ワックスサシェ・キャンドルやジュエリーなど、自身の「好き」を様々な形で手作りするekot spectrum worksの櫻子さん。幻想的な色彩とモチーフから生み出されるその作品は宝石のように光を放ち、多くの人から熱い視線を向けられていますが、櫻子さんは「好きなものは自分のために存在する、という考えが大事です」と明瞭に話します。
「好き」の対象に熱中したり距離を置いたり、自分だけの心地よい関係性を探りながら、人に見せるためではなく自分のために大切に育てたものは癒しになる。独学でものづくりの学びを深めた櫻子さんが、長い道のりの中で見つけた答えには、「好き」とのちょうどいい付き合い方のヒントがありました。『出会えた“好き”を大切に。』調査隊コラム5回目です。
好きなものは自分のために存在する。
「檸檬はソワレ」をはじめ、ワックスサシェ・キャンドルやジュエリーなど自身が制作した作品を展開するekot spectrum worksディレクターの櫻子さん。She isでも以前、宝石石鹸やタイダイ染めなど、心ときめく簡単な手作りを教えてくれました。幼少期から東京、深圳、香港など様々な地で暮らし、ものづくりは遊びの一環として当たり前のように存在していましたが、決して得意なほうではなかったと話します。
櫻子:小さな頃からものを作ることは好きでした。ただ、特段得意なわけでもないし、センスがあるわけでもない。それでもものづくりにのめり込んだのは「自分の好きなものだけでも大事にしよう」という思いからです。
櫻子:以前She isの特集「ハロー、運命」で寄稿した「その生きづらさの伏線回収」というエッセイでも触れたのですが、高校生の頃まで、心身の調子を崩してしまうくらい自分に自信がありませんでした。周りの意見に流されて、他人の評価を気にしてしまう。好きなものがあっても、そこに自分はあまりなくて、もしかしたら「好き」を通して誰かに評価されたかったのかもしれません。
でも、「好き」は外とつながるためのツールではなくて、自分の内側を広げていくために存在するものではないかと考えるようになってから、いろんなことが変わっていきました。まず、好きなものに自信がない=自分に自信がないということに気がついたんです。それなら、自分が今好きなものだけでも信用して、大事にすることを心がけるようになりました。そこで残ったもののひとつが、ハンドメイドでした。
櫻子:ものづくりを通して自分を知れるヒントが生活の中に溢れていることに気づいてからは、自信も少しずつ回復していきました。それが、20代の中頃だったと思います。ワックスサシェに出会ったのは偶然。編み物もアクセサリー作りも以前やったことがあったので、挑戦していないことの方がやりがいあるし自由そうだったので、作り始めました。
手を動かすことで、自然と自分を癒してもらっているのだと思います。
櫻子さんは、以前寄稿されたエッセイの中でこう書かれています。「私はあらかじめ決められた自分ではどうしようもできないことに、打ちひしがれ続け、無邪気なほど向き合い、傷ついては泣いていた。どうしようもないのに。(中略)ただ、受け身で傷つくことだけが私に唯一できることなのだろうか?」。受け身な状態から、能動的にものづくりを行うようになったことで、櫻子さんの生きづらさは回復していきます。
櫻子:25歳くらいまでの3年間は、忙しすぎて記憶がないです。9時から17時まで働いて、夜の22時から朝の7時まで制作して、また9時から働く。忙しくても制作をやめなかったのは、私の心の拠り所だったからです。日々に忙殺されてしまうと、自分の中で何かがはち切れてしまいそうで怖かった。無意識でも手を動かすことで、自然と自分を癒してもらっていたのだと思います。
櫻子さんがつくっているサシェ
櫻子:昨年から、仏教や易学について学んでいます。「行」という仏教の考えかたがあるのですが、何かに触れたり修繕したり、行動すると心身が対象と同調して自意識が小さくなり、フラットな状態になれると言われています。ものづくりは勝手に進んでいくところもありますし、色をつけたり直したりすることで、自分自身も修繕されていく感覚はあるように思います。それは、ものづくりに限らず、例えばお部屋の掃除をしたりお風呂に入ったりしても、自他の境界線が融け合うことによって気持ちが落ち着いたり、スッキリしますよね。そういう感覚が、自分自身を取り戻してくれるし、はけ口になっていると思います。
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