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オカルト/岸本佐知子

UFOやUMA、超能力、心霊。オカルトには救いがある

2018年2月 特集:超好き -Ultra Love-
テキスト:岸本佐知子 編集:野村由芽
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超好き、と言っていいのかどうかわからない。でも「○○バカ一代」の○○に自分なら何が入るだろかと考えると、どうしても「オカルト」以外に言葉を思いつかない。

私が子供のころはオカルト番組が花盛りで、UFOやUMA、超能力や心霊などの特番をしょっちゅうやっていた。子供の私はそのすべてをドキドキしながら息を詰め、テレビの前で正座して、食い入るように観た。

今にして思えば、作りが雑で内容も薄い番組も多かったが、そんなことはどうでもよかった。この世の中には、世界を動かしているルールや常識に属さない何かがある。そう思うことは、私にとって何か大きな救いだった。不文律のお約束に対して嗅覚がきかず、いろんな「やらかし」をしてきた私にとって、それは暗くて息苦しい密室の上のほうに一つだけあいた、明かり取りの小さな窓のようなものだったのだと思う。

私が大学生ぐらいの時、ミステリーサークルを作っていたのは自分たちだと名乗り出た集団がいて、カメラの前で実際に作ってみせた。とても精緻で美しいサークルだった。私は膝から崩れ落ちた。宇宙人のメッセージじゃなかったんだ。百歩ゆずってプラズマですらなかった。私の青春が終わった瞬間だった。

その少し前からオカルトはだんだん下火になり、UFOや心霊の特番もほとんど姿を消していた。さらに最近ではフォトショップやCGのおかげで画像や動画が素人くさいフェイクで埋め尽くされ、オカルト界は壊滅的なダメージをこうむった。ことに心霊方面の打撃は深刻で、出てくる霊の大半が白いドレスに黒髪を垂らした少女になってしまった。貞子以前はそんなもの皆無だったというのに。

それでも昔からの癖で、ときどき夜中にYouTubeで動画を漁って観るのをやめられない。一つ観だすと数珠つなぎにいくつも観てしまい、気づくと何時間も経っている。やっぱりほとんどがフェイクくさいし、一見よくできているようなものでも、「待てよ、廃墟で霊に全速力で追いかけられながらなぜ録画を回しつづける?」みたいなものが多い。苦虫を噛みつぶした顔になりながら、でも、これだけ世の中にオカルト動画や写真があふれているというのは、もしかしたらみんなもこの世界を窮屈に感じていて、「窓」を欲しがっているのかもしれないな、と思ったりもする。

私が今も懐かしく思い出すのは、以前テレビで一度だけ観た、ロシアのお爺さんが撮った動画だ。

枯れ野原で、お爺さんの小さな孫娘が遊んでいる。カメラがふと何かに気づき、女の子の右横にズームする。枯れ草の中に、細い棒のようなものがスーッと下から現れ、左右にふらふらと平行移動する。カメラに気づいたのか、シュッと引っこむ。しばらくするとまたスーッと伸び上がり、平行移動する。お爺さんが急いでそのあたりの草をかき分けるが、何もない。

なんだかよくわからない動画だ。UFOとも心霊とも言いがたいし、「だから何なんだ」としか言いようがない。でも、だからこそ私はいつまでもこの動画のことが忘れられない。あれから何度も検索してみるけれど、二度とお目にかかれない。あのお爺さんと孫娘は、今もどこかで元気にしているだろうか。

あの棒が、今の私の明かり取りの窓だ。

PROFILE

岸本佐知子
岸本佐知子

翻訳家。訳書にリディア・デイヴィス『話の終わり』、ミランダ・ジュライ『あなたを選んでくれるもの』、ジャネット・ウィンターソン『灯台守の話』など。編訳書に『変愛小説集』、『楽しい夜』、『コドモノセカイ』など。著書に『気になる部分』、『ねにもつタイプ』(第23回講談社エッセイ賞)、『なんらかの事情』などがある。
(写真:©講談社)

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