緑溢れる公園で癒やしを得よう。She is的公園ガイド8選

緑溢れる公園で癒やしを得よう。She is的公園ガイド8選

Girlfriendsが薦める台湾、大阪、名古屋、東京、神奈川の公園

編集:竹中万季
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善福寺川緑地公園、和田堀公園(東京都杉並区):子どもを追いかける私も、一人になりたい私も知っている。家とはまた違う自分たちの居場所

丘田ミイ子

「ねえ見て、公園が夜になったよ」
朝夕自転車で通り抜ける善福寺川緑地公園の中で私にそう言ったのは、後ろに乗った3歳の娘だった。空は確かに暗く、もういくつか星が出ていて、木々に茂る葉が風に踊るその音だけが18時半の景色を包んでいた。
“公園が夜になる”という言葉を選ぶこどもの伸びやかさと迷いのなさに心を打たれ、その気持ちをそのままペダルにぐっと込めて前進する。川を渡り、この先の坂道を登れば、我が家はもう直ぐそこだ。
いつの間にか“公園”という場所が家へと続く帰路でありながら、家とはまた違う自分たちの居場所になっていることを心強く思っていた。
「夜は夜でいいよね」
上り坂で切れ切れになった息でそう言った私に3歳の娘は「そうだねえ、あさもあさでねっ」と一丁前に言った。

“新しい朝が来た、希望の朝だ”
そんな音楽に合わせてラジオ体操に勤しむおじいさんや、川沿いを走るランナーたちにすれ違う朝。昼間は小さな子どもたちで賑わい、カメラを提げ野鳥を眺める人々は日が落ちるまでの長期戦だ。善福寺川に飛来してきた大鷹がここで子育てを始めて数年、最近木の上で新しい赤ちゃんが生まれたらしい。おじさんが覗かせてくれた望遠レンズの中の雛の黒い瞳はとても愛らしかった。
大鷹と同じく私が子育てを視野に入れてこの公園のすぐそばに引っ越して、今年で7年目になる。身近な場所にはなったけれど、それでも時折ここを宇宙のように感じることがある。遥か遠く、そうありながら一体に。

娘がスキップの練習をしながらいくつもの花を指差し、夫はその名前を娘に教え、時々小さくギターを鳴らす。
すれ違うたくさんの犬たちに息子が手を振り、木陰でくつろぐ猫たちに勝手に名前をつけて「おいで」と手を伸ばすのが私。
一緒にいても、当たり前に見ている景色はそれぞれ違って、私たちはここではひときわ自由に自分の時間を過ごしているのだとなんとなく思う。

そんなゆっくりとした散歩にも、週に1度は目的地がある。
善福寺川緑地公園に隣接している和田堀公園内にある、つり堀・武蔵野園。7年せっせと通い詰めているランチスポットだ。
「いらっしゃいませ~!」というお姉さんの元気な声に迎えてもらう時、「ママさん、毎度ありがとねえ~」とおじいさんに見送ってもらう時、私はどちらもとても幸せで、この街に住めて嬉しいなあと素直に思う。

オムライスや焼きそばや焼肉定食を頼んで、どれを何度食べても「美味しいね」と言い合う。ビールを頼むのは、頑張ったと思える日。食堂はビニールハウスのような造りになっていて、外の天気がよく分かる。雪が残る冬の日も、激しい通り雨の夏の日もあった。過ごしやすい春や秋には、表の広場にレジャーシートを敷いて食べることもあるけれど、この中の雰囲気が好きだからこそ、私たちは足を運び続けている。

「そんなTシャツあるんだねえ、いいねえ」
「毎度ありがとねえ~」のその前に、おじいさんが私が着ていたTシャツを褒めてくれたことがあった。決して口数が多いわけではないけれどもその存在感そのものでお店を包んでくれていたおじいさんがお会計の椅子に座らなくなった今も、私はそのことをすごく大切に思っていて、“武蔵野園のおじいさんに褒めてもらったTシャツ”と呼んでいる。何度訪れても真新しく、私はここが好きだ。その気持ちを帰り道にぎゅっと抱きしめる。

心配事があっていつもより早く目覚めた朝や、夫と喧嘩をして眠るに眠れない夜、原稿に行き詰まった明け方なんかに一人家を出ることがある。一番好きなベンチに寝転がって目を閉じると、ようやく自分のむき身の気持ちに気づく。それはまるで1枚ずつ洋服を脱いで湯船に浸かるその時のように。
鳥の声、遠くに見える薄い月、木々の隙間を縫って差し込む光。葉っぱのひとつひとつは赤子の手の平のようで、集まって揺れる様はどうしてかその柔らかい髪に似ていて、世界の美しさと自分の小ささに感嘆する。
朝焼けにくじけそうになること、夕焼けに背中を押されること、雨のおかげで泣いてしまえることや晴れたから泣かずにすんだこと。そんなことを繰り返して生きてきた。私はこの公園でそういうことをたくさん覚えたような気がする。子どもを追いかける私だけじゃない、一人になりたい私もこの公園は知っているんだなと思う。

春には花見客で大賑いになるけれど、それでも少し奥に進めば、小さいけれども懸命な1本の桜を独り占めできるこの公園が好きだ。見上げると桜と椿が半分ずつ楽しめる、とびきりお気に入りの場所も見つけた。
川沿いの道が長い花のトンネルへと変身するこの時期は、人々の足取りが緩やかになって、そのいくつもの横顔に花の力を思い知る。嬉しさの中に切なさも含んだ、短く、鮮烈な春。春はいろんなことを伝えていく、容赦なく早々と。今年の春もそうだった。

その日は、桜の上に雪が積もった稀有な日で、行ってしまったと思っていた冬が最後の力を振り絞って、季節の清々しいまでのたくましさを見せつけたような朝だった。
冬のエピローグにも春のプロローグにも見える3月の雪。お花見がお雪見になったこの日は、あまり外に出てはいけなかった日で、だけど人々は少し距離をとりながら、花に積もる雪を同じように見つめていた。

きれいだね、すごいね、と目と目で笑いあう。シャッターを押すお母さん、雪だるまと子どもを抱えて足早に家に入るお父さん、手を繋ぐ老夫婦、少し離れてiPhoneをかざす男の子に、大きなピースで返す女の子。
「一瞬マスク外して!」と聞こえた声が、「顔を見せて!」という聞こえない声と重なった。どれもがとてもきれいな距離だと思った。そう思うことを許したいと思った。

何が最善の選択か誰にもわからないまま世界が変わっていく中でも、自然はきらめき、時は流れていく。
「公園が夜になったよ」とあの時言った娘は、今年小学生になった。入学式の欠席を決めた4月、私たちはこの公園の川沿いで家族だけの小さな入学式をした。枝に止まった鳥が鳴いて、蝶々は飛び、花は揺れて、そんな木の間で私たちも生きていて。持て余した時間の中に、持ちきれない瞬間の連続があった。走った分だけお腹が空いて笑った分だけ眠くなる子どもたちにも、そうはいかない大人にだって、公園は大きく優しい。
私たちはここで家でも見せないような顔をしているのかもしれない。いくつもの日常を包み、いくつもの私を映しながらそこに悠然と在る公園で。遥か遠く、一体の宇宙の中で。そして、そのことはやっぱりとても心強い。
今日も、あと少しで公園は夜になる。そうしてまた、新しい朝が、希望の朝が、やってくるのだ。

PROFILE

燈里
燈里

1992年茨城県生まれ。台北在住。千葉とフィンランドで教育学専攻・現代芸術理論副専攻を経て、現在は台北教育大学国際修士現代芸術課程に在籍。2012年から忘れる記憶の記録のためにスケジュール帳を作る。

櫻子
櫻子

ekot spectrum works / 檸檬はソワレ ディレクター
1992/05/07 東京都出身
幼少時から東京、深圳、香港での生活を経て、貿易関連の業務に従事しながら、2015年からワックスサシェ・キャンドルの制作をはじめ『檸檬はソワレ』として活動をスタート。2018年3月より、檸檬ソワレを包括し、より裾野を広げた制作・提案を目的とした『ekot spectrum works (エコー・スペクトラム・ワークス)』を立ち上げ展開中。
東京、札幌、大阪など複数の店舗での取り扱いの他、イベント出展も多数。
最近ではMUSIC VIDEOへの作品提供や、手塚治虫生誕90周年アニバーサリーコラボレーション等、活動の幅を広げている。

丘田ミイ子
丘田ミイ子

文筆業9年目、2児の母。滋賀県にて、四人姉妹の三女として程よく奔放に育つ。大学は、日本語日本文学科の太宰治ゼミに所属。その後上京、ライターの道へ。キャリアスタートは『Zipper』。その他雑誌・WEB・広告のライターを経て、2018年よりペンネームを一新し、演劇と生活を綴る日々へ。ライフワークとして、詩を使った展示『色彩—ichijitsu』(2012)、『たびのこどもpresents「こゝろは、家なき子」』(2015)などを不定期開催。次回は2020年3月頃予定。言葉を紡ぎ、隙あらば演劇を浴び、役者の夫と2人の子どもと生きています。目下、人生のスローガンは、“家庭と演劇の両立”。

カトートシ
カトートシ

大学職員 兼 映画エッセイスト

2018年よりカトートシとして活動を開始する。
大学時代は文学批評を専攻。
本屋や美術館のスタッフ、カナダでのライター経験を経た後、現在は大学で働く傍ら、「映画エッセイ」を執筆。映画から抽出したエッセンスを日常の枠組みで解釈し、言葉で再構築する。
カトートシという名前は、俳人である祖父に由来するもの。

チーム未完成
チーム未完成

しをりん、ゆりしー、ぴっかぱいせん、ゲッツ!の落ち着いた大人の女性4名によるクリエイターごっこ集団。各々が、写真、デザイン、似顔絵、文章、音楽制作、DJ、ガヤなどの一発芸を持ち、2014年夏に渋谷センター街に彗星の如く出現した気でいます。パンと書かれたステッカー、パンのZINE、パンのグッズ、パンの楽曲等を次々と発表し、主にアートイベントの賑やかしとして活躍しています。最近は海外のアートブックフェアに乗り込んだり、CHAIやDJみそしるとMCごはんのMV制作もやらせてもらって恐縮です。

寺尾紗穂
寺尾紗穂

音楽家。文筆家。1981年11月7日東京生まれ。2007年ピアノ弾き語りによるアルバム『御身』が各方面で話題になり、坂本龍一や大貫妙子らから賛辞が寄せられる。以降、アルバム『御身onmi』『風はびゅうびゅう』『愛の秘密』『残照』『青い夜のさよなら』『楕円の夢』『私の好きなわらべうた』『たよりないもののために』をリリース。並行して伊賀航、あだち麗三郎と結成したバンド「冬にわかれて」の始動、坂口恭平バンドにも参加。活動は、映画の主題歌提供、CM音楽制作(ドコモ、森永など多数)やナレーション、エッセイやルポなど多岐にわたる。新聞、ウェブなどで連載を持ち、朝日新聞書評委員も務める。著書に『評伝 川島芳子』『愛し、日々』『原発労働者』『南洋と私』『あのころのパラオをさがして 日本統治下の南洋を生きた人々』、編著書に『音楽のまわり』がある。

麦島汐美
麦島汐美

1995年東京生まれ。
ミスiD2018文芸賞受賞。写真、映像、文章の制作と、インターネットや雑誌などで発表を行う。ステージで歌って踊るあの子も、50年前にひとりの部屋で小説を書いていたあなたも、いま隣で餃子を頬張っているこの子も私のアイドルなら、いつか私も誰かの小さい光になれたらと目論んでいる。現在はテレビの制作会社勤務。
https://shiomimugishima.com/

吉野舞
吉野舞

1995年生まれ。淡路島生まれ、育ち。
写真を撮ったり、文章を書いたりしています。
座右の銘は「人生の大体の出来事は、自分のせいで人のおかげ」。
今、東京。

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