命あるものは美しい。市原えつこと清水陽子が語るバイオアートの世界

命あるものは美しい。市原えつこと清水陽子が語るバイオアートの世界

微生物は培養すると可愛い。ニッチな関心からアーティストへ

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テキスト:阿部洋子 撮影:大畑陽子 編集:竹中万季
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「地球という惑星の中で、ありとあらゆる生き物がインタラクションをしていて、それらすべてが美しいと思うんです」(清水)

大学では生物化学を専攻していたという清水さん。一見アートと接点がなさそうなジャンルの中で、「美」を見つけ出し芸術作品へ昇華するのには、自然へのユニークな視点がありました。

清水:もともとアートも大好きだったので、大学進学の際には専攻をアートにするかサイエンスにするかすごく悩んだんです。けれど、やっぱり自然の美しさって人間が作った何よりも圧倒的に美しく、機能的。命あるものしか持っていない、みずみずしい美しさをもっと知りたいと思って、大学はサイエンスを選びました。

市原:どんな研究をされていたんですか? 医療や、薬学とか?

清水:そうですね。医療、薬学、生態系の基礎研究をする研究棟にいたときに、私はシャーレの中に広がる微生物のコロニーが綺麗だなとか、そっちの方へ行ってしまって……。

市原:字面だけ見ると、なかなかヤバい方ですね(笑)。

清水:研究のデータを取るというよりも、研究対象の美しさばかりに目がいって、実験の精度は非常に低かったんですよ(笑)。本職の研究者としてはちょっとどうかと思うんですが、それをいかに美しくピックアップするか、演出するかということの方が向いていたんですね。今はその経験が役に立っていますね。

市原:以前、麹菌や微生物を培養するとすごく可愛いというお話を清水さんから聞いたとき、めちゃくちゃ才女の清水さんの変態性を垣間見たようで親近感が湧きました(笑)。すごくニッチな美意識をお持ちですよね。

清水:あの時は麹菌の培養にすごくハマっていて、すごく綺麗で可愛いなぁって毎日思っていたので、つい(笑)。

野村:可愛いというのは見た目が……?

清水:そうです! 動いたりはしないんですが、微生物によってシャーレの中で培養した時の広がり方や増殖の仕方が違うんです。麹菌はふわふわしながら、しかも正確に自分の思っていたパターンを構築するんですよ。

市原:多摩美の久保田晃弘先生から伺ったのですが、もともと生物工学って美術の世界ではほとんど使われていなかったそうですね。そういうものを、最終的に美しい形に変換することってすごく難しいことのように思えます。清水さんはどういう審美眼でそれを変換しているんでしょうか。

清水:幼少期を過ごしたのが京都だったのが大きいのかな。京都って、自然の美しさと、人間の文化の美しさが共存している場所ですよね。そういうところで育ったので、自然や生き物と、人の手で作られた技術の美しさをあまり分けて考えてこなかったんですね。基本的に私が作品で扱っているのは、ほとんどが自然現象のようなもの。自然現象って、DNAや細胞、微生物のミクロの世界から、植物や人間を含む動物の個体まで本当に無数に広がっていて、それがまた集団として集まって、一個のエコシステムになっていたりもする。地球という惑星の中で、ありとあらゆる生き物がインタラクションをしていて、それらすべてが美しいと思うんです。

市原:清水さんの世界を見るフィルター、インストールしたいですね(笑)。

「植物のコミュニケーションの機能って、すごく優れているんですよ。というか、植物自体が最強の生き物なんです(笑)」(清水)

オーストリアが誇る世界最高峰のメディアアートの研究機関「アルスエレクトロニカ」。市原さんは今年、この研究機関の国際アートフェスティバルに参加されたそう。そこで目にしたエキサイティングなバイオアートについて、お話をうかがいました。

野村:えつこさんは、今年オーストリアのリンツ市で開催された、メディアアートの国際フェスティバル『アルスエレクトロニカ・フェスティバル』へ行かれたそうですね。いかがでしたか?

市原:清水さんも2015年に参加されているのでご存知かと思うのですが、アルスはめちゃくちゃオープンで面白い機関で、私は2018年に初めて出展させていただいたんです。今年も招待をいただいて参加してきたのですが、全体的にバイオアートが盛り上がっていたのが印象的でした。しかもどれもやばい……(笑)。お土産話的にいくつかご紹介したいと思います。

野村:ぜひ、現地の声を。

市原:今年のフェスティバルは「Out of the Box - デジタル革命の中年の危機」というテーマだったんですが、裏テーマ的に人間中心主義から離れようという流れがあったそうなんです。いわゆるHuman Centered Designのように、人間をベースにしてデザインを考えるということではなく、地球上の人間以外の生命とコミュニケーション、インタラクションをしようということですね。実際にそういう作品が多かったです。

野村:バイオアートとも親和性のある考え方ですよね。

市原:最初にご紹介したいのは『One Tree ID』という作品です。実は植物って集合体としての知性を持っていて、相互にインタラクションをして情報交換をしているそうなんです。

Agnes Meyer-Brandis『One Tree ID』(Webサイトへ)

野村:かなり驚きです。どうやって行っているんですか?

市原:代表的なのは匂い、つまり化学物質を使っての情報交換です。この作品は、植物の根っこや茎といったそれぞれの部位に対して、人間がインタラクションできる化学物質が置いてあって、それを植物の方に近づけると、計測器が反応するというものでした。これはすごく注目を集めていましたね。清水さんに専門家としての見解を聞きたいです。

清水:植物のコミュニケーションの機能って、すごく優れているんですよ。というか、植物自体が最強の生き物だと思っています(笑)。私も研究対象として一番好きですね。植物って動いてないように見えるので、何もしていないんじゃないかと思われるかもしれないですが、彼らは様々な化学物質によって情報伝達、防御、攻撃などもしたりもしているんですよ。

市原:え! 攻撃もしてるんですか?

清水:そうなんです。動けない植物にとって最も脅威なのは、何かに攻撃される、つまり虫や動物などに食べられちゃうことです。そのための機能が一番発達していて、例えば虫が葉っぱにちょんとついただけで、植物は「今、触られたな」とわかるんです。食べられたときには「かじられた」という情報が体内全体に伝わって、「この葉っぱが攻撃されたよ」と他の葉っぱにも伝達されます。それを受けて噛んだ虫が弱るような物質を出すこともあるし、あるいは自分を食べる虫の天敵となるような虫を呼び寄せる化学物質を出すこともあると言われています。

市原:何気ない風景としてみている植物ですけど、それが様々な生物を牛耳っていたりするのかもしれない。そんなお話を聞くとゾワッとしますね。怖い(笑)。

野村:植物への見方が変わりますね……!

PROFILE

市原えつこ
市原えつこ

メディアアーティスト、妄想インベンター。早稲田大学文化構想学部表象メディア論系卒業。日本的な文化・習慣・信仰を独自の観点で読み解き、テクノロジーを用いて新しい切り口を示す作品を制作する。アート文脈を知らない人も広く楽しめる作品性から、国内の新聞・テレビ・Web媒体、海外雑誌等、多様なメディアに取り上げられている。 主な作品に、大根が艶かしく喘ぐデバイス《セクハラ・インターフェース》、家庭用ロボットに死者の痕跡を宿らせ49日間共生できる《デジタルシャーマン・プロジェクト》等。Yahoo! JAPANのデザイナーとして勤務後、独立し現在フリーランス。 第20回文化庁メディア芸術祭にてエンターテインメント部門優秀賞、世界的なメディアアートの祭典アルスエレクトロニカで栄誉賞を受賞。

清水陽子
清水陽子

科学と芸術を融合するテクノロジーやインスタレーションをグローバルに研究、制作、発表。アメリカで育ちNYのアートに影響を受ける。大学では生化学(Biochemistry)を専攻。制作会社においてクリエイティブ・ディレクター兼コンサルタントとしてキャリアをスタートし、現在は自身のラボ「+1e」においてバイオテクノロジーなどの先端科学を用いたデザインを研究しながら、ギャラリー、ミュージアム、企業、地方自治体と協業。国際放送局でのパーソナリティや、TED、FITC、アルスエレクトロニカなどのグローバルイベントにおけるトークやパフォーマンスなど、メディアを通じた活動の他、各種芸術賞を受賞。国際フェスティバル「科学と芸術の丘」ディレクターおよびイノベーション・アワードの審査員も務める。

INFORMATION

イベント情報
『開かれた可能性——ノンリニアな未来の想像と創造』

2020年1月11日(土)〜3月1日(日)
場所:東京都 NTTインターコミュニケーション・センター [ICC] ギャラリーA
出品作家:市原えつこ(日本)、インターミッション(シンガポール)、ザイ・タン(シンガポール)、葉山嶺(日本)、タナチャイ・バンダーサック(タイ)、やんツー(日本)、リンタン・ラディティヤ(インドネシア)、ワフト・ラボ(インドネシア)、ヘリ・ドノ(インドネシア)

ICC | 開かれた可能性——ノンリニアな未来の想像と創造

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