きくちゆみこ、工藤まおり、haru.が観た『火口のふたり』の性愛

きくちゆみこ、工藤まおり、haru.が観た『火口のふたり』の性愛

抱き合う二人だけが登場。結婚、性愛、子供への問い

SPONSORED:『火口のふたり』
テキスト・編集:野村由芽
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「もっとちゃんと自分の身体の言い分を聞いてあげた方がよかったのかもしれないって」。

これは、結婚式を10日後に控えた直子(瀧内公美)が、数年ぶりに昔の恋人の賢治(柄本佑)と再会し、抱き合いながら語った言葉。白石一文原作、映画『火口のふたり』は、賢治と直子のふたりだけが登場し、直子の結婚相手が出張から帰ってくるまでの5日間だけ、喋ったり、食べたり、お互いの身体の感覚を思い出し、確かめ合い続ける。

5日間、直子の新居で、長距離バスで、ホテルで……繰り返されるふたりのセックスは、劇的でもなく、見世物的でもない。食事のシーンと等しい温度で描かれるふたりのセックスは、あくまでもわたしたちのあたりまえの人生に存在する、「生活のなかのセックス」だ。そしてそのあたりまえのセックスは、生きることと死ぬことのあわいの夢のような時間であり、生きることと死ぬことの両方のようでもある。

セックスは、子どもをつくるための営みなのか? 子どもがほしいというのは結婚の理由になり得るのだろうか? 結婚を控えた/結婚という制度に身をおく人間が、身体の言い分に素直になってはいけないのか? 5日間に生まれる、さまざまな問い。世界が終わるときに、誰と何をして過ごすのか?

性ときってもきりはなせない心身をもったわたしたちのなかに生まれ続けるそれらの問いをはらむ『火口のふたり』。本記事ではきくちゆみこさん、工藤まおりさん、haru.さんによるコメントを、もうひとつの記事ではmaegamimamiさん、大島智子さん、たなかみさきさんによる絵と言葉をお届けします。

【関連記事】maegamimami、大島智子、たなかみさきが絵にした、男女の性愛

『火口のふたり』©2019「火口のふたり」製作委員会/撮影:野村佐紀子

「これは愛ではなく、たしかに体と心を持った、人間についてのおはなし」(きくちゆみこ)

たとえばどうしていま、この瞬間、カフェで電車でエレベーターで、隣にいるこの知らない誰かに触れてはいけないのか、その理由なんてとうぜんわかっているつもりなのに、でも同時にわからなくなる時がある。わたしの心がこの体と、あなたの心がその体と、それぞれセットである限り、できること・できないことがあるままに、ジッとこの時間この空間に存在してしまえるふしぎ。

そしてまた別のところでは、はずかしさもみじめさもすべて受け入れたあとで、それでも永遠に他者のまま、誰かと出会い、別れ、またそのくり返し、くり返し。これは愛ではなく、たしかに体と心を持った、人間についてのおはなし。ダイニングルームでバーのカウンターで、いろんなものをいろんなやり方で食べ、いろんなグラスで飲みものを飲んで、あなたとわたし、この体とこの心のセットでいま、まるで初めての人同士みたいに、まるで太古の昔からの付き合いみたいに、何度も何度も、できることがあるふしぎ。たのしい遊びに夢中になりながら、このきびしい世界を移動するふたりが、小さな子どもたちみたいにも思え、生きててくれてよかったなあと心から思いました。(きくちゆみこ

『火口のふたり』©2019「火口のふたり」製作委員会/撮影:野村佐紀子

「世界が終わる瞬間は、こんな風に生活していたい」(工藤まおり)

「身体が求めていることは、本当は自分の心も求めているものかもしれない」
率直にそう思った作品でした。

「今夜だけ、あの頃に戻ってみない?」
その言葉を合図に、お互いの身体を確かめあった過去を蘇らせた2人。与えられた時間は、直子の結婚相手が戻ってくるまでの5日間。
余すところなく2人の時間を追求する彼らのSEXは、自然に生活に溶け込む一方で、ときに、あえて背徳感を感じさせるような意思も感じました。
終わりのある未来を見つめながら、最後の最後まで、身体が求めるままに、快楽に身を任せる2人。
そんな2人を眺めながら、「世界が終わる瞬間は、こんな風に生活していたい」と素直に憧れを抱くのです。(工藤まおり

『火口のふたり』©2019「火口のふたり」製作委員会/撮影:野村佐紀子

「明日を生き延びなければいけないすべての人へ」(haru.)

私が日常に慣れてしまうことに対する恐怖のわけを
二人が淡々と映し出してくれた気がした。

私はこの映画を見ながら、ある人を想った。

私たちはたくさんの話をした。
たくさんの食事をした。
肌を重ねたこともあった。
政治的な思想は違った。
私はデモに行った。
彼は行かなかった。
「愛している」という言葉を
私たちの関係性の中で使っていいものか悩んだけれど
愛している以外の言葉を生み出すこともできなかった。

私たちの身体は、言葉は、社会のものだった。
自分の身体のいい分をもっと聞いてあげたかった。

彼は海に還ってしまったけれど
残された私は今日も朝を迎え、夜を迎えようとしている。

明日を生き延びなければいけないすべての人へ
夏の生ぬるい夕方の風のように、肌に残る作品です。(haru.

『火口のふたり』(オフィシャルサイトを見る

PROFILE

きくちゆみこ
きくちゆみこ

言葉を使った作品制作・展示をしたり、時おり翻訳もします。
「嘘つきたちのための」小さな文芸誌 (unintended.) L I A R S 発行人。

「わたし、現実なんていらない。わたしが欲しいのは魔法なの! そう、魔法よ。わたしがみんなにあげようとしてるのは魔法なのよ。わたしは物事をねじ曲げて伝えるわ。真実なんて語らない。わたしが語りたいのはね、真実であるべきことなのよ!」(テネシー・ウィリアムズ 『欲望という名の電車』)が座右の銘。

工藤まおり
工藤まおり

津田塾大学数学科卒。 新卒でリクルートスタッフィングに入社。
人材派遣営業に携わったのちに、1年で退職しセクシュアルウェルネスメーカーTENGAの広報に転職。
TENGAと、女性向けセルフプレジャー・アイテムブランドirohaのPRに4年携わったのちにフリーランスとして独立。
複数社のPR業務と恋愛・性・キャリアに関するコラムを執筆。

haru.
haru.

同世代のアーティストやクリエイターを中心に制作されるインディペンデントマガジン『HIGH(er)magazine』の編集長(なんでも屋)を務める。『HIGH(er)magazine』は「私たち若者の日常の延長線上にある個人レベルの問題」に焦点を当て、「同世代の人と一緒に考える場を作ること」をコンセプトに毎回のテーマを設定している。ファッション、アート、写真、映画、音楽などの様々な角度から切り込む。

INFORMATION

作品情報
作品情報
『火口のふたり』

2019年8月23日(金)から新宿武蔵野館ほか全国で公開

監督・脚本:荒井晴彦
原作:白石一文『火口のふたり』(河出文庫)
音楽:下田逸郎
出演:
柄本佑
瀧内公美
配給:ファントム・フィルム
火口のふたり | 8月23日(金) 新宿武蔵野館 ほか 全国公開

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