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韓国のエッセイ本を読もう。どうにもならない日々に寄り添う言葉

韓国のエッセイ本を読もう。どうにもならない日々に寄り添う言葉

K-POPアイドルも愛読。チェッコリのオススメ本も紹介

テキスト:後藤美波
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頑張った先に何があるのか? 競争社会にもがく若者や30、40代の読者層

これらのエッセイの多くに共通するのが、「いまのままの自分を肯定しよう」「無理に頑張らなくてもいい」といったメッセージです。人と比べることをやめて一度立ち止まり、ダメな自分も認めながら自分自身の内面と対話するような言葉が、繊細かつストレートな表現で綴られています。作者が精神的に塞ぎこみ、どうにもならなくなってしまった実経験をもとに書かれたものも少なくありません。

韓国で40万部を超えるベストセラーとなり、今年1月に邦訳が刊行されたエッセイ『死にたいけどトッポッキは食べたい』(ペク・セヒ著、山口ミル訳、光文社)もそのひとつ。気分変調性障害と診断された作者の治療記録をまとめたもので、他人に対する恐怖心や不安感に苛まれてカウンセリングを訪れた作者と、医者の会話の様子が綴られているのが特徴です。さらに毎回のカウンセリングを経た作者の本音も記されていて、医者に言われたことを作者が自分のなかに落とし込んでいく様が読み取れるのも面白い部分です。作者が自身の内面と向き合い、心情を少しずつ変化させていく微妙な過程が人間の気持ちや性格の複雑さを表しているようで、人はそんな簡単に前向きになれるものではないのだと、読んだあとに少し心が軽くなる本でした。

『死にたいけどトッポッキは食べたい』(ペク・セヒ著、山口ミル訳、光文社)

あやうく一生懸命生きるところだった』(ハ・ワン著、岡崎暢子訳、ダイヤモンド社)は、東方神起のメンバーも読んだという韓国のベストセラー本。競争社会において、一生懸命努力して頑張り続けることが正しいのだと疑わずに生きてきたイラストレーターの作者が40歳を目前にしてそれまでの生き方に虚しさを感じ、会社勤めをやめて「頑張らない人生」を生きようとする様が綴られています(チェッコリで原書を購入する)。また韓国で80万部を記録した『私は私のままで生きることにした』(キム・スヒョン著、吉川南訳、ワニブックス)は、年齢や経歴、実力も「中途半端」なまま大人になったと感じたイラストレーターで作家の筆者が、「自分を大切にして、自分らしく堂々と生きていけばいい」という思いに至り、同じような不安を抱える人にエールを送るエッセイ集です。

このようなテーマの作品が多く発表され、人気を集めるということは、厳しい社会の中で少なくない人々が生きづらさを感じ、「そんなに頑張らなくてもいい」「他人と比べるのではなく、いまの自分を認めよう」という言葉を求めているということの裏返しとも言えそうです。

「韓国は過酷な競争社会だといわれています。よい大学に入るために高校時代も懸命に勉強し、大学に入ってからは良い企業への就職のためにいくつもの予備校に通ってスキルを身に着けます。そうした努力を重ねても、当然全員が望む通りの生活を得ることはできませんから、その競争に置かれた若者たち、そしてそうした競争をくぐり抜け少し大人になり、現実との折り合いをつけようともがく30代、40代の世代にも多く読まれたようです。

また2019年に吹き荒れた#MeToo運動などの社会現象もまた、いろいろな意味で『自分らしく』を謳っていることも大きな後押しになったように思われます」(チェッコリ、佐々木静代さん)

こういったエッセイが、K-POPアイドルによく読まれている、という点にも考えさせられます。練習生時代から厳しい競争に置かれ、常に大衆の目にさらされているアイドルたち。そのストレスは想像を超えるものですが、「頑張らなくてもいい」というメッセージは彼/彼女たちの心にどのように響いているのでしょうか。韓国から世界に羽ばたいたBTSは、2016年から約2年半にわたって「LOVE YOURSELF」シリーズを展開し、全米1位という記録も打ち立てましたが、そこで掲げられていたのも「本当の愛は自分を愛することから始まる」というメッセージでした。

また、似たような社会状況を背景に、韓国の読者が感じている生きづらさを日本の読者も共有できるからこそ、エッセイに綴られた韓国の作家たちの言葉が、日本の人々にも響いているのでしょう。韓国社会の変化について佐々木さんは次のように語ります。

「競争を頑張って勝ち抜くことだけはない価値観をみなが求め始め、自分らしい生き方を求める、求めたいという気持ちが生まれてきたのではないでしょうか。頑張った先にある幸せは誰もが享受できるものではない、という現実を認めたということかもしれません」

チェッコリがおすすめする韓国エッセイ。『女ふたり、暮らしています』など4選

最後に、佐々木さんに現在おすすめの韓国エッセイを教えてもらいました。一部、翻訳出版が決まっているものもあるそうなので、刊行を楽しみに待ちたいと思います。

・『애쓰지 않고 편안하게(努力せず 気楽に)
『私は私のままで生きることにした』のキム・スヒョンの2作目。韓国で今年5月に刊行され1か月半ですでに約10万部を記録し、日本での翻訳出版も決定しました。前作から4年ぶりの本書は「私のままでいきる」ことからさらに一歩進み、「バランスのとれた関係づくり」について、自身の経験をもとに語った人間関係の処方箋となっています。

・『적당히 가까운 사이(適度に近い関係)
人気イラストエッセイ『怠けてるのではなく、充電中です。』の著者、ダンシングスネイルの2作目。様々な「関係」で疲労してしまった人ために、自分が望み、選び、健康な関係を築くための「関係デトックス」について語っています

・『여자 둘이 살고 있습니다(女ふたり、暮らしています)
Yes24のポッドキャストで人気のコピーライター、キム・ハナとファッション誌『W Korea』の編集者として長く勤めたファン・ソヌによる女二人の共同生活記。SNSを通じて互いを知っていたアラフォー女子二人が、ある日偶然に出会って意気投合し、独りでも、結婚でもない「組み立て式」家族としての新しい暮らしを始める。新しい家族の在り方を問いかける一冊です。

・『여행의 이유(旅行の理由)
『殺人者の記憶法』の著者キム・ヨンハが、「旅」をテーマに綴ったエッセイ集。洗練された文章で、読んでいると旅の感覚が呼び覚まされるだけでなく、人生の意味についても深く思いめぐらすことができます。2019年春に刊行され、教保文庫の年間ベストセラー1位にも選ばれました。さらにこの春コロナ禍の最中にも再度ベストセラーに上がった一冊です。

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