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彗星を見るということ

架空の書物や商品をつくるクラフト・エヴィング商會

2018年5月 特集:生活をつくる
テキスト:吉田篤弘 絵:クラフト・エヴィング商會 編集:野村由芽
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人は一生のあいだに、どのくらいの数の星を見ることが出来るのでしょう?
そういえば、わたしたちが生活をしているこの場所も、ひとつの星です。宇宙の途方もない大きさからしてみれば、見つけることも難しい、じつに小さな青い星です。
さて、この青い星から肉眼で見えるところに大きな彗星があらわれるとき、
「今宵は、世にもめずらしい彗星を見ることが出来ます」
と必ずニュースが伝えます。
人は一生のあいだに、どのくらいの数の彗星を見ることが出来るのでしょう?
もし、ぼんやりと生きていたら、ひとつも見ることなく過ぎてしまうかもしれません。
(でも、そんなことより)
と少女は思いました。
(わたしは、天井のいちばん高いところにある、あの電球を交換したい)
それは、とても長いあいだ切れたままでした。おかげで、その部屋は暗くて居心地がよくありません。
(早く交換しなくては)と思うのですが、そのためには長い梯子が必要でした。
(丈夫で、まっすぐで、きれいな梯子──)
しかし、なかなか理想的な梯子が見つからないのです。
人が一生のあいだに、「理想的な梯子」に出会える確率はどのくらいでしょうか?
もしかすると、その確率は彗星を見ることより低いかもしれません。
(それに)と少女はさらに考えました。
(この部屋を明るく照らす、理想的な電球は本当に見つかるのかしら──)
しかし、少女はとうとう見つけました。丈夫でまっすぐな赤い梯子と、星のように輝く電球です。
(まだ、彗星を見たことはないけれど──)
いえ、彗星など見なくてもいいのです。
わたしたちがこの青い星で過ごしていく日々は、彗星を見ることよりもめずらしい出来事の連続でつくられているのですから。

PROFILE

クラフト・エヴィング商會
クラフト・エヴィング商會

吉田浩美と吉田篤弘による制作ユニット。テキストとイメージを組み合わせた独創的な作品を発表する一方、装幀デザインを多数手がける。主な著書に『クラウド・コレクター』『すぐそこの遠い場所』『ないもの、あります』『じつは、わたくしこういうものです』『らくだこぶ書房21世紀古書目録』『おかしな本棚』『星を賣る店』など。吉田篤弘の著作として『つむじ風食堂の夜』『それからはスープのことばかり考えて暮らした』『レインコートを着た犬』『京都で考えた』『金曜日の本』『神様のいる街』など。吉田浩美の著作として『a piece of cake』がある。

INFORMATION

書籍情報
書籍情報
『あること、ないこと』
著者:吉田篤弘

2018年5月18日(金)発売
発行:平凡社
リンク:Amazon

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