原作と異なる結末はどう感じた? 「個人でなんとかするしかないのか」「前に進むこと自体は希望」
話題は原作とは異なるエンディングについても及びました。小説はジヨンの誕生から学生時代、就職、結婚、出産と時系列に淡々と出来事を追い、解決の糸口が見えない暗澹としたムードが支配している一方、ジヨンの現在を軸にした映画版では小説のその先が描かれ、原作よりも明るいトーンで物語が締めくくられます。
「ストレートに希望だな、としっくりくるところは自分には見つけられないまま終わってしまった」という参加者は、「『よくおごってくれる綺麗なお姉さん』というドラマでも会社のなかで女性が戦う場面があったが、女性側が少し折れて収拾がつくみたいなことが多い。女性が諦めるか戦うか、どっちに転んでも完全にはすっきりしなくて、この戦い方をずっと続けるのは絶望だなと思っていたので、映画のなかでも実際の社会でもまだまだ難しいんだなと感じました」と語ります。これには「システムをどうするかという話はなかった。諦めるか戦うか、個人でなんとかするしかないって感じだなとは思った」という同意の声があがりました。
また「元上司の会社に通うジヨンも見たかった」という声もある一方で、「その姿を見たら希望を感じられたかもしれないけど、それはそれできれいごとと思ってしまったかもしれない」という意見もあり、現在進行形で社会に存在し、解決されていない問題を扱っているからこそ、結末について答えが出ない難しさが改めて浮かび上がりました。
ジヨンは物語の最後で、原作にはないある手段を手にして前に進もうとする姿が描かれます。これについて「特権的で、実際にそれを手にできる人は少ない。普遍的でないと思ったし、絶望を感じた」という人も。ただしこの参加者はその後、原作が出版された2016年から映画が本国で公開された2019年の間の3年間の韓国社会の変化に思いを巡らせて、違う考えにも辿り着いたのだといいます。「この3年間、韓国では黙ったままで終わらない女性がたくさん出てきている。その結果うまくいかないこともあるけど、一歩前に出るということに対しての希望はあると思う。小説だと前に進まないけど、その行為自体は希望なのかなとは思った」と話してくれました。
ジヨンの夫のキャラクターにもさまざまな意見。「男性にこそ見てほしい」
コン・ユが演じた夫デヒョンのキャラクターについてもさまざまな意見が飛び交いました。
「育休とればいいじゃん」という意見には多くの同意が集まったほか、原作でジヨンが夫に「それで、(子どもができて)あなたが失うものは何なの? 私は今の生活や未来の計画も全部失うかもしれないんだよ」と話すシーンが映画にはなかった のが残念だったという人も。「ジヨンに歩み寄っているようで、やっぱりなんかちょっとずれている」「あの夫に何かを思う人もいれば、『デヒョン、良い人』って思う人もいるのではないか」と、コン・ユという人気俳優によって「良い夫」のように演じられているからこその懸念を示す声もありました。
また今回の参加者に男性はいませんでしたが、映画館で男性の観客の姿も散見されたという報告もあり、「男性にこそ見てほしい」という声も多くあがりました。韓国では夫に隠れて見に行ったという人もいるらしいというエピソードを教えてくれた参加者も。さらに「本作のオフィシャルサイトにコメントを寄せている著名人が女性ばかりだった。男性の感想が気になるので、男性のコメントこそ見たかった」という鋭い指摘も飛び出しました。
今回の『She is MEEETING』には原作は読んだが映画は未見という方々も参加してくれました。ある参加者は、女性が社会で置かれている状況について「結局どうしたら良いんだろう、どう伝えたら伝わるんだろう、ということを考えていつも止まってしまう」という葛藤があるとしたうえで、さまざまな問題に声をあげている石川優実さん(「#KuToo」運動で知られる)などのように、「こういう動きを私たちがしていかないといけないのかなとも感じました」と話しました。
また映画を見ていない別の参加者は、「原作はジヨンの職場での状況に共感して、悔しくて読み進められないところがあった。この気持ちをどうしたら良いんだろうって思っていたけど、映画ではお姉ちゃんの存在などもあるのですっきりするところもあるのかなという楽しみな気持ちと、涙が止まらなそうで映画館に行くのが怖いという気持ちもある」と、この日の『She is MEETING』を振り返って話してくれました。
今回の『She is MEETING』では時間が足りないほど意見が飛び交い、育ってきた環境や世代、社会で経験してきたことによってさまざまな見方、感じ方があることが改めてわかりました。原作と同様に、自分の経験と照らし合わせて、誰かと話したくさせるような力が本作にはあるのでしょう。見終わったあとに作品について、社会について、いろんな考えを巡らせて、人と語り合うところまでが『82年生まれ、キム・ジヨン』の鑑賞体験と言えるのかもしれません。
なお、次回の『She is MEETING』では、10月29日に映画『パピチャ 未来へのランウェイ』について語り合う会を行ないます。本作は、1990年代、過激派のイスラム原理主義勢力が台頭する内戦下のアルジェリアで実際に起きていた女性への弾圧を、ファッションデザイナーを目指す少女の視点で描いた作品。当日は、以前コムアイさんとの対談記事にもご出演してくださった、ムスリムでいらっしゃるアウファ・ヤジッドさんをゲストにお迎えします。参加方法などの詳細はこちらからご覧ください。
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