゃべりがプリントされた「吹き出し」だ。その対話から相手への深い尊敬と、同じ漫画家ならではのするどい視点が感じられ、ハッとすることもしばしば。
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お互いの創作にまつわる対話も見どころ。
長い親交を持つという二人だが、とくにいくえみは、くらもちに憧れて漫画家を志し、自身のペンネームの由来もくらもち作品のキャラクター名を組み合わせたものというほど、長年のファン。展示に合わせて行われた囲み取材でも、「小学生のころから憧れだった存在の人と二人展ができる」幸せを語っていた。その言葉に誇張がないことは、並べて展示されたいくえみのデビュー作『マギー』とくらもちの『スターライト』の1ページからも伝わってくる。
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左から、くらもちふさこ『スターライト』、いくえみ綾『マギー』
並べてみると、実にそっくりな大コマのある2枚の原画。読者からの指摘で、無意識のうちに作品に現れていた影響に気がついたといういくえみが発案し、2作を並べて展示したという。14歳という若さでデビューしたいくえみにとって、くらもちの作品がどれほど強い衝撃で飛び込み、心を摑まれた存在だったか、2枚の原画が、どんな言葉より雄弁に語っている。
絵柄を壊せば、読者ががっかりするかも。それでも「変わってっちゃう」くらもちの画風の進化
各所にテーマを設けたコーナーを交えながら、年代順に作品原画が並べられた展示をめぐっていると、長いキャリアのなかで、二人の画風がどのように変わっていったかを感じられる。もちろんそこに、時代における少女漫画のモードや、ファッションや美の流行の変遷を見ることもできるだろう。
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くらもちふさこ『東京のカサノバ』
「くらもちさんは、描きやすいものとかウケたものとか、そういうものを全部、軽くパーン! と捨てて描いていくようなイメージなんですよね」といくえみが語るように、とくにくらもちの画風は、作品ごとに大きく変わっていく。くらもちはかつて、画風の変化についてこう語っている。
(「再録インタビュー1 25年目のくらもちふさこ」『文藝別冊 くらもちふさこ』河出書房新社、2017年。インタビュアー・住倉良樹。初出は『ユリイカ』1997年4月号)
作品の必然によって、くらもちの絵は進化し続けていく。その変化をこうして一望できるのは、もちろんノスタルジーも呼び起こすけれど、それ以上にワクワクを感じられる、とても贅沢な体験だ。
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