キラキラ輝いているおばあちゃんが自分でアイドルだと名乗っていたら、それはひとつのアイドルのかたち。
野村:今日はライブを披露されましたが(Sen Morimotoさんとのコラボパフォーマンス)、これからもステージに立つことを中心に活動されるのですか?
和田:「ステージ上で表現する」ということはこれからも変わらないと思います。歌って踊って盛り上がるライブだけではなく、それ以外のこともやっていきたいですね。そこにいるファンの方々と、ひとつの空間で心が繋がっていけるようなものをやりたいです。
野村:ステージは和田さんにとってファンの方々とのコミュニケーションの場のようですね。
和田:いろんな人に夢だとか希望だとか、もしかしたら違ったものを与えてしまっている可能性もあるけれど、きれいごとではなく私はファンの方がいることで、曲を通してひとつになれることを感じています。ライブは特にそう思います。直接お話しする機会とはまた別に、心が繋がる感じがあるんです。
ライブの後って、みんなが同じ時間と空間を受け取って家に帰っていくんですよ。月曜日になって、学校の人もいれば仕事の人もいて、そういう時にそれらを共有できていたことで「また頑張ろう」と思える、希望になれたらいいですね。
野村:和田さんにはファンをはじめとした、自分以外の人たちを大切にする視点がすごくあるんですね。きっとこれから、その方々と一緒に作り上げる、今まで観たことない表現が生まれていきますね。
和田:今日のステージを観た人は思っているかもしれないです。「あやちょ、こっちかー!」って(笑)。今までとは違う表現をしたので。
野村:いろんな意見を聞いてみたいですね(笑)。すこし繊細な話かもしれませんが、アイドルには卒業という考えが多くある中で、たとえばおばあちゃんがアイドルをやるという選択肢もこれからの時代にはあるのかもしれませんよね。和田さんの中でアイドルである自分というものは、どれくらい先の未来までイメージされていますか?
和田:いつまでやる、という未来像を明確に考えているわけではないのですが、逆に言うと辞める時期を考えていないです。それにキラキラ輝いているおばあちゃんが自分でアイドルだと名乗っていたら、それはひとつのアイドルのかたちですよね。アイドルのあり方が広がっていってほしいという気持ちがやっぱり、強いんだと思います。
フェミニズムやジェンダーの視点には何度も助けられているけれど。
野村:今日は和田さんにも「今の私を形作る一冊」を持ってきていただきました。紹介いただけますか?
和田:持ってきたのは、2010年に開催された大好きな画家のエドゥアール・マネの展覧会『マネとモダン・パリ』展の図録です。私はマネの女性表象について大学で研究していたんですね。この絵に描かれた女性の姿とは一体どのようなものなのか、当時そして現在はどのような解釈ができるのかを考えていました。
でも、解釈って自分の気持ちが入ってしまうんです。私は美術以外の場面でフェミニズムやジェンダー論によって社会の仕組みや日々の違和感の理由を理解できたことが多かったから、そういう視点でマネの絵画についても解釈していて。フェミニズムやジェンダー論は興味がある考え方だからどんどんのめりこんでしまったんですけど、私が学んでいるのは社会学ではなく美術史。美術史の視点からすると、フェミニズムやジェンダーの解釈だけでは、その作品の良さを捉えきれないと先生に言われて気がついて、その時に、本当にショックで。
大好きな作品なのに、最大の魅力を引き出せないまま自分の感情を優先して研究していたかもしれないと気づいて、すごく衝撃でした。フェミニズムやジェンダーの視点に何度も助けられているけれど、対象や場面を選ばずに、傾倒しすぎてしまったのかもしれないと思ったら、自分が本当に悔しくて悲しくて、反省しました。だから、最近ちょっと元気がなかったんですよ。でもそういうことがあったから、次からはこうしようって思えるようになって乗り越えたので、今日はこの本を持ってきました!
一同:拍手
野村:もともとマネをいいなと思った理由は?
和田:この図録の表紙に描かれている『すみれの花束をつけたベルト・モリゾ』の黒いケープの色合いに惹かれたんです。あと、見れば見るほどモリゾの視線や力強さが好きですね。10点ほどある、他のモリゾの肖像画も好きです。どれも印象が違うし、合わせている茶色のシックな背景など色彩センスもよいし、筆跡もマネは見ていて心地が良いです。
この頃の作品は男の人の視点から描かれていたものがほとんどだから、現代のフェミニズムやジェンダーという視点で捉えると、違和感を抱く作品が多いのはきっと間違いないんです。でも、マネが好きな気持ちも変えられないから、揺れ動く気持ちにしっかりと向き合いたい。その都度、自分の居場所を確認しながら、考えや感情を自分で選び取りながら、今後も付き合っていきたい作品です。