She isでは、特集テーマをもとにGirlfriendsに選曲してもらったプレイリストをSpotifyで配信中です。9・10月の特集テーマ「よそおうわたし」では、女の子だけのDJチーム「Twee Grrrls Club」を主催するほか、雑貨屋「Violet and Claire」の経営、女の子による女の子のためのミュージック・スクラップスがコンセプトのお店「disc union Girlside」のプロデュースなど、ファッションと音楽をつなぐ活動をし続けている多屋澄礼さんが選曲してくれました。
小さな頃から「よそおう」ことに人よりも敏感だった私。学生時代、学校指定の(かなりダサい)三つ折り靴下を履くことに抵抗し、その当時夢中だったVivienne Westwoodの踝丈のソックスを自分のアイデンティティとして主張していました。大人になり、その意思は少しずつ薄れつつありますが、今でも時にはドレスアップをし、私の知らない新しい私に出会いたい、そんな衝動に駆られることも。今回選んだのは私に「よそおう」ことを意識させてくれる特別な10曲。
01:Stereolab “Spacemoth”
音楽とファッションはとても近いところにあり、お互いに作用しあう。その相乗効果で生み出されるものを愛し、そのカルチャーを装うことを喜びと意識したのは学生時代。Stereolabの2001年のアルバム『Sound-Dust』に入っている“Spacemoth”という名曲が生まれるきっかけとなった神戸の栄にあるセレクトショップ「Spacemoth」は、私に「装う」ことの楽しさを教えてくれた貴重な存在です。学生時代からずっと好きなバンドですが、年齢を重ねるごとにその素晴らしさが身に沁みます。
02:The Divine Comedy “Becoming More Like Alfie”
イギリスの俳優、マイケル・ケインが主演の映画『Alfie』(1966年、監督:ルイス・ギルバード)。全女性を敵に回しそうなキャラクター、イギリスの労働者階級の荒れた生活風景、どれも一見すると魅力は無さそうですが、私の目にはとても魅力的に映っていました。小粋で、ちょっと気障なこの曲は私のイギリスに対する偏愛を増長させ、私自身のキャラクターの一部となりました。その好きがこうじてイギリスのバンド、The Divine Comedyのファンサイトを学生時代に運営していたなんて、今ではなかなか言えませんが(笑)。
03:Samantha Sidley “I Like Girls”
アメリカのバンド、Little Feaetのローウェル・ジョージの娘であるイナラ・ジョージ。そのクルーの一員である、サマンサ・シドリーの一曲です。ジャズ・シンガーである彼女の艶のある歌声を、同性婚パートナーであり、プロデューサーのバーバラ・グルスカが引き出していて、ロスト・ジェネレーション時代のジャズやビッグバンドを彷彿とさせるサウンドにうっとりしてしまいます。かつて女子校に通っていた私。女の子が好きなのに、それを隠そうとよそおっていたある女の子のことが思い出され、胸がチクリと痛くなります。
04:シネマ “電話・電話・電話”
現役で音楽活動を続ける松尾清憲さんが80年代前半に結成したモダンポップ・バンド、シネマ。皆さんは電話越しの自分の声って好きですか? 実は私はとても苦手で、留守番電話を入れるのも躊躇してしまうほど。自分の認識している声とはどこか違う声質、それはきっと喋る時に身構えてしまい、装ってしまっているのかもしれません。希代のメロディーメーカーである松尾さんの才能が眩しすぎるほどに輝きを放ちながらも、たった1枚のアルバムで解散してしまったのが大変悔やまれる、そんな想いも込めてこの曲を選びました。
05:Belle And Sebastian “The Model”
グラスゴーの良心(そして時に社会派でもある)ベルセバ。この曲が収録されたアルバム『fold your hands child you walk like a peasant』は、日本盤だと『わたしのなかの悪魔』という(時に意訳しすぎではあるけれど)秀逸なタイトルがつけられています。アイスランド出身のバンド、múmのメンバーである双子ギーザとクリスティンが鏡に映る少女のようなアルバムジャケット、優しさと残酷さの2面性を持つ歌詞、すべてが「よそおうわたし」のテーマにふわりと重なる。ふと鏡に映る自分の姿が真の姿なのか、それとも装った偽りの私なのか、戸惑う瞬間は今までも幾度となくやってきて、私を不安にさせる。そんな時には、鏡に向かってにこりと微笑えみ、不安を拭い去るためにもこの曲を脳内再生すればきっと大丈夫。
06:Ace Of Base “Waiting For Magic”
王子のキスで目覚める白雪姫。生き返ったあとが幸せな生活が待っているかは誰にも分からないけれど、そんな夢のようなお伽話に夢を馳せていた幼い私。そのきっかけはキスでも何でも良いけれど、魔法のように私の心を強くしてくれる何かをずっと心待ちにしていた。大人になる心の準備をするときに欠かせないエッセンシャルなナンバー(本当はオリジナルよりもBlack Blackのカバーヴァージョンが好き)。
07:Francois Hardy “Le Temps de l’amour”
日本ではなぜだか仮装大会の様相を呈し、年々規模が大きくなり、社会現象になりつつあるハロウィンですが、もしハロウィンに仮装するならウェス・アンダーソン監督の作品に出てくるキャラクターであれば年甲斐もなくやってみたいなと思います。『ザ・ロイヤル・テネンバウム』のマーゴットも魅力的だけど、夫と二人で『ムーンライズ・キングダム』のサムとスージーが良いなあ……なんてね。この曲は二人が砂浜で踊るシーンでかかる一曲。ポータブルのレコードプレイヤーを持って浜辺でダンシング、そんな非日常を楽しみたいです(双子の赤ちゃんがいるという現実はとりあえず置いておこう)。
08:Clairo “Pretty Girl”
ベッドルームポップ・ブームの立役者Clairoちゃん。<スカートを履くような可愛い女の子にだってなれるけど……>そんな彼女の歌詞が私の胸をしめつける。だって私も同じような経験があるから。ティーンエイジャーだったかつての私は女の子らしいワンピースやスカートを避けて、ストリートブランドのボーイッシュなアイテムを鎧のようにまとって、見えない敵と戦いながら自分の城を守ろうと必死だった。今はひっそりと鳴りを潜めているけれど、もしかしたらまだそんな部分が私の何処かにあるのかもしれません。
09:Elton John “Tiny Dancer”
映画『ロケットマン』を観た後にリピートせずにはいられなかったエルトン・ジョン。彼が煌びやかで、派手で、時に過剰な衣装を身にまといピアノに向かう、その理由は何なんだろう? 不安を隠すため? それともテンションを上げるため? 様式美的な? その答えはきっとひとつではないのかもしれない。だけど、朝起きて洋服を選び、通勤電車に乗って職場に向かう時、お気に入りの服を着ている日はいつもより強い自分でいられる、それを意識する瞬間に私はエルトンのあの心境に少しだけ近づけた気がして嬉しくなります。
10:The Kinks “The Village Green Preservation Society”
60年代のバンドで私の中で5本の指に入るThe Kinks。他にはThe BeatlesやThe Who、Manfread Manなどスタンダードなバンドばかりだけど、彼らがいなかったらきっと私は音楽にこれほどのめり込んでなかったかもしれない。68年に発表されたこの曲は一聴すると自然を守る会のような歌ではあるけれど、その裏には様々な思いや考えが隠されているようにも思えてくる。私は社会に対して、アクションを起こすような性質を持っていないけれど、様々な人や意見が飛び交う社会という集合体の中で、しっかりと地に足をつけて存在していたいと心から願うのです。