“ここではないどこか”。その感覚は、譲れないものを再確認するためにやって来たサイン。
「緑色をした気の触れた夏のできごとで、フランキーはそのとき十二歳だった。その夏、彼女はもう長いあいだ、どこのメンバーでもなかった。どんなクラブにも属していなかったし、彼女をメンバーと認めるものはこの世界にひとつとしてなかった」
ここではないどこかへ行ってしまいたい。この物語の主人公フランキーのように、そんな風にある日突然思ったのはいつのことだっただろう。子ども時代に別れを告げる時だ。世界はあまりに突然で、答えをくれず、今まで気にしていなかったような小さな事象がわたしを傷つける存在に変化する。
そんな経験があるわたし達は、自分が自分であることにうんざりし、世界が一瞬にしてまるで違うものになることを夢見る。
「醜くてつまらないものごとについて考えなくては、と彼女は思った」
今いる場所に自分が属していないと気づいた時の違和感や世界との剥離。
それまでの自分の世界が急速に醜く衰えていき、興味を失っていく感覚。
言葉にしてしまうと、果てしなく孤独なものに感じてしまうけれど、慣れ親しんだいつもの場所に存在するわたし達は、その違和感や奇妙な感覚を見逃してしまったり、気づかないふりをしてしまいがちだ。
考えないようにしてみたり、それは大したことではないのだと言い聞かせてみたりする。
“ここではないどこか”。その感覚は、譲れないものを再確認するためにやって来たサインであり、ヒリヒリとした痛みを伴ったとしても、それはきっと希望への渇き。
見逃さずに、自分自身の思考の中に飛び込んでみよう。
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