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政治1年生のための社会運動。長田杏奈&かん(劇団雌猫)が社会学者に取材

政治1年生のための社会運動。長田杏奈&かん(劇団雌猫)が社会学者に取材

香港、気候変動、#KuToo。デモと自分の距離を考える

2020年1・2月 特集:これからのルール
インタビュー・テキスト:かん 撮影:疋田千里 イラスト:鈴木衣津子 編集:守屋佳奈子、野村由芽 撮影協力:トラットリア アマルフィターナ
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社会運動の「危険度」と「効果」は比例するの?

あんな:具体的にどういうところが怖そうって思うの?

かん:そうだなー、勧誘が激しかったり、身元が割れて何かされそうってイメージを持ってますね。昔、家族が家の近くで、当時の政権に反対する団体のビラをもらってマンションのエントランスのゴミ箱に捨てたら、それ以降何度かポストに似たようなビラが入っていたことがあって。

とみなが:私にも同じような思い出はありますよ。大学入試の日、学生団体の人に声をかけられて、学費引き下げに関する署名に協力したんです。でも帰ってから、「もしや合格を取り消されるんじゃないか……」とすごく心配しました。今考えるとそんなはずないんですけどね。

あんな:ミステリー作品に、公安とかFBIがデモ参加者の写真撮ってデータベース化してる描写が出てくるんだけど。危険人物としてマークされたり、何か事件があったときに疑いをかけられたり……。それはフィクションの世界の話としても、今だとSNSで不用意にさらされる心配もある。仕切りがいいデモだと、報道陣対策で写真OKゾーンとNGゾーンが分かれてたりするけど。

かん:そうなのか。アイドルの「撮可タイム」がある現場と似てる(笑)。

あんな:私自身は、去年の春に、性暴力反対を訴える「フラワーデモ」で、遅咲きのデモデビューを果たしまして。だから、社会運動に対してアレルギーはないんだけど、周囲の反応にびっくりすることはある。

例えば、母の同僚から「あんなさんはデモに行くタイプだとは思いませんでした」と言われたり、インタビューでフラワーデモについて訊かれて話したのに、原稿を見たら全部削除されてたり。媒体だけでなく、あなたにも迷惑がかかる恐れがあるからって。私もいっちょまえに検閲されるようになったか! と、ちょっと焦りました。

とみなが:なぞの忖度……。実際に「社会運動なんかに関わったらあなたに悪い影響があるよ」と言われて踏みとどまってしまった人も多くいます。そういうときは「少なくとも私には迷惑かからないから!」ときちんと言っていくのが大事ですね。

あんな:次からはそうします!

かん:漫画だと『ベルサイユのばら』(池田理代子著、集英社)とか、ミュージカルだと『1789-バスティーユの恋人たち-』や『スカーレット・ピンパーネル』だとか、革命を題材にした作品って日本でもすごい人気じゃないですか。かっこいいから私も大好きで。でも革命って、実際はわたしが怖がってるはずの「社会運動」なんですよね。フィクションだとこうも憧れるのに、自分ごとになると身近じゃなく、抵抗感があって不思議です。

あんな:オスカル様は、後世では英雄と語り継がれるかもしれないけど、その時その場所では世を騒がせるアンチ扱いされちゃうよね。貴族社会を裏切ったアンチ。

とみなが:まあ元来、革命家というのは社会に対して反旗をひるがえす存在ですからね。ちなみに、社会運動はカウンターカルチャーとの繋がりが強くて、ヒップホップ(*4)がいい例なんです。白人文化に対するカウンターとして、黒人のストリート・カルチャーから生まれたというのは有名な話ですよね。
*4……1980年代、ニューヨークに住む黒人の若者たちによって作られた、音楽やダンスなどのサブカルチャーのスタイル。DJ・ラップ・ブレークダンスなど。

かん:ヒップホップも社会運動とつながっているのであれば、『ヒプノシスマイク』のルーツも社会運動と言えるのか……。『ヒプマイ』は女が覇権を握った世界で、兵器の代わりに言葉を使って男たちが戦う設定!

あんな:そういや、かんちゃんが「社会運動というと、あさま山荘事件(*5)を思い出して怖い」って言うから、「そんなに~?」って改めていろいろ読んでみたんだ……。やっぱり震え上がるほど怖かった。

日本でも、今からは想像もできないくらい社会運動が盛り上がった時期があったんだよね。60年代に学生運動がめっちゃ盛り上がったけど、結局何も変わらず「人がたくさん死んだ末にあさま山荘事件で幕引き」という負のイメージが焼き付いているのかな……。鉄球をぶら下げたクレーンで、立てこもり犯のいる山荘をバーンバーンと崩してさ。
*5……1972年、武装した左翼組織「連合赤軍」のメンバー5名が、長野県軽井沢町の保養所「浅間山荘」に、人質を連れて立てこもった事件。警官隊と銃撃戦を展開し、9日間の籠城の末、5人全員が逮捕された。警察官2人と、民間人1人が死亡した。

かん:あ、母もその中継を家族でリアルタイムで観たって言ってました。すごく怖かったって。私も、「昭和の凶悪犯罪事件!」みたいなテレビの特番で何回もその映像を目にしたし。

とみなが:あさま山荘事件の報道は、視聴率が90%近くあったそうです。ただ、そこに到るまでには、若い人々が社会を変えようとする背景や、組織が過激化してしまう過程がきちんとあった。社会運動の結果としてではなく、凶悪事件としてまとめたメディアの責任は大きいと思います。

あんな:平成以降、そうやって社会運動家=犯罪者=怖いという刷り込みが形成されていったんだ。

かん:あの事件を鎮圧した警察官はヒーローで、彼らが現場で食べていたあの日清カップヌードルを、平和な世界で私たちは食べている……みたいな、英雄譚に自分たちの歴史が紐づいている感覚。

とみなが:平成初期生まれの子を持つ親御さんというと、今60歳前後でしょうけれど、ちょうどそこは「あさま山荘事件」の頃に小中学生だった世代。少し例えとしてはオーバーすぎるかもしれませんが、私たちが「オウム真理教」の報道を見て「オウム真理教って怪しいし、やっぱ怖い」と感じてしまったように、家族みんなで社会運動にネガティブな印象を持っていてもおかしくないですね。

かん:でも、怖いと思うから参加することに気が引けるけど、死なない程度に~……怖くないものだけ~……ってぬるくやっていても主張は聞いてもらえないですよね?

とみなが:いえ、危険度と発言の効果は比例しませんよ。例えば、2014年に集団的自衛権容認への抗議として新宿南口で男性が焼身自殺を図ったという報道がありました(ハフィントンポスト/新宿駅南口で男性が焼身自殺図る? 集団的自衛権の行使容認に抗議か)。そのかたは重傷を負ってしまいましたが、結局彼の主張は通っていません。

あんな:確かに。じゃぁ反対に、よいこのお手本になるような穏健な活動で社会を変えた事例はありますか?

とみなが:最近の例だと「ブラック校則をなくそう! プロジェクト」でしょうか。黒染めの強制や水分補給の禁止、下着の色を指定する、といった「ブラック校則」の調査研究を行って、廃止を求めていますよね。荻上チキさんと内田良さんの共著『ブラック校則』が出たり、およそ6万名の署名を文部科学相宛に送ったりしていて、最近では区議会で取り上げられたり、校則の一般公開の動きがあったりもします。報道を見る限り、彼らの運動の過程で、誰かが重傷を負ったり逮捕されたりといったことは、今のところありません。

あんな:社会を震え上がらせるほどの圧やインパクトがなければ現状を変えられない、っていう思い込みはいらないんですね。その辺の誤解がとければ、社会運動ももうちょっと取っつきやすくなりそうだね。

<ポイント>
Q.「“怖くてキケン”な運動をしないと、社会は変えられない?」(かん)
A.「社会運動の危険度と効果は比例しない。“ブラック校則をなくそう! プロジェクト”など、身を危険にさらさずに効果的をあげた運動は多い」(とみなが)

PROFILE

長田杏奈
長田杏奈

1977年、神奈川県生まれ。ライター。昨年の3月に性暴力に反対する「フラワーデモ」に参加して以来、手帳にデモの日を書き込むのが習慣に。「このままじゃイヤ!」と思ったことに対して声をあげれば、仲間が見つかり現実を変えるためのヒントが見つかると学んだ。著書に『美容は自尊心の筋トレ』(Pヴァイン)。

かん

1989年、兵庫県生まれ。書籍『浪費図鑑』等を制作するオタク女子4人組「劇団雌猫」メンバー。新刊は『誰になんと言われようと、これが私の恋愛です』(双葉社)。K-POPアイドルSEVENTEENのジョシュアと宝塚歌劇団の芹香斗亜を応援中。デモには怖いイメージがあるが、署名やクラウドファンディングにはあまり抵抗がない。現地に赴かずに出来ることがあるならたくさん協力したいと思っている。

富永京子

1986年生まれ。日本学術振興会特別研究員などを経て、現在、立命館大学産業社会学部准教授。社会学的視角から、人々の生活における政治的側面、社会運動・政治活動の文化的側面を捉える。著書に『社会運動のサブカルチャー化』(せりか書房)、『みんなの「わがまま」入門』(左右社)など。

INFORMATION

書籍情報
『社会運動のサブカルチャー化』

著者:富永京子
2016年10月発売
価格:5,170円(税込)
発行:せりか書房
Amazon

書籍情報
『みんなの「わがまま」入門』

著者:富永京子
2019年4月30日(火)発売
価格:1,925円(税込)
発行:左右社
Amazon

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