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政治1年生のための消費税。長田杏奈&かん(劇団雌猫)が経済学者に取材

政治1年生のための消費税。長田杏奈&かん(劇団雌猫)が経済学者に取材

消費税10%、今から止められないんですか?

インタビュー・テキスト:かん 撮影:疋田千里 編集:守屋佳奈子、野村由芽
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民の暮らしを無視した政策は「机上の空論」

かん:じゃあ増税しまくってる今の政治家は、私たちの暮らしをあんまり見てないってことに?

まつお:そうですねえ。私は政治制度の専門家ではありませんが、選挙の仕組みによって、政治家と人々の暮らしが繋がりにくくなっている面はあるかもしれません。昔の、例えば昭和の政治家にどんなイメージがありますか?

あんな:カネ! 汚職! リクルート事件!(*1)

*1……1980年代、情報サービス会社リクルートが政治や経済、マスコミ関係の実力者に、子会社であるリクルートコスモスの未公開株を譲渡して、贈賄罪に問われた事件。

まつお:大きな事件もたくさんありましたよね。その背景には、政治家と人々の密な関係があったんじゃないかと思うんですよね。

昭和の政治家は、保守側では地元の青年団からのしあがるってことが多かったんです。革新側では労働組合の書記から叩き上げで政治家になったりとかね。

あんな:地元のみんなをまとめて面倒見る親分的な。

まつお:そういう人が政治家になると、具体的な人の顔や生活を思い描きながら政策を決めるじゃないですか。地元のみんなに押し上げてくれてもらった分、政策で還元しようと思いますよね。

かん:信頼してる近所のお兄ちゃんが国政のど真ん中にいるってすごいことだ。

まつお:一方で地元やある団体とのつながりが強いと、情やコネも強くなりますから、「〇〇くん、ちょっと口利きしてよ」ということにもなってくる。「橋を作ろう!」と言って、地元の建設会社を潤したりとかね。だから昭和の政治家は、良く言えば日々有権者の生活を考えて政策をつくり、困ってる人が頼ってきたらそれに応えることができたんだけど、悪く言えば汚職にもつながりやすかったんですね。

あんな:ちょっとズルがありつつも、みんなで豊かになろうとしてたんだ。一人一人の暮らしを見るっていう姿勢としてはいい面もあったのか。

かん:でもやっぱりズルはよくないですよね。

まつお:そう、コネでいろんなことを決められたら不公正ですよね。叩かれて当然です。そんな風潮への反発として1994年に衆議院選挙に導入されたのが「小選挙区制」です。

かん:なんだっけそれ? 授業で習ったような。

あんな:導入当時は超盛り上がったんだよ、すごい制度ができたって!

まつお:小選挙区導入によって、特定の団体とのつながりではなく、政策によって政治家を決められる世の中が期待されました(*2)。

*2……小選挙区制は、1選挙区から1名の議員を選出する選挙制度。従来の中選挙区制(1選挙区から概ね3~5人の議員を選出する)では、ひとつの選挙区内に同党から複数の候補者が立候補することもあった。そのため、党内での候補者の同士討ちが起こりやすく、党の政策や党組織ではなく、党内の派閥や個人後援会の支援が重視された。それによって生じる利益誘導政治や党内の派閥間抗争をなくし、政党主体の政策による政治を実現することを一つの目的として導入されたのが小選挙区制とされる。

かん:すごく良いことに思えるけど、行きすぎると今みたいな空中戦になっちゃうってことか。

まつお:そうそう。具体的な有権者の暮らしを離れたところで、机上の空論を戦わせる。

小選挙区制では、細かく有権者の世話を焼くよりは、政党の執行部に公認される、党の中で昇進して幹部になることのほうが重要になってくる。地元に基盤がなくても政党のネームで勝てますから。

あんな:一般市民の暮らしに向き合った経験が無くても、そのまま国政に行けちゃうパターンも増えたんだ。そう思うと考えもの。

かん:平成生まれとしては現行の選挙制度が当たり前だったから、制度自体を疑うなんて考えもしなかった。じゃあもっと昔みたいに、地元密着型のズブズブ政治に戻ったほうがいいの?

まつお:うーん、そうなんやけど、戻りすぎると同じことになるからなあ。

あんな:じゃあどういう政治の状態が理想なんだろう。中間はないんか!?

まつお:まずは単純に、人々の暮らしが満たされるのが理想。食べること、飲むこと、そういったもののために必要な政策を重要視すべき

かん:平和ボケしすぎてて、政策によっては暮らしが脅かされるかもしれないなんて考えもしなかったよ……。でも暮らしに目を向け過ぎると、日米外交! とか、世界規模の施策をやりたい政治家はムズムズしそうですね。

まつお:さっき「長い目で見たら効いてくる施策」のために今我慢する必要はない、って話をしましたが、むしろ今の生活が豊かになる施策の方が国民の経済活動も活発になって、長い目で見て政治家の大好きな「国際競争力」なんかも上がるかもしれませんよ。政治家にはそういう「長い目」を持ってもらいたいです。

あんな:理解する努力は必要だけど、ピンとこない経済政策は「自分の目の前の豊かさに直結しないのでは」って疑う目線大事だね。

かん:増税はいやだ! って思ってたのは、それでよかったんだ。

<ポイント>
Q.「経済政策の良し悪しがわからない!」(かん)
A.「日々の生活に一番影響があるのが実は経済政策。自分のお財布事情を良くしてくれるかどうかで見極めて良い」(まつお)

PROFILE

長田杏奈
長田杏奈

ライター。美容をメインに、インタビューや海外セレブなどの記事を手がける。趣味は花鳥風月。モットーは「美容は自尊心の筋トレ」。

かん

1989年、兵庫県生まれ。書籍『浪費図鑑』等を制作するオタク女子4人組「劇団雌猫」メンバー。11/6発売の新刊は『誰になんと言われようと、これが私の恋愛です』(双葉社)。K-POPアイドルSEVENTEENのジョシュアと宝塚歌劇団の芹香斗亜を応援中。消費税のない世界で生活をしたことがないので正直0%はピンとこない。それでも10%は多いと思う。

松尾匡

1964年、石川県生まれ。立命館大学経済学部教授。専門は理論経済学。著書に『この経済政策が民主主義を救う』(大月書店)、『ケインズの逆襲、ハイエクの慧眼』(PHP新書)、『そろそろ左派は〈経済〉を語ろう』(共著、亜紀書房)など。「反緊縮」の経済政策を公約に掲げた候補者を認定する「薔薇マーク」キャンペーン(Twitter: ‎@the_rose_mark)を実施。

INFORMATION

書籍情報
『そろそろ左派は〈経済〉を語ろう』

著者:ブレイディみかこ、松尾匡、北田暁大
2018年4月25日(水)発売
価格:1,870円(税込)
発行:亜紀書房
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