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政治1年生のための消費税。長田杏奈&かん(劇団雌猫)が経済学者に取材

政治1年生のための消費税。長田杏奈&かん(劇団雌猫)が経済学者に取材

消費税10%、今から止められないんですか?

インタビュー・テキスト:かん 撮影:疋田千里 編集:守屋佳奈子、野村由芽
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デメリットもあるが、今の経済状況では消費税よりも法人税を上げるべき。

かん:増税されてしまったからには、その税金がどう使われるのかちゃんと監視したい……。実際どうなんでしょうか?

まつお:消費税増税の結果生み出されたお金は、当初目的とされた「社会保障の財源」としてではなく「法人課税を緩めるための穴埋め」として使われているという指摘もあります。

あんな:でた! 嘘つき! 私は北欧好きなのですが、デンマークとかスウェーデンは消費税25%なんですよ。でも、ゆりかごから墓場まで手厚い社会保障が整備されているからありなのかな、なんなら羨ましいなって。法人税減税の穴埋めに使われちゃうなんて、話が違い過ぎる……。悲しいよ。

かん:法人税を軽減するっていうことは、税金対策をすれば大企業やお金持ちほど得するってことか。この前ニュース記事(日本経済新聞/ソフトバンクG、国税も認めた巨額欠損金)で、ソフトバンクグループが利益1兆円なのに日本国内で税金払ってないって書いてあるの見て衝撃だった。

まつお:ではせっかくなので、消費税と法人税の関係について考えてみましょう。

あんな:まつお先生、ここにホワイトボードがあるから使いましょう!

まつお:よっこらせ(立つ)。

あんな:おまんまが気になる民としては、消費税上げるくらいなら、法人税でどうにかしてよ! って思うけど、実際のところメリット・デメリットってどうなんですか?

まつお:法人税を上げるメリットはもちろん税収が増えること。デメリットとされているのは、大きく2つ。

①企業が外国に逃げてしまう
②企業が設備投資をしなくなって、成長を妨げる

かん:確かにそれは問題。

まつお:まずひとつ目の、「企業が外国に逃げてしまう」。確かに、世界中で法人税を下げる流れが続いています。大企業がアジアやアフリカなどの発展途上国に拠点を移すケースが相次いだため、これ以上の流出を防ごうとしたのです。

かん:じゃあ法人税は上げないほうがいいんでしょうか?

まつお:どうでしょうか。実際に経産省が企業にとったアンケート(*5)があります。
*5……経済産業省「海外事業活動基本調査 2017年度実績」

あんな:「投資を決定した際のポイントについて、該当するものを3つまで選択」

まつお:1位「現地の製品需要が旺盛又は今後の需要が見込まれる」68.6%、2位「進出先近隣三国で製品需要が旺盛又は今後の拡大が見込まれる」25.9%、3位「納入先を含む、他の日系企業の進出実績がある」25.5%、4位「良質で安価な労働力が確保できる」16.0%、やっと5位で「税制、融資等の優遇措置がある」で、割合ではわずか8%です。

かん:ひっく!

まつお:実際のところ日本企業は、税制以外のことを重視して海外移転を決めているんですね。実際に、民主党政権の頃には多くの日本国内企業が海外に逃げてしまったのですが、なぜだと思いますか?

あんな:うーん。海外の方が物価が安いから?

まつお:そう、円高だからです。2011年の東日本大震災の後なんかは、大企業の孫請けなどの中小企業の経営者相手の講演会の懇親会なんてもうそれはそれは暗かった。彼らは技術に自信を持っているし、地域の雇用を作っている責任も自覚している。だから日本で続けたいけれど、円高で人件費も材料費も海外から見たら余分にかかってどうしても立ち行かないので、例えばタイとかに拠点を移そうかという考えになったわけですね。

あんな:法人税が高かったからじゃないんだ。

かん:法人税を上げるデメリットの真実味が怪しくなってきた……。

まつお:次にふたつ目、「設備投資しなくなるのでは?」という点。これは諸説あります。

あんな:税金が高いと企業が大きな買い物をしないから、設備が拡大しない=生産力も拡大しないっていう理屈ですね。

まつお:状況とタイミング次第では、この言い分は正しいです。ただ、日本の現状に当てはめた時にどうなるか。一度見方を変えて、消費税を上げるべきタイミングについて考えましょうか。

あんな:国全体がすごい景気良くて、みんなが買い物をたくさんするようになったら?

まつお:そうです。買われるものの量が生産量を上回ってしまうと、ものの値段がどんどん高くなります。そうならないために、消費税をあげて国民の消費を減らす。それが消費税の機能です。消費税は消費に対する「罰金」のようなものなんですね。

あんな:じゃあ今、ぜんぜん違うじゃ~ん!

まつお:景気調整、税徴収で大事なのは、「どの需要を抑えるか」を考えることです。

かん:ということは逆に、今の法人優遇施策って、設備投資をしやすいようにしてるわけですよね。生産力を上げやすくしている?

まつお:はい。ところがいざ景気対策に成功して世の中の人を全部雇って、機械も全部フル稼働したと仮定すると……。

まつお:昔みたいに人口が増える、つまり労働者が増えている状態だと、機械や工場を増やせば景気の天井がどんどん上がっていく。でも、人口が増えない今の状況では……?

あんな:機械や工場を増やしてもそれを使う人がいない!

かん:設備投資がいらないんだ!

まつお:はい、設備投資が大して必要ないのであれば、法人税を上げて設備投資を抑えることがインフレ抑制には必要になります。

あんなかん:お~~~!!!!(パチパチ)

まつお:(笑)。

あんな:法人税上げても問題なさそう、って思えてきた。

まつお:もちろん状況によっては話は違ってきます。景気が悪い時には設備投資は興ってほしい。その方が、機械の部品や鉄鋼やセメントや、いろいろなものが波及して売れて、景気が良くなりますから。設備が拡大しなくても更新投資は必要ですし。

僕としては、制度としては法人税を上げつつ、景気が悪い時は国が企業に設備投資補助金を出せばいいんじゃないかって思ってます。何もしないで法人税取られっぱなしになるくらいなら補助金をもらいつつ設備投資しようって思いますよね。必ずしも消費税を上げなくても、もっと税金をかける方法は他にもあるんです。

<ポイント>
Q.消費税を増やした分の税収はちゃんと使われてるの?(かん)
A.当初目的とされた“社会保障の財源”ではなく、“法人課税を緩めるための穴埋め”に使われているという指摘も(まつお)

Q.消費税の代わりに法人税を上げることはできないの?(あんな)
A.デメリットもあるが、今の経済状況では消費税よりも法人税を上げるべき。税収を上げる方法は、消費税増税以外にもある(まつお)

PROFILE

長田杏奈
長田杏奈

ライター。美容をメインに、インタビューや海外セレブなどの記事を手がける。趣味は花鳥風月。モットーは「美容は自尊心の筋トレ」。

かん

1989年、兵庫県生まれ。書籍『浪費図鑑』等を制作するオタク女子4人組「劇団雌猫」メンバー。11/6発売の新刊は『誰になんと言われようと、これが私の恋愛です』(双葉社)。K-POPアイドルSEVENTEENのジョシュアと宝塚歌劇団の芹香斗亜を応援中。消費税のない世界で生活をしたことがないので正直0%はピンとこない。それでも10%は多いと思う。

松尾匡

1964年、石川県生まれ。立命館大学経済学部教授。専門は理論経済学。著書に『この経済政策が民主主義を救う』(大月書店)、『ケインズの逆襲、ハイエクの慧眼』(PHP新書)、『そろそろ左派は〈経済〉を語ろう』(共著、亜紀書房)など。「反緊縮」の経済政策を公約に掲げた候補者を認定する「薔薇マーク」キャンペーン(Twitter: ‎@the_rose_mark)を実施。

INFORMATION

書籍情報
『そろそろ左派は〈経済〉を語ろう』

著者:ブレイディみかこ、松尾匡、北田暁大
2018年4月25日(水)発売
価格:1,870円(税込)
発行:亜紀書房
Amazon

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