おんな同士の関係性の魅力や歪みを描き続ける柚木麻子さん
大人になるにつれて関係性が変わっていく友情について考えるべく、She isでは6月の特集を「おんなともだち」と題し、隣にいるともだちの存在や関係性についてさまざまな方々に語っていただきました。その連動企画として、毎月の特集テーマから連想する本をゲストに選んでいただくイベント「She is BOOK TALK」を開催。
ゲストは作家の柚木麻子さん。女子校を舞台にしたデビュー作『終点のあの子』や『第157回直木三十五賞』候補となった『BUTTER』をはじめ、女性同士の関係性の魅力や歪み、シスターフッドの在り方について書いてきました。
柚木さん自身も、中高6年間女子校に通い、「おんなともだち」と痛い思い出や美しい思い出を重ねてきたと話します。女性同士だからこそ話せる「おんなともだち」についてお届けします。
6年間の女子高生活を経て直面したカルチャーショック
女性について書くことの多い柚木さん。中学高校と6年間女子校に通った日々は「おんなともだちとの熱い絆を確かめさせてくれる時間だった」と柚木さんの心にその輝きを残しています。そして、その時間が柚木さんの作品の核であるとも話します。
「共学の大学に通い、ものすごくカルチャーショックを受けて。未だにそのショックは続いています。高校までのびのびとやっていたことも、大学1年生になると友人によく『女性らしくしないと』と怒られていました。飲み会なんかで男の子が笑いをとっていたら『私だって!』と一芸を披露しようとするんですけど、『男の子が盛り上げているんだから黙って』と(笑)。
とにかくモテを研究しなくちゃと女性誌のモテ特集を切り抜いて『モテスクラップ』を作りましたが、女子に大人気になりすぎて、おもしろコンテンツ化してしまいました。女子校賛美ではありませんが、女の子同士のほうがボーイッシュもガーリーも個性として認められて、あの6年間はなんて尊くて楽しかったのだろうと思いました」
そんなカルチャーショックを経て、あるとき、サイン会で手渡されたファンレター。そこに記された「シスターフッドを書かれていますよね」という言葉に、柚木さんは驚いたと話します。
「『アナと雪の女王』が流行った頃にこうした評価を受けることはありましたが、私がシスターフッドを書けている自信はありませんでした。シスターフッドでググってみたら、真っ先に出てきた文献が、母校の恵泉女学園の恩師であった一色義子先生のものだったんです。
一色先生のお母様のゆりさんは、津田梅子さんが開いた学校(津田英学塾)で生徒と教師として知り合った、のちの恵泉女学園の創立者・河井道先生と生涯にわたって姉妹の契りを交わし、互いに支え合っていたそうです。そうしたルーツはキリスト教にあり、血縁関係のない女性同士が辛いときに手を取りあって、共に乗り越えていくことがシスターフッドなんだと知りました」
「おんなともだち」と聞くと、女同士の間に流れる独特な空気感など怖い印象を受けることもありますし、仲良しこよしであることだけが「おんなともだち」の正解ではありません。
「和気あいあいとすることも、いがみ合うことも、人間同士ならしかたのないこと。友情には陰でも陽でもない、女同士の灰色の友情があるはずです。あの6年間が私の核となり、辛いときに手を取り合えるおんなともだちとの絆を書きたいと思いました」と柚木さんは話します。
自慢話が全部ウソでも構わない『処女連祷』
そんな柚木さんが紹介する1冊目は、53歳の若さで急逝した有吉佐和子さんの『処女連祷』(1957年)です。
終戦後の日本、卒業を控えた女子大生7人グループのお話。教師、編集者など、それぞれ別の進路へ進みますが、恋愛へのあこがれが高まっている彼女たちが盛り上がるのは、唯一婚約者のいる祐子の話です。過剰な恋愛自慢をくり広げる祐子に対してさまざまな感情を抱く彼女たちは、婚約者の誕生日に祐子の家に招かれ、思いがけない結末を迎えます。
「友だちたちはマウンティングしてくる彼女に対して悔しい気持ちを持っているのですが、それでも祐子の婚約者の話がおもしろいから思わず聞いてしまうんです。そして、彼女たちはある事実に気がつきます。
私はこの本を読んで、誰だって心に自分だけの王子様がいてもいいじゃないか、と思いました。たとえば、ママ友の自慢話が全部ウソでも困らない。それぞれに夢を見てもいいよ、というあたたかい世界が描かれているなと思いました。友だちにイライラしている人は、この本を読んでほしいです」。
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