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政治や人種、性のこと。怒りも疑問も昇華する、刺激的でおかしなスタンダップコメディ

政治や人種、性のこと。怒りも疑問も昇華する、刺激的でおかしなスタンダップコメディ

議論を呼んだ『ナネット』や、BLMで再注目浴びる作品も

テキスト:後藤美波
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Black Lives Matter運動に関連して、再び注目を集めたマイケル・チェのショー。自身のコミュニティに、抗議運動への支援を訴えたハサン・ミンハジ

スタンダップコメディは世界の時事的なネタや社会情勢、ローカルなネタ、英語のだじゃれなどがわからないと笑えない部分も多く、前提の知識がないとさっぱり理解できないというものも少なくないかもしれません。しかし画面の中の観客たちは爆笑しているのに自分だけ笑えなかったとき、その理由を調べたり考えたりしてみると、視野が広がったり、新たな視点に出会えることがあります。

『サタデー・ナイト・ライブ』への出演で知られるマイケル・チェの『マイケル・チェの要チェック』は2016年に配信された作品ですが、2020年のいま再び注目を集めています。その理由はタイトルの原題を見ればわかるでしょう。「Michael Che Matters」。この作品で彼は警官による黒人への暴力に触れ、「Black Lives Matters」に対して「All Lives Matters」と主張する人のロジックを皮肉たっぷりに批判します。これが現在のBlack Lives Matter運動にまつわる一部の人々の言説に当てはまることからSNS上で再び話題に上がるようになりました。Netflixは6月に該当の箇所のクリップをYouTubeで公開しています。

マイケル・チェは、4月に新型コロナウイルスで亡くなった自身の祖母と同じ集合住宅に住んでいる人の1か月分の家賃を払うことにした、という報道でも注目を集めました。6月に行なわれたインタビューでは「人々がこのクリップを気に入ってくれるのは嬉しいけど、今もまだこのネタが当てはまってしまうっていうのは少し残念だよ」と話しています。

『マイケル・チェの要チェック』 photo credit: K C Bailey/Netflix

またスタンダップコメディのショーではないですが、2018年にスタートしたコメディ番組『ハサン・ミンハジ:愛国者として物申す』はまさに今世界で起きていることに興味を持つ入口としてぴったりの番組です。本作はインド系アメリカ人コメディアンのハサン・ミンハジが政治のこと、文化のこと、環境問題や人種問題、インターネットの問題など、様々なトピックをプレゼンテーション形式で笑いを交えて解説する番組。最新シーズンは新型コロナウイルスの影響でアメリカの多くの人が家賃を払えない状態に陥っているというトピックで始まりました。ジョージ・フロイド事件の直後に配信されたエピソードでは、自身と同じアジア系アメリカ人に対して自分たちのコミュニティの問題を直視し、黒人差別への抗議運動を支援するよう強く呼びかけました。いつものようなジョークはほとんどなく、ミンハジの強い怒りが表れていました。

『ハサン・ミンハジ: 愛国者として物申す』 photo credit: Cara Howe/Netflix

スタンダップコメディの世界に触れられるドラマシリーズも

スタンダップにあまり馴染みがなかったら、フィクションの世界から触れてみるという手もあります。Amazon Prime Videoで配信中のドラマ『マーベラス・ミセス・メイゼル』は、1950年代のニューヨークを舞台に、お金持ちの専業主婦が持ち前のトーク力でスタンダップの才能を開花させ、コメディの世界に入っていくというストーリー。当時のニューヨークの街並みや、主人公の色あざやかなファッションも魅力です。また今年3月にNetflixで配信されたドラマ『フィール・グッド』はコメディアン、メイ・マーティンの半自伝的作品です。薬物依存を克服しようとするコメディアンの主人公とガールフレンドとの関係が物語の軸でありながら、主人公が男性中心のスタンダップの世界でもがく様子も描かれています。

「人の話を聞く」という至ってシンプルなスタイルであるスタンダップコメディは、身ひとつ、喋りだけで目の前の観客を沸かすという緊張感のあるパフォーマンスです。日常で抱いた疑問や、社会の様々な理不尽、差別や偏見、不正などがいかにおかしいことなのかを、ジョークを通じて的確に言い表し、共感と笑いを誘ってみせるのは、豊富なボキャブラリーと巧みな構成力、表現力、観察眼を持つ一流コメディアンのショーならではの醍醐味です。また上述した女性のコメディアンたちのショーには、「おかしいと思っていたけどこれってやっぱり怒っていいんだ」とか、「こういう気持ちを抱いても良いんだ」と励まされる力があります。もちろん不謹慎なことで笑ってしまうギルティプレジャー的な楽しみや、ただただくだらなくてゲラゲラ笑ってしまうこともたくさん。物議を醸すテーマゆえに、笑ってしまったあとに「あれ、これ笑って良いんだっけ?」と見る側の価値観が揺さぶられることも。Netflixの膨大なスタンダップのライブラリには、多様なスタイルのコメディアンが揃っています。気になったものから見てみたら、お気に入りのコメディアンに出会えるかもしれません。

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