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この過ぎゆく一瞬を/南沙良×ごめん

「頭の中の女の子」がテーマのショートショートを先行配信

連載:「頭の中の女の子たち」南沙良×ごめん
テキスト:南沙良 装画:ごめん 編集:上田智子、竹中万季
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電子書籍文芸誌『yom yom』で毎号エッセイ「届かない手紙を書きたい」を執筆する、女優でモデルの南沙良。『yom yom』2020年10月号で掲載予定の、イラストレーターで漫画家のごめんとコラボレーションした「頭の中の女の子」がテーマのショートショート全4話をShe isで順次先行公開。

夜の7時になってもあかるい夕暮れ。
アイスが一瞬で溶ける痛い日差し。
公園でぶつけ合う水風船。

暑すぎてかなわないこの季節。後ろめたさと居心地の悪さに塗り固められた冷房の監獄の日々を過ごしているということを白昼夢のように思い出してしまう。
私のいつもと変わりのない日々と生活から、余裕と体力、それから電気代を容赦なく奪っていく。捕まえてやろうと必死に追いかけているのに、気が付いたら遠く彼方へ去っていくこいつが嫌いだ。

そのはずなのに。毎年夏の終わりに訪れる花火大会の引力には絶対に打ち負かされてしまう。どうしてもかなわないのだ。

花火大会の日。私は今かいまかと待ち焦がれながら、ほんの少し早足で目的の場所へと向かう。この日のために色んな場所を回って、どこから眺めるのが一番いいのか、考えていたなんて誰にも言えない。花火が綺麗に見えて、外灯も少なく人もあまり通ることのない河川敷はまさに特等席。こんな素敵な場所を独り占めしていいものか少々罪悪感に駆られていたが、前言撤回。

暗くてはっきりは見えないけれど、ショートカットにジャージ姿の女性が立っている。
先客がいたことに肩を落としつつ、ここでの時間を共有できる気がして嬉しい。
とは言っても、人との距離の取り方なんて誰も教えてくれないからわからないけれど。

天と地を繋げるような大輪の花火。
夜空に光るたくさんの粒子に照らされる度に、私は永遠を願ってしまう。

「このまま時間が止まればいいのに」

毎日が特別辛いわけでも楽しいわけでもない。仕事は順調だし、お得意様と言われる有象無象の人たちからは「今日もかわいいね」とか「君がいると場が華やぐよ」って白々しい褒め言葉を浴びせてもらえている。

去年はどんな気持ちでこの光を見ていたのかすら、覚えていない。ただ、生活の中に潜んでいる瞬間的な刹那に心を奪われ、どうしようもなく悲しくなるのだ。
私の心を震わせたあの刹那たちは、もう二度と触れられない場所にありながら、私の中に確かに生きている。これを剥製みたいに永遠のものに出来たらどれだけ幸せだろう。

毎日なんてとてもあっけないもので、忘れることと思い出すことの繰り返しで保たれている。だからこそ、私の中の剥製たちを、味のなくなったチューインガムを噛んでいるみたいに、何度も反芻し噛み続ける。
そして、この先訪れる鮮やかな景色に何度も誓うのだ。
消えてしまうと分かっていても、この過ぎゆく一瞬を愛でることで、私はきっと確かなものになってみせる。

※『yom yom』2020年10月号(9月18日[金]配信開始/希望小売価格700円[税別])は、各電子書店でお求めいただけます。

PROFILE

南沙良
南沙良

女優、モデル。2002年6月11日生まれ。映画『幼な子われらに生まれ』(2017年8月公開)で女優デビュー。初主演映画『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』(2018年7月公開)で、報知映画賞、ブルーリボン賞他、数々の映画賞を受賞し、その演技力が高く評価される。本年度は、アーティスト・sumikaの新曲「エンドロール」のショートフィルムで主演を務め、その後も、ドラマ『ピンぼけの家族』(BSプレミアム)でヒロイン、映画『もみの家』で主演、ドラマ『これっきりサマー』(NHK大阪)で主演を務めるなど活躍する。11月下旬放送の特集ドラマ『うつ病九段』(BSプレミアム)、来年3月5日公開の映画『太陽は動かない』への出演を控える。江崎グリコ「ポッキー」イメージキャラクター。

ごめん
ごめん

イラストレーター、漫画家。「生活とさびしさ」をテーマに、イラストや漫画を描いている。2019年8月、初の書籍「たとえばいつかそれが愛じゃなくなったとして」を発売。

INFORMATION

連載:「頭の中の女の子たち」南沙良×ごめん
連載:「頭の中の女の子たち」南沙良×ごめん
南沙良とごめんによるショートショート。
頭の中に存在する女の子が浮かび上がる

第一回:この過ぎゆく一瞬を

書籍情報
書籍情報
『yom yom』

小説、コミック、エッセイ、ノンフィクションなど、あらゆるジャンルの注目作品をお届けするクロスオーバー文芸誌。毎奇数月第3金曜に電子書籍で配信しています。変化する時代の姿を捉えながら、そこに生きる私たちの「リアル」を追いかけたい――そうした願いを込めながら、最新カルチャーや国内外の社会情勢、思想・哲学の関連記事も充実させています。

2020年9月18日(金)配信
価格:770円(税込)
発行:新潮社

yom yom | 新潮社
yomyom (@yomyomclub) / Twitter

関連情報

「yom yom」2020年10月号の配信時である9月18日(金)から、南沙良とごめんによるコラボレーショングッズも販売予定。詳細は南沙良公式SNSをチェック。

南沙良 Instagram
南沙良 Twitter

この過ぎゆく一瞬を/南沙良×ごめん

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