安心できる場所で、自分の言葉で語り合おう。6人それぞれのフェミニズム

安心できる場所で、自分の言葉で語り合おう。6人それぞれのフェミニズム

それぞれがフェミニズムについて影響を受けた本のブックリストも

テキスト:阿部洋子 編集:竹中万季
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「自由になる手段としてのスピリチュアルという考え方が、フェミニズムにもつながるものがあるんじゃないかと思うんです」(垂水)

続いてみなさんに、今フェミニズムに関して気になっているテーマを発表してもらい、ご自身の言葉でお話しいただきました。

垂水さんのテーマは「異議申し立てとしてのスピリチュアル」。垂水さんは「スピリチュアルなものって馬鹿にされることが多いけれど、だからこそ権威に反抗するものとして捉えたい」と語ります。

垂水:最近タイトルに惹かれて読んだ本で『異議申し立てとしての宗教』というものがあって。私はヨーロッパの文学や文化が好きなんですが、やはり根底にキリスト教という大きな存在があり、その中心には家父長制があるんですよね。この本はキリスト教という権威に対する「異議申し立て」としての「改宗」をフィーチャーしたものになっています。正直フェミニズムと直接関係があるわけではないんですけど、権威に対するオルタナティブな選択肢の提示・反抗という面でヒントがあるような気がしました。

私は政治的な運動とスピリチュアルなものの関係に興味があって、例えばアフリカ系アメリカ人のヒップホップ文化とキリスト教の関係について論じた『ヒップホップ・レザレクション』(山下壮起著、新教出版社)も、まさに公民権運動と宗教・黒人文化の中にあるスピリチュアルなもの、魂みたいなものについて書かれていてすごく面白かった。藤本和子さんの黒人女性へのインタビュー集『塩を食う女たち――聞書・北米の黒人女性』(岩波書店)にもあったけれど、物質的に恵まれていなかったり、自分たちの身体が奴隷として束縛されている中で、自由になる手段としてのスピリチュアルという考え方が面白いと思って。こうした考え方はフェミニズムにもつながるものがあるんじゃないかと思うんです。

『異議申し立てとしての宗教』(ゴウリ・ヴィシュワナータン著、三原芳秋編訳、田辺明生・常田夕美子・新部亨子訳、みすず書房)

「家父長制とか伝統が割り込んできて話せなかったけれど、わたしとあなた、本当なら魂と魂の存在で話ができたかもしれない」(きくち)

垂水さんの話を受け、きくちさんは自身のテーマとつながってくると思ったそう。きくちさんのテーマは「本当の本当はあなたとわたしのあいだのこと」。

きくち:私のテーマは、実体験をもとに思ったことで。子供が1歳ぐらいになった頃から、2人の初老の女性に「2人目は産まないのか?」「1人だとかわいそうね」というようなことを言われたことがあったんです。そのうちの1人はパートナーの実家の近所に住む、知り合いのおばちゃん。「1人しかいないなら、次は男の子だね」と言われて。その時はショックすぎて、怒りの玉みたいなものが喉元まで迫り上がってきたんですが、とても小さい集落だから、いろんな関係もあって何も言えなかったんです。わたしとあなた、二人ともこの社会では女性として生きてきて、話せることがいっぱいあったかもしれない。魂と魂の存在で話ができたかもしれないのに、家父長制とか伝統が割り込んできて話せなかったって思っちゃったんですね。

今私にできることは、相手を変えようと思わずに、自分が勉強して変わることで、先の未来につなげていくことなのかなと。まずは自分が、自分より下の年代の人たちに、そういうことを言わないようになる。「そんなことがあったの?」って言われるような未来のために、何かしら働きかけられたらいいなと思うんです。

「不安定さに目を向けることで、いろんな立場にある人がつながることができるんじゃないかと思いました」(楠田)

他のメンバーからも、違う時代や環境の中で生きてきた人と話し合うことの難しさを感じるとの声が。楠田さんは自分たちが置かれている状況の「不安定性」を認識することも、対話の糸口になるのではと言います。

楠田:私の挙げた「不安定性」というテーマは、ジュディス・バトラーという哲学者が『アセンブリ』(佐藤嘉幸・清水知子訳、青土社)という著書で使っている言葉です。簡単に言うと、ある特定の性別やエスニシティ、特定の職業の人、セクシャルマイノリティの人などが、特に暴力、貧困、死に晒されやすい状況のことを「不安定性」って言っているんですね。

この言葉を知ったとき、不安定さに目を向けることで、いろんな立場にある人がつながることができるんじゃないかと思いました。例えば、もちろん女性差別は今も根強くあるから「女性」と掲げるのは必要ということは前提にあるけれど、それによって個々の立場の人の苦しみが見えなくなってしまう状況があるなと思っていて。というのも、私は生まれた時に割り当てられた性別と、今の自分の性自認がどちらも女性の、シスジェンダーの女性で、そういう人が「女性は」という主語で喋った時に、そこからこぼれ落ちてしまっている人たちがいると思うんです。

つまり、一言で「女性」と言ってもトランスジェンダーの人やいろんな状況に置かれている人がいて、そういったなかで「女性」という言葉で一般化してしまうと、不利な立場に置かれている人の存在を隠してしまう。しかも、そもそも、それぞれの女性がどのような苦しみを持っているかは、もちろん完全には理解できません。でも「不安定性」というのを考えると、不利な立場の存在に目を向けることになるし、どんな種類の苦しみなのかを理解できなくても、苦しみがあることそれ自体は理解できる。他にも、例えば性別にかかわらず低賃金で働かされている人も弱い立場にあると言えますよね。そういった搾取や差別は、その人たちが不安定な立場に置かれているという意味ではつながっていて。そういうところに目を向けると、それぞれの差異を保ちながら、それを超えてつながれるんじゃないかと思っています。

「同じ女性でも、それまでに自分が経験してこなかったことは見えていなかったことに気づいたんです」(エミリー)

楠田さんの意見に関連するのが、エミリーさんのテーマ「フェミニズムは女性の生きやすさだけを考える思想なのか?」。当初エミリーさんはフェミニズムを「女性がもっと生きやすくなる」ためだけの考えだと思っていたそう。けれど年齢を重ねたことで、その考えに変化があったと言います。

エミリー:私は自分自身が女性として扱われることに違和感を感じてはいたのですが、大人になるまで女性だからできないことがあるとか、こうしなきゃいけないという考えに接することなく生きてきて。だから正直、最初に『男も女もみんなフェミニストでなきゃ』を読んだ時も、今の日本ではそんなことってないんじゃないかなと思った部分もあったんです。

ですが、自分が社会に出て働き出し、20代後半になってパートナーができたり、周りの友人が結婚したりする中で、例えば共働きなのに女性だけが家事をやらされるといった状況を目の当たりにして、女性としての生きづらさを自分の日常で感じるようになって。同じ女性でも、それまでに自分が経験してこなかったことは見えていなかったことに気づいたんですね。だったら、そもそも「女性」と定義すること自体が難しい中で、いろんな人が自分らしく、この性別だったらこうあるべきだ、というものからもっと自由になって、生きたいように生きられる方がいいんじゃないかと思うんです。

「私が人と対話する時にいつも思うのは、どうしたらここが安心な場所になるか。どうしたら対峙しているその人が安心な気持ちでいられるか」(めぐみ)

めぐみさんのテーマは「安心な場所、人、モノ、気持ち」。めぐみさんは「安心な場所」で語るためにも、フェミニズムが「女性」というフレームを一時的に使うことは有効だと話します。

めぐみ:私も当初、フェミニズムに対して「なんでヒューマニズムじゃダメなんだろう?」と思っていたんですが、今日みたいに一時的に「女性」というフレームを設定することで、こうやって話せることが生まれてくるんですよね。この「一時的な」というのがポイントで、一時的なフレームをたくさん用意していくことが大事だと思います。

私がフェミニズムについて考える時に、一番欲しいものは安心な場所であり、安心な人であり、安心なモノであり、安心な気持ちです。というのも、私は小さい頃から不審な人に追いかけられるようなことがよくあって。特にずっと付きまとわれていた男性に、自分が大好きだった図書館の中であとをつけられるという、今思い返してもすごく悲しいことがあって。ずっと忘れていたんですけど、大学生になってフェミニズムを知り、自分の経験を言語化できるようになった時にその出来事を突然思い出したんですよね。そういえば、あの図書館にはいつからか行かなくなったなって。そして、「あの時私は安心な場所を奪われたんじゃない?」と思ったんです。

私が人と対話する時にいつも思うのは、どうしたらここが安心な場所になるか。どうしたら対峙しているその人が安心な気持ちでいられるかということ。そのためにも、自分に刷り込まれている価値観を疑わなきゃいけないと思っています。

「アイドルを神格化するのではなくて、一緒にフェミニズムについて考えられたら、実践できたらという風に思っています」(麦島)

めぐみさんの話を受けて、麦島さんは「アイドルとフェミニズム」の関係について語ってくれました。自身も2018年の『ミスiD(講談社主催のアイドルオーディション)』で文芸賞を受賞したアイドルでもある麦島さん。この経験が、アイドルとフェミニズムの関係を考えるきっかけになったそう。

麦島:ミスiDに出てアイドルという立場の内側に入ったことで見方が変わったところがあって。確かに今の日本のアイドル文化の構造として、ファンと実際に握手をしたり、男女の恋愛の歌を歌ったりする部分はあるのですが、アイドルの友達を見ていると、その人たち自身は自分の生きやすい場所で、自分の安心できる場所で、歌って踊りたいと思っているのをすごく感じて。ミスiDには卒業という概念はないので、私自身心の中で「自分はアイドルだ」と思うことで保てる部分もあったりして。これを続けていくことが、私のフェミニズムかなと思っています。

その一方で、アイドルがフェミニズムを語ると、大きなバッシングがあることも事実です。韓国のアイドルグループ「f(x)」のソルリという女の子は、主体性を持ってフェミニズムや慰安婦のことを発信していて、それに対して激しいバッシングを受けていました。私も大好きで、こんなバッシングにあってもソルリはすごいから大丈夫、私たちも付いていく、と思っていたら、ある日突然死んでしまった。アイドルを神格化するのではなくて、一緒にフェミニズムについて考えられたら、実践できたらという風に思っています。

フェミニズムを考えるためのブックリスト

お話中に出てきた本に加えて、事前に上げていただいた本も併せて紹介。「フェミニズム」と一言で言っても、選ぶ本はさまざまです。フェミニズムについて考え始めるきっかけとなる一冊が見つかったらうれしいです。

【めぐみあゆさんの選書】

『彼女の体とその他の断片』
(カルメン・マリア・マチャド著、小澤英実・小澤身和子・岸本佐知子・松田青子訳、エトセトラブックス)

『エトセトラVOL.1 特集:コンビニからエロ本がなくなる日』
(田房永子責任編集、エトセトラブックス)

『ジェンダー写真論 1991-2017』
(笠原美智子著、里山社)

【エミリーさんの選書】

『男も女もみんなフェミニストでなきゃ』
(チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ著、くぼたのぞみ訳、河出書房新社)

『ジェンダー写真論 1991-2017』
(笠原美智子著、里山社)

『エトセトラ VOL.3 特集:私の私による私のための身体』
(長田杏奈責任編集、エトセトラブックス)

【きくちゆみこさんの選書】

『サバルタンは語ることができるか』
(G・C・スピヴァク著、上村忠男訳、みすず書房)

『ヒロインズ』
(ケイト・ザンブレノ著、西山敦子訳、C.I.P.Books)

『多田尋子小説集 体温』
(多田尋子著、書肆汽水域)

『女性・ネイティヴ・他者』
(トリン・T.ミンハ著、竹村和子訳、岩波書店)

【垂水萌さんの選書】

『自分ひとりの部屋』
(ヴァージニア・ウルフ著、片山亜紀訳、平凡社ライブラリー)

『異議申し立てとしての宗教』
(ゴウリ・ヴィシュワナータン著、三原芳秋編訳、田辺明生・常田夕美子・新部亨子訳、みすず書房)

『ヒップホップ・レザレクション』
(山下壮起著、新教出版社)

『アート・オン・マイ・マインド』
(ベル・フックス著、杉山直子訳、三元社)

【楠田ひかりさんの選書】

『日本のヤバい女の子』
(はらだ有彩著、柏書房)

『美容は自尊心の筋トレ』
(長田杏奈著、Pヴァイン)

『夏物語』
(川上未映子著、文藝春秋)

『アセンブリ』
(ジュディス・バトラー著、佐藤嘉幸・清水知子訳、青土社)

『三ギニー』
(ヴァージニア・ウルフ著、片山亜紀訳、平凡社)

【麦島汐美さんの選書】

『私たちにはことばが必要だ フェミニストは黙らない』
(イ・ミンギョン著、すんみ・小山内園子訳、タバブックス)

『赤朽葉家の伝説』
(桜庭一樹著、創元推理文庫)

PROFILE

エミリー
エミリー

1991年生まれ。
幼少期から物語・雑誌・ファッション・女の子に魅せられて過ごす。大学時代に文芸批評を学んだことをきっかけに、本を読み、思考を巡らせ、言葉にすることが日々の心の拠り所に。
普段はファッション業界で働きながら、ライフワークとして言葉を綴る。

ZINE『towards the light』を2020年5月に発行予定。

きくちゆみこ
きくちゆみこ

言葉を使った作品制作・展示をしたり、時おり翻訳もします。
「嘘つきたちのための」小さな文芸誌 (unintended.) L I A R S 発行人。

「わたし、現実なんていらない。わたしが欲しいのは魔法なの! そう、魔法よ。わたしがみんなにあげようとしてるのは魔法なのよ。わたしは物事をねじ曲げて伝えるわ。真実なんて語らない。わたしが語りたいのはね、真実であるべきことなのよ!」(テネシー・ウィリアムズ 『欲望という名の電車』)が座右の銘。

楠田ひかり
楠田ひかり

1995年神戸市生まれ。一橋大学言語社会研究科博士後期課程在学中。
イギリスの作家、ヴァージニア・ウルフについて研究しています。とくに、フェミニズム、後期モダニズム、家族・生殖がテーマの文学に関心があります。
ウルフは、日常を埋めつくす取るに足らない出来事のなかから一瞬の閃きが生じることを描いた作家です。彼女に出会って以来、雑多な繰りかえしの日々を生きていくことと、読むことや書くことのなかで感知できるものを地続きに考えたいと思っています。

垂水萌
垂水萌

よく本を読みます。どうやら人生のテーマが愛のようなので何を考えていても大体愛を巡る話になるし、モテに関して人生を通じて苛まれ続けています。また、読書好きなことによって合コンでアドバンテージを取れた試しが無いことを気に病んでいます。「書を捨てるな、合コンに行くな」を標語に掲げ、安易なモテに流されず、よく本を読みよく学び、真実の愛をなんとかしたいものだなぁと思っています。

麦島汐美
麦島汐美

1995年東京生まれ。
ミスiD2018文芸賞受賞。写真、映像、文章の制作と、インターネットや雑誌などで発表を行う。ステージで歌って踊るあの子も、50年前にひとりの部屋で小説を書いていたあなたも、いま隣で餃子を頬張っているこの子も私のアイドルなら、いつか私も誰かの小さい光になれたらと目論んでいる。現在はテレビの制作会社勤務。

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めぐみあゆ
めぐみあゆ

1996年生まれ、みずがめ座。BROTHER SUN SISTER MOONのベースボーカル。同志社大学文学研究科に在籍し、現代アメリカ文学と翻訳を学ぶ。

歌をうたいます。ときどき書いたり、翻訳したりします。

INFORMATION

書籍情報
写真集「やさしい海には骨がある?」

著:麦島汐美

2020年の3月から12月にかけて、日本の各地で撮影したポートレートを中心とした写真集です。
大文字の歴史に私たちの名前が見当たらなくても、それぞれの場所でそれぞれのあなたたちが、2020年という年を生きていたことを記録しています。

価格:¥1,760(税込) ※送料別途
発行年:2021年2月
取扱:「OLD / NEW SELECT BOOKSHOP 百年」店頭または通販にて
麦島汐美 やさしい海には骨がある? | 百年 - OLD / NEW SELECT BOOKSHOP 百年 -

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