わたし、あなた、彼、彼女、動物、植物、鉱物、わたしと誰かの記憶、わたしの内側と外側、わたしとせかい。
ひとりの人間として生きながらも、この身体を通り抜けて、わたし以外の、わたしを形づくるいくつものかけらたちと同化したいと感じる。
わたしは五感を通して想像する。
森の中で車を走らせている時、このままわたしの身体が車ごと風景の一部に溶け込んでいくのではないかという感覚や、一緒に暮らしはじめた子猫の心臓に耳を当て、そのリズムに呼吸を合わせた時、わたしと子猫の境界線がまるで、水面に映る二つの波紋がやがて一つになるように、交わっていくような感覚を。
そうした瞬間に、わたしはその向こう側にわたし自身を垣間見る。
ふと、どこかから聞こえてくる音やイメージ、過去、現在、未来を行き来している誰かからの、せかいからの、わたしからのささやき。
毎日の中で出会うかけらの数々。五感を通して知覚する、いくつもの感覚や感情。
それらがパズルのように組み合わさって、わたし(らしさ)にかたちを与えてくれる。
もしかしたら、いつの日かわたしもかけらになって、旅立つときが訪れたら、誰かの、あなたの、せかいの、わたしの物語の一部になっているのかもしれない。
このせかいには、昨日までわたしだったものや、明日わたしになるものがそこらじゅうに散りばめられていて、それらに触れた瞬間に、わたしの中の何兆もの細胞たちが記憶を辿り、せかいを思い出し、繋がっているように感じる。
わたしたちは、いつも答えを求めている。
それを探し出して、理解しなければならないという呪縛の中を彷徨い、どこまでも追い求める。でも大抵、心がざわめいている時には真実は立ち現れない。それはまるで、水面に映る真実を波がかき消してしまうようなものだ。
引いてゆく波にわたしとせかいの秘密をあずけ、またふたたびかえってくる時を楽しみに待つように、その狭間でわたし(らしさ)に出会える気がしている。
何兆もの細胞たちを踊らせて、小さなかけらたちを手に、わたしとせかいの記憶を紐解きながら。
暗闇を光が照らすように、わたしたちはふたたび出会い、手を取り合って、ここからまたわたし(たち)の物語を書き綴ってゆく。