She isの更新は停止しました。新たにリニューアルしたメディア「CINRA」をよろしくお願いいたします。 ※この画面を閉じることで、過去コンテンツは引き続きご覧いただけます。
政治1年生のための社会運動。長田杏奈&かん(劇団雌猫)が社会学者に取材

政治1年生のための社会運動。長田杏奈&かん(劇団雌猫)が社会学者に取材

香港、気候変動、#KuToo。デモと自分の距離を考える

2020年1・2月 特集:これからのルール
インタビュー・テキスト:かん 撮影:疋田千里 イラスト:鈴木衣津子 編集:守屋佳奈子、野村由芽 撮影協力:トラットリア アマルフィターナ
  • SHARE

そもそも、デモって意味あるの?

かん:怖くない社会運動もあるんだってわかってきました。そうなると、香港のデモの見方も少し変わってくるなあ……。学生運動とか香港デモとか、死者や負傷者が出ている運動のイメージが強かったけど、そうじゃないものもあるんですよね。そもそも、デモって具体的にどんなことやってるんですか? プラカード持って練り歩く、くらいのイメージ。

あんな:私は「フラワーデモ」しか行ったことないけど、練り歩かないよ。

かん:歩かないんですか!?

あんな:なんと、歩きません。「スタンディング」っていうみたいなんだけど、みんなで集合して立つ。フラワーデモだからお花を持ってね。プラカードを持っている人もいるけど、持ってない人の方が多いかも。東京の場合は、被害体験や日頃の活動についてのスピーチを聞いたりする。歩かず、怒鳴らず、お話するんだよ。

とみなが:そういった形の運動も多く見られますよね。よく「ピースフルなデモ」なんて形容したりします。

かん:デモには通したい主張があるわけじゃないですか。そんな風に仲間内で話し合うだけだと、セラピーの効果はあるかもしれないけれど、主張を通す効果はないんじゃないですか……?

とみなが:そうですね。それでいうとデモそのものには意味なんてありません

かん:!?

とみなが:ただ、それはあくまで、「デモの意味」を「デモで制度が変わること」と考えた場合です。みんなで話したり、歩いたり、プラカードを掲げて座り込むといった行動だけで制度が変わることはありませんからね。

しかし、フラワーデモを周りで見ている人には「こういう問題もあるんだ」と認識する機会になるでしょうし、デモに参加する人数がだんだん増えてくると、報道陣が来て大きく取り上げられたり、票田(*6)になると見込んだ政治家が様子を見に来て支援してくれたりと、国や団体にも主張が届いて、時には受け入れざるを得ない状況になります。これがデモの効果です。
*6……選挙で、ある候補者への得票が多いと予想される地域を田地にたとえた語。

あんな:そういやフラワーデモにも、初回から報道陣が来て記事になったり、政治家が来たりしていました。最初は東京と大阪だけだったけど、回を重ねるごとにいろいろな地方に広がって29都市で開催されるまでになったの。2019年の3月11日にスタートして、年末の12月11日にはNHKのEテレで「フラワーデモ全国中継!」があった

かん:デモで直接何かを変えるんじゃなくて、変わるきっかけを作るってことか。

とみなが:あくまで私の考えですが、声を上げるだけで、すぐに何かを変えられると期待し過ぎない方がいいですね。法律や制度が変わる、といった大きな変化がおきなかったとき、無力感につながって、燃え尽きてしまうこともあると思います。

これもやっぱり私の意見ですけれども、なぜ日本に住んでいる人が社会運動に参加しないかというと、自分の主張で社会を変えた経験・意識が希薄だから、有効性を感じられていないからじゃないでしょうか。その一方で、社会運動に期待をかけすぎてしまう面もある。だから、うまくいかないと「やっぱりだめか……」と感じてしまう。ただ、さっきも言ったとおり、デモにしろ、署名にしろ、あくまできっかけづくりで、そう捉えたら「意味がある」んです。

あんな:結果を求めすぎず、違和感や主張を無視されないための道具として、うまく使うということですね。

私はフラワーデモをきっかけに、性教育についての勉強会に参加したり、性暴力に関する刑法改正のロビー活動をやっている団体を知って衆議院会館まで見学に行ったりしました。最初は「いても立ってもいられないから集まろう!」みたいな感じだったけど、問題意識を同じくする人が集まる場所に行くと、「このスイッチを押せば、現実が変えられるのかも」みたいな力点が浮かび上がってきて、無力感から解放されました。

かん:成功体験ってやつだ……いいな~楽しそうに思えてきた。

あんな:特に、政治家が動くと法律や仕組みが変わるから、守れる人も増える。「この問題にコミットしてくれたら、一票投じまっせ」って、票田アピールしたい♡

とみなが:社会運動とは少し異なるのですが、政治家に、「この人たちに協力しておくと選挙に有利そうだな~」って思わせるには、圧力団体やロビイングについて学ぶのもいいかもしれません。

かん:圧力団体ってなんなんですか? よく聞くけど……。

とみなが:政党や政治家に対して圧力をかけて、利益を守る集団のことです。日本医師会とか経団連(一般社団法人 日本経済団体連合会)、アメリカの全米ライフル協会なんかは有名。例えば全米ライフル協会は、もちろん銃規制に反対しています。自分たちで圧力団体を作るかどうかはともかく、自らの権利を集団で主張して、数を見せ、政治家と交渉しつつ継続的に国や政府に圧力をかけていくやり方からは、学ぶところが多いのではないかと思います。

<ポイント>
Q.「正直、デモって意味あるの?」(かん)
A.「デモ行為そのもので社会を変えられるわけではない。しかし政治家やマスコミを巻き込むことで“変えるきっかけを作る”ことができる。うまく活用すれば、自分たちの主張を通しやすくなる」(とみなが)

PROFILE

長田杏奈
長田杏奈

1977年、神奈川県生まれ。ライター。昨年の3月に性暴力に反対する「フラワーデモ」に参加して以来、手帳にデモの日を書き込むのが習慣に。「このままじゃイヤ!」と思ったことに対して声をあげれば、仲間が見つかり現実を変えるためのヒントが見つかると学んだ。著書に『美容は自尊心の筋トレ』(Pヴァイン)。

かん

1989年、兵庫県生まれ。書籍『浪費図鑑』等を制作するオタク女子4人組「劇団雌猫」メンバー。新刊は『誰になんと言われようと、これが私の恋愛です』(双葉社)。K-POPアイドルSEVENTEENのジョシュアと宝塚歌劇団の芹香斗亜を応援中。デモには怖いイメージがあるが、署名やクラウドファンディングにはあまり抵抗がない。現地に赴かずに出来ることがあるならたくさん協力したいと思っている。

富永京子

1986年生まれ。日本学術振興会特別研究員などを経て、現在、立命館大学産業社会学部准教授。社会学的視角から、人々の生活における政治的側面、社会運動・政治活動の文化的側面を捉える。著書に『社会運動のサブカルチャー化』(せりか書房)、『みんなの「わがまま」入門』(左右社)など。

INFORMATION

書籍情報
『社会運動のサブカルチャー化』

著者:富永京子
2016年10月発売
価格:5,170円(税込)
発行:せりか書房
Amazon

書籍情報
『みんなの「わがまま」入門』

著者:富永京子
2019年4月30日(火)発売
価格:1,925円(税込)
発行:左右社
Amazon

政治1年生のための社会運動。長田杏奈&かん(劇団雌猫)が社会学者に取材

SHARE!

政治1年生のための社会運動。長田杏奈&かん(劇団雌猫)が社会学者に取材

She isの最新情報は
TwitterやFacebookをフォローして
チェック!

RECOMMENDED

LATEST

MORE

LIMITED ARTICLES

She isのMembersだけが読むことができる限定記事。ログイン後にお読みいただけます。

MEMBERSとは?