アートの中でも、特にさまざまなテクノロジーと密接な関係を築くメディアアートの領域。近年ではバイオロジーなどのテクノロジーから作品を生み出すアーティストも登場しています。メディアアーティストたちにとっての「美」とは、どんなものなのでしょうか。
『She is BEAUTY TALK』は、資生堂が横浜・みなとみらいに新たに立ち上げた研究所「資生堂グローバルイノベーションセンター(S/PARK)」とShe isが新たにスタートさせたトークイベントシリーズ。She isのGirlfriendsがオーナーとなり、さまざまな業界・年齢・国籍の最先端で活躍するゲストとともに「美」を考えていきます。
第三回目のオーナーはメディアアーティストの市原えつこさん。ゲストは、バイオアーティストの清水陽子さんです。「S/PARK」は、イベントスペースやミュージアムの上階に、実際の資生堂の研究施設が入っており、まさに最先端のサイエンスを生活の中へ還元する施設。そんな場所にぴったりなお二人に、それぞれの思う「美」について、そしてメディアアートやバイオアートの魅力についてお話いただきました。
「清水さんはサイエンスとテクノロジーというテーマを『美しさ』に翻訳されていて、しかもそこが卓越されていらっしゃる」(市原)
アーティストと一言で言っても、テーマやアプローチが全く異なるお二人。まずはお二人の活動と、「美」に対する考えをお伺いしました。
市原:私はメディアアーティスト、妄想インベーターという肩書きで活動をしています。ちなみに、市原えつこは偽名です(笑)。主にデジタルアートの分野で活動しているんですが、私のテーマはその中でもちょっと邪道で。日本の土着的な精神性や民間宗教、風俗をテクノロジーと組み合わせるアート作品を作っています。『デジタルシャーマン・プロジェクト』というものを、最近いろんなメディアに取り上げていただいています。
市原えつこ『デジタルシャーマン・プロジェクト』。科学技術が発展した現代向けに、新しい弔いのかたちを提案する作品。家庭用ロボットに故人の顔を3Dプリントした仮面をつけ、故人の人格、口癖、しぐさが憑依したかのように身体的特徴を再現するモーションプログラムを開発。(YouTubeへ)
野村(She is):市原さんの作品は見た目もすごくインパクトがありますよね。清水さんの活動も教えていただけますか。
清水:はい。私はバイオテクノロジーを中心に、先端科学を用いた芸術作品を作っています。例えば『フォトシンセグラフ』という作品は、光合成のメカニズムを使うことによって、植物に高解像度のグラフィックプリントを行うというものです。
市原:清水さんの作品は美しいですよね。パッと見た瞬間に「わあ綺麗!」となる感動があります。バックグラウンドとして持っている生物系の知識や考え方を作品としてアウトリーチされているのがすごく面白い。
清水:ありがとうございます。以前、資生堂の研究員の方々と一緒にインスタレーション作品を製作したこともあって、今日はご縁を感じて嬉しいですね。
野村:今日のトークテーマの「美」は、すごく大きな概念です。そもそもお二人は「美」や「美意識」というものをどういう風にとらえていらっしゃいますか?
市原:「美」という概念って、実はすごく苦手なんです。だから今回のお話をいただいた時も「し、資生堂さん……しかもビューティトーク……!」と、緊張してしまったのですが(笑)、意外と私みたいに美を自分とは関係ない概念として捉えている女性も多いと思うんですよ。
野村:確かに、「美」をプレッシャーに感じてしまう女性は少なくないですよね。
市原:2011年頃に、メディアアーティストの真鍋大度さんがAXISギャラリーで「作品を作る動機には、Beautiful、Useful、Interestingの志向があって、作品自体はそれらがオーバーレイしながらできている」というようなお話をされていた記憶があります。それを聞いて、なるほど、自分は面白い=Interestingに特化した志向なんだなと納得したところがあったんです。それから美しさは自分の専門外だなと切り離して、外に置いちゃった感じがあるんですね。もちろん作品に必要な美的な尺度はコラボレーターと一緒に考えはするんですけど、今回トークをさせていただくことが改めて「美」について考えるきっかけになりました。
野村:今回清水さんをゲストにお呼びした理由も、そのあたりにあるのでしょうか。
市原:そうなんです。清水さんはサイエンスとテクノロジーというテーマを「美しさ」に翻訳されていて、しかもそこが卓越されていらっしゃる。それで、今回ぜひお話を伺えたらと思ったんです。それにミーハーかもしれないんですが、バイオアート自体も今ちょうど興味がある分野で。日本でバイオアートをやってらっしゃる方ってすごく希少なんです。
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