お客さんからの声が届いてからわずか数週間で販売開始。オーストラリア森林火災へのチャリティーになるコアラ型のソープ
お客さんから届いた声を拾ったショップスタッフの働きにより、生み出されたアイテムがある。2019年から続くオーストラリア森林火災に対する限定チャリティー商品「オール ザ ワイルド シングス ソープ」は、購入すると消費税を覗く全額が、ラッシュが立ち上げた「Bush Animal Fund」を通じて大規模森林火災の被害を受けた野生動物の保護や、生息地の回復活動を行う動物救援団体に寄付される仕組みだ。ショップに訪れるお客さんから「ラッシュで何か支援をできないか」という声が届いたことから始まり、世界中あちこちの国の担当者が同時に動き、提案から製造、販売までわずか数週間あまりのスピードだった。
発売すると大きな反響があり、ソープは多くのショップで発売初日に完売。森林火災のニュースを見て胸を痛めながらも、支援についてどうしたらいいかわからなかった人たちが店を訪れたという。「ラッシュがやっているチャリティであれば、ちゃんと届くだろう」という言葉もいただいたようだ。
また、各ショップのInstagramでは、小さな子供がコアラのソープを買いに来たという投稿も。テレビでは遠い国の出来事、自分とは隔たれたことのように語られることの多い中で、そのコアラのソープを買えば支援に繋がるということが小さな子供でもシンプルに理解でき、例え言葉を介さなくても貢献できる。年齢も性別も、社会的な背景や言語も関係なく伝えることができるのだということを今回実感したのだそう。
CSR部はなく、ショップスタッフ一人ひとりのアイディアで行動する。気候変動マーチやプライドパレードに参加する理由
驚いたことの一つは、ラッシュは社会に対する様々な取り組みを行なっていながらも、社内にはCSR部がないということ。「何か良いことをやろう」と会社がトップダウン的に指令を出すのではなく、ショップスタッフも含めたスタッフが、それぞれ一人一人のアイデアで行動しているのだという。
例えば昨年、スウェーデン出身のグレタ・トゥーンベリさんが始めた学生たちによる気候変動危機に対するストライキを発端とするグローバル気候マーチについても、ラッシュは日本を含めた世界中の店舗でアクションを起こした。2019年の9月20日、世界中のラッシュ全店舗をクローズ。オンラインショップやオフィスでの業務も一時中断し、多くのスタッフが自らグローバル気候マーチに参加した。
気候変動問題の緊急性を世の中に訴えるために学生たちが本業である勉学を中断してまで行動を起こしているなかで、ラッシュは企業として若者たちの訴えに賛同した。ラッシュは路面店だけでなく、デパートや駅構内などさまざまな場所に出店している。今回、日本の全店舗でのクローズは初めての試みであり、ラッシュ社内だけでなく、テナントや他の会社にもさまざまな協力を得た上で行われた。
また、2015年に渋谷区が同性パートナーシップ制度を発表する前から、LGBTQアライとして当事者だけの問題ではないことを表明するためにプライドパレードへの参加も続けている。LGBTQについて可視化されていない性的マイノリティーが存在していることと向き合い、多様性を認めて誰もが暮らしやすい社会にするために、企業のアクションとして参加している。
『東京レインボープライド』では過去にはブースを出展したこともあるが、ラッシュは、マーケティングのためにパレードに参加しているわけではない。これまでも、東京に限らず100人にも満たない参加人数の地方のパレードへも、各地のショップスタッフがすすんで参加している。
美しさに犠牲はいらない。動物実験の妥当性に疑問を投げかけ、信念をビジネスの原動力とする
現在、中国に化粧品を輸出する場合には、中国国内の試験機関で化粧品に対し動物実験を実施することが義務付けられている。そのため、ラッシュはアジア最大のマーケットであっても中国には出店をしていないのだ。動物実験に反対するラッシュの理念に反するため、信念をビジネスの原動力とするぶれない姿勢がそこにはある。
2012年に設立された『LUSH PRIZE』は、動物実験の廃止を目指し、動物を犠牲にしない毒性学の研究や代替法の開発を目指す個人や団体を称える、動物実験代替法の分野では最大規模の基金だ。動物愛護の視点もありながら、何よりも人が使う商品や原材料の安全性は、人と種差のある動物によって確証されることはないと考えている。動物実験の妥当性は6~7割程度しか保証できないという説もあり、そのような不確かな数字よりも確実に安全性が確認される方が良いということ、動物で検査をすれば安全という思い込みをなくし、科学の進化を進め、動物実験をしなくても安全で効果的な化粧品を作ることができ出来ると信じている。
美しさに犠牲はいらない。その思いを一番大切にしながら、動物実験をしていない取引先からのみ原材料や資材を購入し、化粧品のための動物実験廃止に向けたコミュニケーションを継続している。
ラッシュが制作した動物実験反対について説明したムービー
間違って理解して欲しくないのは、ラッシュがやっている色々な活動を消費者に強制することは一切ないということ
先日、LUSH渋谷駅前店を訪れてみると、ヒジャブを巻いたムスリムの女性たちのグループと、制服を着た日本の女子高生たちが楽しそうに買い物をしている姿があった。
創立者の一人、マーク・コンスタンティンは、「ラッシュの商品を求める消費者は、ラッシュの取り組むさまざまな問題について知らなくてもいい。商品を楽しみながら自然と使っている背景で、自然にそういう活動に関わって、楽しんでいただければいい」と考えている。
「世界で起きている問題について毎日考え続けることを強要するのではなく、変化を起こさなくてはいけないタイミングがきたら行動できるように、一人ひとりができることを伝えていきたい」。考えるきっかけを店舗をメディアにして伝えるのがラッシュ流のやり方なのだ。
ラッシュが取り組む社会へのアクションは特別なことではない。様々な情報が溢れる中で、疑問を持ち、自分に問い直すこと。情報を色々な角度で見ることで自分なりの指針ができて、それをベースに消費の行動やライフスタイルそのものが一人一人違ったものになっていく。既存のルールに乗っからずに自分の頭で考えてみよう。楽しみながら。
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