性を考えるきっかけとなった、心を自由にしてくれる本たち
「性」について、隠すことも、目を伏せることも、あけっぴろげに話すこともなく、普段通りの自分の声と大きさで語り合えるきっかけをつくりたいと、She isでは4月に「ほのあかるいエロ」と題した特集を展開し、さまざまな方に等身大な性の話をしていただきました。その連動企画として、毎月の特集テーマから連想される本をゲストに選んでいただくイベント「She is BOOK TALK」を開催。
ゲストは、現役AV女優であり、繊細でやわらかな表現に女性ファンも多いコラムニストでもある戸田真琴さんと、ヴィレッジヴァンガードや日暮里にある「パン屋の本屋」の店長を歴任し、4月に刊行され早速重版が相次いでいる実録小説『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』の筆者でもある花田菜々子さんです。
初対面ですが、未知の領域に自ら飛び込み、自分の心や体と向き合ってきたふたりは「わかる!」と終始共鳴しながら言葉を交わしました。場所は花田さんが店長を務める「HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE」。今回は、女性だけを集めてのトークショーです。
人生の延長線上に、愛する行為がある。『デッドエンドの思い出』
「高校生のころはよしもとばななさんばかり読んでいました」という戸田さんが紹介する1冊目は、同作家の『デッドエンドの思い出』(2003年)という短編集のうちの1篇「幽霊の家」です。
洋食屋の娘である主人公と、同級生でロールケーキ屋の息子である岩倉くん。互いに実家を継ぐ/継がないという将来の選択に悩みながら、次第に心が惹かれ合っていく恋物語です。
「岩倉くんが、自分の住むボロボロのアパートで『一緒に鍋を食べませんか』と主人公を誘うんです。それは暗に『セックスしませんか』という意味で、その後に艶めかしいセックス描写があります。高校生で初めて読んだときは、性描写があると読むのを止めてしまうほど、性を避けていました。それは私自身が男性と付き合ったことがなく、性的な経験もなく、家庭でも話さず、セックスは私と関係ない世界の話だと思っていたからです。
でも、ここで描写されるふたりのセックスは『ちょっとうらやましいな』と思ってしまうほど素敵な行為に感じました。恋をしたり嫌いになったり、セックスは人間的な活動の延長線上にある大事なことなんだな、ととらえ方が変わりました」。
著者自身も「これまで書いた自分の作品の中でいちばん好きです」と話したこともある一冊。「失ったり、傷ついたり、人生に絶望しきった人のその先を書いている短編集で、私自身も救われました。なにか落ち込むことがあったときは、ぜひ読んでほしいです」と戸田さんは話しました。
自分の思うままに生き、人生を楽しむ女性たち。『誰も死なない恋愛小説』
花田さんが紹介する1冊目は、写真家そして文筆家としても活躍する藤代冥砂さんの『誰も死なない恋愛小説』(2011年)です。
身体だけの関係にあこがれる女子大生、彼の友達を好きになってしまうデザイナーなど、自分の欲望に正直なままに生きる11人の女性たちの恋愛模様を描いた短編集です。
「知り合ったばかりの人と一夜を共にすることは世間的にはいけないとされているけれど、この小説に出てくる人たちは『この人としたいからする!』と、とっても明るい。たとえば、デザイナーの女性は惹かれていた彼の友達と、ムードが高まり土手でしてしまう。でも後悔も、愛情が深まることもなく『楽しかった』と淡々と終わります。
ビッチや自由奔放とも違う、自分の思うままに生きて楽しむ姿は、私もこうなれたらいいのにと思うほどかっこよくて、セックスに肯定的な気持ちになれるんですよね」。
一夜の関係は、否定的かつ劇的なものにとらえられがちですが、「平均=正解ではないし、日常の中にあるものだと思います」と花田さん。それを受けて「相対的な話ばかりするけど、もっと個人的なセックスの話もできたらいいと思います」と戸田さん。性も、経験人数では測れないものだから、個を見つめることが大切かもしれません。
精神的な重なりは、快楽を超える。『愛の夢とか』
戸田さんが2冊目に選んだのは、川上未映子さんの短編集『愛の夢とか』(2013年)の表題作です。
ピアノの音色に誘われて、隣家に住むおばあさんの家に通い始めた主婦。互いを「テリー」「ビアンカ」と呼び合うふたりの交流を描いた作品です。この物語では直接的な性描写は描かれませんが、「ふたりが『愛の夢』という曲を連弾するシーンは、精神的なエロのやり取りがあると感じました。
登場人物は主婦とおばあさんという一見普通の関係なのに、蒸留された美しい世界観によってふたりがより綺麗に見えます。人と人が心を交わす純度が高まっていくと、セックスを超えた精神的な重なりがあると思いました」。
それは、処女でAVデビューした戸田さんの性への考え方につながります。
「高校生の頃、好きになってくれる男性がいても、彼だけをどう愛せばいいのかわかりませんでした。でも、すべてを捧げたいと思うほど、人を好きになる傾向もあって、振り切ったことを言うと、もっと精神的なところで『私のことを好きな人たち全員とセックスしたい』というような気持ちだったんです。だから誰でも私のセックスを見られる状況にしたいと考えたことも、AVデビューをした理由のひとつです。
極端だけど、誰とも関われず、思春期にこじらせた性のトラウマを克服するにはこの方法しかなかったんです。今は、ファンの方々と色々なところで交流できるようになり、恋人以上の感情を抱くこともありますし、精神的なところでつながっていると思います。
体感的な快楽だけでなく精神的な満足を感じられると、自分と相手が鏡写しになり、互いの存在によって肯定する瞬間が見えると知りました。それがセックスを超えた先にあるものですね」。
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