自分と外界の「ずれ」や「調和」を落ち着いて眺めてみる。わたしたちはいま、多かれ少なかれ、こころやからだに残っている傷のようなものを治癒している過程なのではないだろうか。眠っていた花が再生していくように、自分で自分をたすけられる力がたまるまで、次の出番まで、やすみやすみ、癒やしながらいこう。
今回は「癒やし」ということに紐付いた絵を描くイラストレーターと、その作品をご紹介します。めまぐるしい状況が続き、不慣れなことも多いであろう今年の夏。がんばりつづけてしまう人や、おやすみをしている人も少なくないはず。みなさまが、より良いかたちですこしだけあたらしい心身になるための手助けとなれば幸いです。
桑沢デザイン研究所ビジュアルデザイン科卒業後、グラフィックデザイン事務所を経てイラストレーター・アーティストとして活動する中村桃子さん。装画やアパレルブランドのテキスタイルなどを手掛けるほか、昨年は自身の作品集『HEAVEN』を刊行しました。
彼女の描く作品には、無表情の人物をとらえた非日常的な情景が目立ちます。しかし、そこあるのは、神秘さやヒンヤリとした印象だけではありません。遠くに視線を投げる女性の体から芽吹く仄明るい花、そして花器として使用可能な陶器とセットの絵など、「ずれ」を肯定的に表現したかのようなこれらの作品は、鑑賞者に癒やしの過程や自由さを想起させます。
そんな中村さんに「今回紹介する絵のモチーフを描き始めたきっかけ、または作品にすることで生じた自身の変化があれば教えてください」という質問を投げかけたところ、こんなお返事をいただきました。
絵を描くとき、普段自分が会話の中で気になったり、響きが気に入った単語を書き留めている携帯メモから、今その時の気持ちにあった言葉を考えます。それがそのまま個展の展示タイトルになったり、作品のタイトルになったり。言葉を正直に探しながら、絵で具現化して確認します。
背伸びしないでそのままの言葉探しから絵を描いていけると癒されます。嘘ついたら絵を描いていること自体がきっとストレスになる。そのために人とコミュニケーションをとって喜んだりかなしんだり記録したりすることがすごく大切です。気持ちを補うように描いていたりもします。
モチーフとしては、女性と花の有機的なかたちに特別な魅力を感じ、描くことが多いです。最近は形をもっと感じたくて絵からインスピレーションを得ながらセラミック作品も作っています。
描きたいとき描いて、描きたくないときはひたすら感情の落としどころを探すように待つ。絵を描くこと自体がいつまでも癒やしでありたいです。
背伸びをせず実直に活動すること、それ自体から癒やしを得る。そして、おやすみをする際は、ただ再開のきっかけを待つのではなく感情の落としどころを探す。これらは、自分で自分をたすけられる力をためるヒントかもしれません。コミュニケーションや記録を火種にして絵を描き、そしてさらに形を感じるため絵からセラミック作品をつくる中村さんのように、自分の気持ちを補うことが良い連鎖へと繋がったら素敵ですね。