全部無理だけど、逃げ出さないためにつくったクリームソーダ/猿田妃奈子

「エッセイ:『好き』をおいかけて。」vol.5

SPONSORED:『出会えた“好き”を大切に。』
テキスト:猿田妃奈子 編集:竹中万季
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たとえ他の人に理解されなかったとしても、自分だけの好きなものを持って生きてゆくのは尊いこと。She isでは、リクルートスタッフィングとBEAMSが運営するサイト「出会えた“好き”を大切に。」と連動して「エッセイ:『好き』をおいかけて。」の連載を行っています。今回は、自分で作ったデザートの写真を撮り続け、現在は作家として活動を行う猿田妃奈子さんによるエッセイをお届け。

中学生から高校生にかけての青春時代、絵が好きで、美大に入る目標を胸に毎日絵ばかり描いていました。
学科を選択するときも、「デザイン科じゃなくていいの?」と心配する先生や親をよそに、「デザインはあんまり楽しくない。絵を描いている方が楽しい」と、将来や就職のことは深く考えないまま油画を選択し、そのまま多摩美術大学の絵画学科油画専攻へと入学。ずっとおわらない青春のような日々が続き、大学3年生の夏、油画専攻の就職率がびっくりするくらい低いという当たり前の現実にぶち当たったときに、やっと、将来どうしましょう、と冷静になりました。

まわりにいる好きなことを仕事にしている人は、どんなジャンルであれ、「その他の苦労は問題なく感じるくらい、好きなことをしているのが好き」だと言っていたけれど、わたしはそんな風にはちっとも思えなかった。
アーティストとかミュージシャンが「これしかできないんです」と語るインタビューを見ては、それ以外のこともそれなりにできてしまう自分に落ち込みました。
時間も締め切りも守るし、コミュニケーションを取ることも好きだし、きっと絵を描くこととは関係のない会社の会社員として十分にやっていけてしまう……。
そんな自分も、自分が大切にしてきたはずの好きなことも、全部特別じゃないように思えて、卒業間近で作家を目指すことは諦めて、デザイン会社への就職を決めました。

知識も経験もないままデザイナーになったので、最初は業務をこなすだけで精一杯。デザイン会社だけれど社内には自分と同じデザイン職の人がいなく、同期も、年齢が近い人さえいない。大学の同じ学科の同級生にも就職した人はほとんどいなかったので、仕事面ではすごく孤独でした。
そんな自分を癒すため、アイドルにハマり、お笑いにハマり、YouTubeにハマり、喫茶店にハマり、カメラにハマり、様々なコンテンツや趣味を横断しながら、あらゆる方法で心を労る日々。
特別に泣きたいほど辛いことがあるわけではないけれど、もう全部無理だ~! という気持ちは、ふとした瞬間にやってきました。

ちょっとだけ悪い女の子になるためのソーダ

全部無理だけど、明日もちゃんと起きて仕事に行かなくちゃいけないし、ここで逃げ出すような自分にはなりたくないし、そんななかでつくったのが喫茶店のような、でも喫茶店では出していないようなアイスクリームたっぷりのクリームソーダ。
それは誰かに見せるためでもなく、飲んでもらうためでもなく、ただただ自分を癒すためにつくったデザートでした。
最初にクリームソーダを注いだグラスはわたしにとって特別で、一目惚れしてガラス作家の方に直接お願いして購入させていただいた宝物。そのグラスに反射したソーダがすごく綺麗に見えて、写真を撮ったのを覚えています。
そして、この写真は素敵だから見てほしい、とSNSに投稿したのがいまの制作や活動のはじまりです。

宝物のワイングラス

美大で絵を描いていたときは、まわりには上手な人ばかりいたから、この絵はSNSに載せるほどじゃない、なんて自分のなかで高いハードルをつくってしまっていたけれど、写真を撮ることは楽しくて、SNSを通して見てもらえることが素直に嬉しかった。それに、ダイレクトメッセージで「今日すごく嫌なことがあったんですけど、これを見て救われました」といただくことが何故か多くて、「自分と同じような気持ちの人に届いているなら、しばらく続けてみよう」と思って、デザートを食べた日は写真を撮って載せるまでがルーティーンに。

あたらしい日々を生き抜くためのゼリー

そうして写真を載せているうちに、写真を面白がってくれる人達に出会い、展示に参加させてもらったり、自分でイベントを企画するようになって、気が付いたら、なることも目指すことさえ辞めたはずの「作家」という肩書きで活動していました。

渋谷ヒカリエ MADO「永遠の恋人展」での展示風景

覚悟して諦めたものに、気付いたらなっていたときはびっくりしたけれど、振り返って思うのは、あのとき就職をしてよかったなあということ。

好きなものの近くで過ごしていたときは悩んでばかりいたけど、手放して、違う環境で過ごすことで、改めて自分の好きなものを見つめ直すことができたし、「ダメでも会社で頑張ればいいや」と思えるようになって、のびのびと好きなことを楽しめるようになったのが、すごく嬉しかった。
リスクをとりながら好きなことなんてできないよ! と思っていたけど、自分のなかでリスクになっている要素を見つけて、その不安を取り除いてあげることができれば、無敵にもなれる。

zine『ストロベリーショートケーキ』と、zineにつけたリング

それに、最初にクリームソーダを撮影したカメラは、就職することになったとき、「はじめてのお給料は記念になるものを残したい」と思って買ったカメラでした。
そのとき使っていたのは、RICOHのGR IIというカメラ。このカメラは写真家の森山大道がスナップ写真を撮るときに使っているカメラとしても有名で、洋服のポケットに入るくらい小さくて軽い。そのことを教えてくれたのは高校生のとき予備校で油絵を教えてくれていた先生で、いつかほしいとずっと憧れていました。
就職してなかったら、それまで勉強したことはもちろん、ほとんど触ったこともなかったカメラを買おうとは、きっと思わなかった。
そう考えると、作家になることを諦めて就職したあの瞬間は、作家へのスタート地点でもあったわけで……人生って時々映画みたいにロマンチックだなあと思います。

ファンシー盆栽のいう名のもとに制作と撮影をした植物

何かを選ぶとき、好きという気持ちだけで選べることばかりじゃない。
お金とか、時間とか、大切な人とか、いろいろなことを天秤にかけて諦めてしまう瞬間もたくさん、たくさんある。
でも、今日選べなかったものでも、1年後には迷わず選べるかもしれないし、ふとした瞬間に手が届くこともあるかもしれないから。
キラキラと輝いて見えるものは、ずっと心の中で大切にして大丈夫。
それはいつかわたしを、あなたを、救ってくれるかもしれないから。

PROFILE

猿田妃奈子
猿田妃奈子

1992年 東京都出身
多摩美術大学を卒業後、デザイナーとして働きながら、日常のスイーツをモチーフにした作品を制作。好きなメニューはショートケーキとカフェラテ。

INFORMATION

サイト情報
『出会えた“好き”を大切に。』

『出会えた“好き”を大切に。』
いろいろな経験をした結果
出会った“好き”に囲まれていると、
自分らしくいられる気がする。
“好き”にまっすぐだからこそ、
こだわりを貫けたり、
やりがいが感じられたり、
心が満たされたりする。

そんな、自分らしい“好き”は
日々の暮らしの中に
心地よい風を呼び込んでくれる。
だから、出会えた“好き”を大切に。

出会えた“好き”を大切に。|リクルートスタッフィング ビームス

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