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ジェーン・スーと土岐麻子、ロールモデルがいない今の40代の模索

ジェーン・スーと土岐麻子、ロールモデルがいない今の40代の模索

家事軍隊、性別の役割、老後。自分のことは自分でやる

2020年1・2月 特集:これからのルール
テキスト:阿部洋子 撮影:中里虎鉄 編集:野村由芽
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私たちの世代は自分のことは自分でできるようにしていかないと結構ヤバい。(ジェーン・スー)

スー:例えば洗濯ひとつとっても、女性が衣服に合わせて洗い方や洗剤の種類を選べるのは、比較的若いときから訓練されているからなんですよ。我々は家事軍隊に入っているから。

土岐:家事軍隊(笑)。

スー:そうすると、結婚して男女がいっせーのーせで家庭に入ったときに熟練度がまったく違うんですよね。家のなかに家事軍曹と家事三等兵がいるわけ。その状態で同じ任務にあたるから、「歯食いしばれ!」「なんでお前できないんだ!」ってなる。「すみません!」となって男たちはしょんぼりする(笑)。

土岐:わかります(笑)。

スー:まさに土岐さんのご実家はケアする人=お母さんと、外で稼いでくる人=お父さんって分かれていたわけじゃないですか。うちもそうだったんですよ。恐ろしいのは、母が亡くなってそういう男性が独り身になったときに、自分の身の回りのケアが自分でできないとそのことを周りから責められるんですよね。

土岐:「自分のことも自分でできないで」と言われちゃう。

スー:そう。男の人は男の人で、若いときから例えば髪の毛を気にしていると「髪なんかいじりやがって」と、自分にかまけることについてからかわれてきた。「ていねいな暮らし」みたいなことをやると、「男らしくない」って笑われてきたわけですよ。でも70~80歳になって自分のケアができないと「布団の上げ下げもできない男!」って責められることになる。このシステムは変えていかないといけないと思いますね。私たちの世代は自分のことは自分でできるようにしていかないと結構ヤバい。

土岐:そうですよね。

スー:生まれてきた性別によって社会から期待されることの違い自体が「男らしさ」「女らしさ」もしくは、「男ってこうだよね」「女ってこうだよね」という性差とされてしまっているんだけど、そのまま老人になってパートナーに先に死なれてしまったりしたら大変だから、性別にかぎらず自分をケアするために必要なことはできるようにならないと大変だなと思いますね。

土岐:確かにそれはそうですよね。

他者からの目線や評判を基軸にして考えて行動してきた人ほど辛いことになっていく。(土岐麻子)

スー:話は変わりますけど、自分の見た目をあんまり好きじゃない時代って必ず誰にもあるじゃないですか。土岐さんは「まあこれでもいいか」って折り合いがつけられたのは何歳くらいでしたか。

土岐:今も折合いついてないですよ(笑)。私は歌うことを仕事にしてますが、人前に出る仕事でもあるので写真を撮ってもらうことも多いじゃないですか。そうすると、容姿に対して批判的なことを書かれたり言われたりすることもあって。あえて言うなら、「自分の容姿が恥ずかしいと思うのはやめよう」と頭で思うようになったのは40歳くらいですかね。

スー:やっぱりそのくらいの年齢なんだ。

土岐:「これでよし!」って思えるようになるには、自分で「これでいいんだ」って決めないといけないから難しいですよね。他者からの目線や評判を基軸にして考えて行動してきた人ほど辛いことになっていくなとも思います。

スー:わかる!

土岐:それは私自身のことでもあるんですけどね。23歳でデビューしてからこういう仕事をずっとしていて、そのときにちょうど2ちゃんねるができたんです。だから、2ちゃんネイティブとして果敢に自分の評判を見ていて……。

スー:それはなかなか辛いことを。

土岐:そう。若い頃は「たしかに思い当たるな、この発言は控えよう」とか「このメイクはやめよう」って全部直していけば、いつかみんなから批判されない人になるんじゃないかと思っていたんですけど、まあそうはならない。どんなことをしたって何をしてたって裏を読まれて深読みされて、ありもしないことで罵倒される。そういうことになるのであれば、何も気にしないほうがいいなって思って。人から答えをもらって生きていくと、いつか崩壊するんですよね。

スー:そうそう、それは本当にダメですよね。

土岐:誰も正解はくれないから。

スー:結局は自分のなかに自罰的な目というものがあって、人の言葉をどう受け取るかというのは、それの反射でしかないんですよね。例えば誰かが言ったことに関して気になるところと気にならないところがあるとしたら、それは自分と相撲をとった結果でしかない。そういうことがわかってきて、自分の好きな自分になるしかないなって諦めがつくのはたしかに40代かもね。

土岐:そうですねえ。みんな等しく老いていくわけで。例えば、男女問わず若いときに容姿に恵まれ、他人からの評価でよく測られている人がいたとして、でも40代に突入するとその人も当然老けていきますよね。

スー:等しくおばさんおじさんですよ。

土岐:そこで人からの物差しで生きてきた人は「どうしよう、これまでよりも評価が低い」となってしまうので、また別の物差しを作らなきゃいけなくて悪戦苦闘したりする。だから、例えば容姿に恵まれていることをゲームに例えてイージーモードなんて言ったりもしますけど、それはそれでかなりハードモードじゃないかって思ったりしますね。

スー:だから結局、こんな私……とか思ってるくらいだったら、色々チャレンジして、最終的に自分と相撲を取れってことですよね。

土岐:明確になりましたね(笑)。

スー:はい(笑)。ということで今日は土岐麻子さんをお迎えしました。どうもありがとうございました。

PROFILE

ジェーン・スー

コラムニスト/ラジオ・パーソナリティ/作詞家
東京生まれ、東京育ちの日本人。現在、TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」(月~金11:00~)のパーソナリティを担当。2013年に発売された初の書籍『私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな』(ポプラ社)は発売されると同時にたちまちベストセラーとなり、La La TVにてドラマ化された。2014年に発売された2作目の著書『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』は第31回講談社エッセイ賞を受賞。毎日新聞やAERAなどで数多くの連載を持つ。最新著書『これでもいいのだ』(中央公論新社)が発売中。

土岐麻子

1976年東京生まれ/歌手
Cymbalsのリードボーカルとしてデビュー。2004年の解散後、ソロ始動。本人出演/歌唱が話題となったユニクロCMソング『How Beautiful』や、資生堂「エリクシール シュペリエル」CMソング、『Gift ~あなたはマドンナ~』などをリリース。CM音楽や、他作品へのゲスト参加、ナレーション、TV・ラジオ番組のナビゲーターを務めるなど、“声のスペシャリスト”。また、様々なアーティストへの詞提供や、エッセイやコラム執筆など文筆家としても活躍中。サウンドプロデューサーにトオミヨウを迎えたアルバム「PINK」(2017年)、「SAFARI」(2018年)に続き、2019年10月2日にオリジナル・フルアルバム「PASSION BLUE」をリリース。

INFORMATION

書籍情報
書籍情報
『これでもいいのだ』

著者:ジェーン・スー
2020年1月8日(水)発売
価格:1,540円(税込)
発行:中央公論新社
これでもいいのだ|特設ページ|中央公論新社

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