「ここではないどこか」という言葉に惹かれたり、「いまここにいる場所から抜け出したい」と強く淡く願ったり、あるいはなにかが、「ぽろぽろこぼれてしまっているような感じ」……。多くの人が、そういったことを経験したことがある、あるいはいまも経験しているのではないでしょうか。
初めての著書『ざらざらをさわる』を執筆した三好愛さんは、イラストと言葉でこの世界から淡々と抜け出していく様子を綴ります。三好愛さんのイラストや言葉のトンネルを通り抜けると、厳しい現実から少しだけ守ってくれるようなやさしくてやわらかく、もこもこした何者かたちに包まれる感覚があります(帯にコメントを寄せた岸本佐知子さんは、「あの不思議な生き物たちの生まれ故郷が、ここにある」と書かれていました)。そんな三好愛さんに、「癒やしながら」という特集テーマにおいて絵と言葉を寄せていただきました。きっと、癒やされます。
小さな視点から世界をもう一回確認することで、自分の立ち位置を探りなおせていた。
・特集「癒やしながら」のテーマをどのように解釈しましたか?
私自身、3月ごろから、日々とめどなく変わりゆく状況や、SNSでの情報の多さにのみこまれそうになることにすっかり疲れてしまったのですが、そんな中で近しい人との会話や、鉢植えのサボテンをじっと見たりとか、誰かのエッセイを一編だけ読んでみたりとか、小さな視点から世界をもう一回確認することで、自分の立ち位置を探りなおせていたような気がします。「癒しながら」も、あからさまな「回復」のイメージではなく、さぐりさぐり、自分と自分を含めたまわりのことを少しずつ受け入れながら楽になる、というようなことなのかなあ、と解釈しました。
本来それぞれがあるべき姿を探るようなイメージで。
・作品に込めた思い、考え方は?
人も含めて、生きているものたちがくっついたり離れたり、細かく関係を変えながら、本来それぞれがあるべき姿を探るようなイメージで描きました。
当たり前に享受しすぎていた気がします。
・新型コロナウイルスの拡大によって、その後、生活のなかで変化したことはありますか?
大切だと思う対象に対してきちんとお金を使おうと思うようになりました。当たり前に享受しすぎていた気がします。
癒されたな……と思うことは結構あるのですが、一番頻度が高いのはルンバです。
・なにかから癒やされた経験はありますか?
癒されたな……と思うことは結構あるのですが、一番頻度が高いのはルンバです。かわいい生き物がいくらかわいくしてようが、所詮生きているものだからね、と思ってしまうのですが、機械がまるで生き物のように振る舞っている瞬間(ルンバがどっかにのりあげちゃって進めなくなってるときとか)を目撃すると思わぬ方向から癒されます。
だましだまし世界にふたたび足を踏み入れます。
・自分を癒やすためにおこなっていること。
サボテンや誰かのエッセイやルンバや、小さな何かに向き合うことにすら疲れてしまったときには、ほぼ体温と同じぬるま湯を風呂にはいり、ぼんやりと長時間浸かります。湯と自分の境目が失われ、世界から自分が失われ、存在としての自分が楽になったくらいのところで、風呂からあがり、だましだまし世界にふたたび足を踏み入れます。