34歳の世界最年少首相も誕生。国民がルールを作るフィンランドから学ぶ

ヘルシンキに移住し夫婦でシェフをするminoさんが綴る

2020年1・2月 特集:これからのルール
テキスト・撮影:mino 編集:竹中万季
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日本で暮らしていると「あたりまえのもの」「変えられないもの」として存在しているように感じられるさまざまな「ルール」。少しずつ変化していっているものもあれば、いまの時代に合わず、これから自分たちの手でつくり変えていくべきものもたくさんあるように感じられます。国外で暮らす方々に、法律や制度のようなものからなんとなく「こうあるべき」という空気まで、いま暮らしている場所でのルールの捉え方や日本で存在しているルールとの違いについて4つの質問を投げかけました。

1.今暮らしている場所はどのような場所ですか?
2.今暮らしている場所で、ルールを変えていくときに人々はどのようなことを行っていますか?
3.日本にはないけど日本にあったらよいのではないかと思う/社会を運営していく上でポジティブに働いているとおもうルールを教えてください。
4.「こうあるべき」というムードを感じることが多い日本。あなたが暮らしている場所にはこうあるべきといったムードはありますか? あるとしたらそれはどういうトピックに対して象徴的に存在しており、それに対し人々はどう向き合っていますか?

二人目はフィンランドの首都ヘルシンキに移住し、夫婦ともにシェフとして働くminoさん。ジェンダー・ギャップ指数や世界報道自由度ランキングなどでも常に上位にランクインするフィンランドは、先日、世界最年少首相が誕生したことも話題になりました。国民がイニシアティブを取って自らルールや法律を作っていく土壌があるというフィンランドでは、どのような考え方が根付いているのでしょうか。

34歳の世界最年少首相も誕生。連立政権の4党首すべてが女性の国

今暮らしている場所はどのような場所ですか?

北欧諸国の一つであるフィンランドの首都、ヘルシンキで暮らしています。フィンランドの人口は530万人ととても少なく、経済規模も小さいですが、一人当たりのGDPなどを見ると豊かで自由な民主主義国として知られ、2014年のOECD(経済協力開発機構)のレビューでは「世界でもっとも競争的であり、かつ市民は人生に満足している国のひとつである」と報告されたそうです。

2019年末には34歳と世界最年少で首相となったサンナ・マリン首相の誕生でも話題となりました。マリン首相が同性カップルの両親を持つ貧困家庭出身で、かつてはスーパーマーケットのレジ打ちの仕事をしていたこと、またマリン首相をはじめ、現政権の他の連立政権の4党首すべてが女性(うち3人は35歳以下)であることでも注目されました。

2020年版のジェンダー・ギャップ指数ではアイスランド、ノルウェーに次いで世界3位、2019年の世界報道自由度ランキングでは2位、腐敗認識指数は3位と、男女平等の意識の高さ、表現や報道の権利に関して国家による介入の少なさ、政府・政治家・公務員などの公的分野での透明度の高さにおいて世界最高レベルの評価が与えられています。

また、国土における森林率は73%と先進国の中で最も高く、湖の数は18万以上にも及びます。国連が122か国でおこなった水質調査では、フィンランドは世界第1位の水質を持つことが明らかになりました。自然の中で過ごす時間がとても多いことから、自然を愛する国民性も知られています。

福祉大国と呼ばれ、家族や友人と過ごす時間や趣味に充てる時間などの余暇を充実させるべく、様々な公的制度が整備されています。一般的な会社員の場合、勤務時間は8時間、退社時間は16時、遅くても17時まで。夏は白夜でヘルシンキでは21時頃になっても太陽が沈まないため、仕事後に海に泳ぎに行ったりピクニックを楽しむことができます。有給休暇は1年間で1か月。育児休暇に関してはマリン政権によって新制度に改められ、現行の母親計4.2か月・父親計2.2か月から両親にそれぞれ6.6か月の育休取得が認められることとなりました。さらに、妊婦に認められる産休期間は1か月延長されます。

また、義務教育から高等教育が無料で、大学や大学院にも学費を大きく負担することなく進学することができます。給食も無料です。国民全体に平等な教育の機会と高いレベルの教育を保証することを国家の指針とする「生涯学習」という考え方が根底にあることもあり、大学への入学平均年齢は日本より高い23.5歳。いくつになっても学び直せるという意識が浸透しているため、30歳を過ぎてから大学に入り直したり、大学院に進学する人も少なくはありません。就職活動に年齢の足かせがないため、キャリアチェンジへのハードルが低いことも特徴です。

市民によって同性婚合法化も牽引。国民がイニシアティブを取って自らルールや法律を作る

今暮らしている場所で、ルールを変えていくときに人々はどのようなことを行っていますか?

「結婚」への考え方や同性婚を例にとってみましょう。フィンランドでは1970年頃から「結婚」という制度に懐疑的な態度を示す人が増え始め、2014年の統計では「20~24歳では85.5%が、25~29歳では63.3%が通常の婚姻ではなく事実婚の関係にある」(※1)というデータが示すように、特に若い世代を中心に通常の「結婚」にとらわれる人はそこまで多くありませんでした。2002年からは婚姻制度以外に性別に関わりなく事実婚も合法的に認められるようになりましたが、異性愛者に認められる権利は同性愛者にも認めてこそ平等という考え方から、同性間の結婚を合法化すべきという声が上がり、紆余曲折を経て2017年にようやく同性婚の合法化が発効されました。私の夫のお姉さんは7年間交際していた彼女とその年に結婚し、二人は村で初めての女性同士の結婚式を執り行いました。

2019年のプライド。夫のお姉さんとお姉さんのワイフと参加。

この同性婚合法化は、フィンランドで初めて、市民によって牽引され可決した法律であると言われています。「市民イニシアティブ法」は2012年に発効した、6か月以内に最低5万人の賛同の通知や署名があった場合は国会で取り上げなければならないとする新しい法律ですが、2013年に始まった同性婚合法化のキャンペーンでは、初日で10万人、最終的には16万人以上が署名し、これが国会で2014年に可決する運びとなったのです。

このことからも分かるように、フィンランドでは「ルールや法律は国民を受け入れて作るもの」、または「国民がイニシアティブを取って、自らルールや法律を作る」という意識が共有されているといえるでしょう。この背景には、人口が少なく、政治家や権力者と一般市民の距離が比較的近いことや選挙投票率が高いこと、また、元来裕福な国ではないために上流階級の層が薄いことから中流階級の声が伝わりやすいことなどが挙げられます。声が伝わりやすい環境だからこそ、挙げた声に価値がつく。そしてマイノリティであれ、小学生であれ、自分たちのことは自分たちで責任を持って声を挙げて、響かせていく。このような姿勢はお隣の国・スウェーデンのグレタ・トゥーンベリさんの気候変動危機への呼びかけのストライキ活動の姿勢とも共通していると思います。

常識の範囲内で自由にその人らしく振る舞うのが一番で、決まったフォーマットなどは存在しない

日本にはないけど日本にあったらよいのではないかと思う/社会を運営していく上でポジティブに働いているとおもうルールを教えてください。

日本でこれから導入していったら良いと思うことは、「形式よりも合理性を重視する」という考え方です。昨今の日本では「職場でのパンプス、ヒール靴の強制をなくしたい」という運動が広がり、1万9000人近くにのぼる署名がネットで集まりましたが、およそ15年前、大学生だった私は、周りの友人が就職活動のためだけのリクルートスーツを購入したり、本来ならその人が好きで履くこともないような黒や茶色などのヒール靴を購入したり、髪を黒などの暗い色に染め直したりしている様子を見て、そのような形式ばったルールに非常に疑問に感じていました。

フィンランドをはじめ、ヨーロッパの多くの国では就職活動のためにあえて他とお揃いのように見えるようなスーツは購入しませんし、髪の色を地味な色に染め直したりはしないでしょう。それは企業側、また社会がそれを求めないからです。企業側は採用を決定する時、一人一人の能力や性格などを考慮するのみで、服装や髪型などは審査の対象には入れないことが殆どではないでしょうか。特別な目的もないのにヒール靴を履くことを好ましいとしたり、色を指定したりすることもありません。

また、就職する時期も基本的に人それぞれで、何月何日に決まって、ということは滅多にありませんし、電話の出方や名刺の渡し方なども習ったりはしません。常識の範囲内で自由にその人らしく振る舞うのが一番で、決まったフォーマットなどは存在しないのです。すると、自然とひとりひとりが自分の仕事や人生にもっと責任を持てるようになるのではないでしょうか。ルールのために人があるのではなく、人のためにルールがある。そういう姿勢でルールを捉えて、時代や状況に応じて柔軟にルールを変えていくような考え方が浸透すれば、人々はもっと生きやすくなるのではないかと思います。

もう一つ、結婚の話に戻りますが、日本では長い間にわたり選択的夫婦別姓制度の導入の是非が議論されていますが、フィンランドでは現在、同性、別姓、複合姓、創姓の4つの選択肢があります。届け出を出さない場合はそれぞれ自分の姓を保持するため、夫婦別姓の婚姻関係となりますが、お互いの苗字を繋げたり、自分たちで新しく名前を作ったり、どちらかの苗字に統一したり、婚姻後の自分の苗字を自由に選ぶことができるルールは楽しくて心地の良いものに感じられます。様々な選択肢があることによって混乱が生まれたりそれを理由に家族の一体感が失われたりしている様子は社会では特に見られません。

プライド前の街の様子。デパートやカフェ、ポストや大統領宮殿までが虹色に染まるヘルシンキ。

古い価値観や伝統にこだわりを強く抱く人が多い一面も。対立しながらも、論理的に意見交換することに努める

「こうあるべき」というムードを感じることが多い日本。あなたが暮らしている場所にはこうあるべきといったムードはありますか? あるとしたらそれはどういうトピックに対して象徴的に存在しており、それに対し人々はどう向き合っていますか?

同性婚の法整備が北欧諸国の中で一番遅かったフィンランドでは、古い価値観や伝統にこだわりを強く抱く人が多いという一面もあります。移民や難民の受け入れ政策に関しても、スウェーデンやノルウェーなど他の北欧諸国と比較して長い間にわたり非常に消極的でした。最近になってようやく、出生率の低下や高齢化社会などの社会問題の解消策として積極的な受け入れが始まりましたが、それにより「真のフィンランド人」のような右派民族主義政党が台頭し、「移民や難民にフィンランドの限りある社会福祉の恩恵を与えて良いものか。それで国は守れるのか」と警鐘を鳴らし、多くの保守派の国民から支持を得ています。フィンランドの映画監督のアキ・カウリスマキ監督の最新作『希望のかなた』の中ではそのような変化に揺れるフィンランドの様子が描かれ、国民や他国の人々に考える機会を与えています。

また、ミス・フィンランドや聖ルチア祭(キリスト教のお祭りで、12月13日のルチア祭には学校や地方自治体などから今年のルチアとして女の子が代表として選出される)などでは「金髪で碧眼の白人こそが真なるフィンランド人である」として、伝統と画一的な民族にこだわる人と、「多様性こそ新しいフィンランドの姿」としてフィンランドを一つの型に入れこまない考え方を推し進める人が、しばしば議論を対立させています。何が正しく、何が間違っているかは誰にも分かりませんし、答えのない問いもたくさんあるでしょう。社会に生きる限り、自分と異なる意見を持つ人と遭遇することは避けられないことです。フィンランドの人々はそのようなことを踏まえた上で、大抵の場合においては冷静に、論理的に意見交換することに努めていると感じられます。

※1:現代ビジネス「20代の7割が事実婚…フィンランドから見えてくる「結婚のあり方」」

PROFILE

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東京でフィンランド政府観光局、フィンエアーに勤務後、フィンランドの首都ヘルシンキに移住。畑で野菜を耕したり、食べられる野草を摘んで料理をしたり、花をジャムにしたり、木の若芽をお酢やウォッカ、浸けたり、発酵させたりするインスタグラムのアカウント「Totally edible(全然食べられる)」では、様々な植物や料理を紹介しています

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