表紙やイラストのかわいらしさも目を引く。K-POPアイドルらの推薦も人気を後押し
『死にたいけどトッポッキは食べたい』『私は私のままで生きることにした』『あやうく一生懸命生きるところだった』……どこか気になるこれらのフレーズはいずれもここ1、2年の間に日本で邦訳が刊行された韓国のエッセイ本のタイトルです。
音楽やファッション、食、映画にドラマなど、日本において韓国のカルチャーは近年ますます注目集めていますが、韓国文学もそのうちのジャンルのひとつ。2018年に邦訳が発売された『82年生まれ、キム・ジヨン』(チョ・ナムジュ著、斎藤真理子訳、筑摩書房)は、アジア文学の翻訳作品としては異例とも言える累計発行部数15万部のヒットとなり、昨年刊行の『文藝』「韓国・フェミニズム・日本」特集は、同誌として17年ぶりの重版となるなどの記録も打ち立てています。またクオンの「新しい韓国の文学シリーズ」や、書肆侃侃房の「韓国女性文学シリーズ」、亜紀書房の「となりの国のものがたり」をはじめ、様々な出版社から韓国文学が日本で紹介され、愛好家を増やしています。
小説だけでなく、エッセイの翻訳出版も相次いでおり、その一部が上記に挙げたタイトルです。K-POPアイドルや韓国の俳優など著名人が読んでいたことから人気に火がついたという本も多く、たとえば韓国で30万部のベストセラーになった詩&エッセイ集『自分にかけたい言葉 ~ありがとう~』(チョン・スンファン著、小笠原藤子訳、講談社)は、GOT7やWINNER、Apinkといったグループのメンバーがファンに向けて紹介したり、ドラマ『愛の不時着』のダン役で知られるソ・ジヘも読者であることなどが知られています(チェッコリで原書を購入する)。
「アイドルが手にもっていた、部屋に置いてあったなど、人気スターと関連した本はファンの間で情報が素早く行き渡るために、ご注文が一気に増える本は何が(誰が)きっかけなのかを後追いで私たちが調べるほどです」。そう話してくれたのは、上述の「新しい韓国の文学シリーズ」をはじめとする韓国小説の翻訳本などを手掛ける出版社クオンが運営する、韓国語書籍と韓国関連書籍を専門に扱うブックカフェ「チェッコリ」の広報担当・佐々木静代さん。ここ最近とくに、韓国エッセイの人気を実感しているといいます。
「最近ではSNSの影響もあり、韓国の情報を素早くキャッチする方々が増え、韓国の出版社、書店、K-POPアイドル、ドラマなどの情報から、韓国内で人気のある本をすぐに見つけることができるようになり、それを注文される方などが増えてきたことで人気を実感するようになりました。特に韓国のエッセイ本はイラストエッセイも多く、表紙のかわいさ、キャッチーなイラストなどがInstagramで人気を博している印象です」
たしかに『死にたいけどトッポッキは食べたい』や『私は私のままで生きることにした』『あやうく一生懸命生きるところだった』などは、目を引く柔らかい色彩の表紙に作者本人を思わせるかわいらしい人物のイラストが描かれていて、手に取りやすい印象です。挿絵もキュートなものが多く、Instagramで人気が広まるのも頷けます。6月に邦訳が刊行されたばかりの『簡単なことではないけれど、大丈夫な人になりたい』(ホン・ファジョン著、藤田麗子訳、大和書房)など、漫画に文章を添えた作品もあります。
またSNSを中心に支持を集める詩人ハ・テワンのエッセイ集『すべての瞬間が君だった―きらきら輝いていた僕たちの時間』(呉永雅訳、マガジンハウス)は、パク・ソジュン出演の恋愛ドラマ『キム秘書はいったい、なぜ?』に登場したことでも話題を呼びました(チェッコリで原書を購入する)。考え事をして眠れない夜や、疲れた1日の終わり、恋に傷ついた時など、日常の色々な瞬間に大切な人にかけたい言葉が綴られている作品です。
『すべての瞬間が君だった―きらきら輝いていた僕たちの時間』の作者ハ・テワンのInstagramより
「(『すべての瞬間が君だった』は)ドラマに登場したこともそうでしたが、SHINeeというアイドルグループのメンバーが読んだということで当店では一気に注文が増えました。元々Instagramで人気を得ていたものが一冊の本になったものだったために、Instagramで知った方も多かったです。韓国や日本でも若い人たちの情報収集源がInstagramになっている側面もあり、いわゆるインスタ映えするイラストエッセイは、多くの人がアップしていくので、人気に拍車がかかっているように思います」(チェッコリ、佐々木静代さん)
エッセイ集は挿絵とともに読みやすいものが多いので、韓国語を学習中の人にも好まれる側面もあるそう。『それでも、素敵な一日』(ク作家著、生田美保訳、ワニブックス)は2歳の時に聴覚を失ったイラストレーターの作者が、やがて視力まで失う病気にかかっていることを知り、一日一日を大切にしながら今を生きようとする姿を、言葉と作者の分身であるうさぎのキャラクター「ベニー」のイラストを通して描いた作品ですが、チェッコリではオープン当初から人気があり、隠れたベストセラーなのだといいます(チェッコリで原書を購入する)。
「韓国語学習者の方が多くご来店いただきますが、まだ初級の方など『私の実力でも読めるものはありますか?』というご質問をたくさんいただきます。そういう方にはイラストエッセイなどは読みやすく、また可愛いイラストで読む気にさせてくれるのでよくお薦めします。『それでも、素敵な一日』はそういう作品の一つとしてご紹介し続けた本です。切ない内容ですが、とても心に響く作品なので私たちもつい薦めたくなる本でした」(チェッコリ、佐々木静代さん)
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