この1、2年の日本のホテルシーンで最も注目されたホテルとして挙げられるのが、ブライダル業界大手のテイクアンドギヴ・ニーズによる「TRUNK(HOTEL)」、そしてearth music&ecologyやkoeを手がけるアパレル企業・ストライプインターナショナルによる「hotel koé tokyo」ではないでしょうか。
いずれもブライダルやアパレルなどの別事業に会社としての事業軸を置きながら、あたかもアンテナショップ的な形でホテル事業を立ち上げ、渋谷にオープンしています。
客室数は10数室と決して多くはなく、シングルルームで30000円~/泊とアッパーミドルに向けたマーケティングを展開したり、DJブースやカフェ&バーを有してラウンジを宿泊者以外にも開放するところ、また、オリジナルブランドを販売するストアを併設してキャッシュポイントを増やしたり、海外アパレルブランドのパーティーなどのイベント利用も積極的に打ち出すところなど、両ホテルの共通点は非常に多いようです。
日本のユースカルチャーの発信源であり、国内外から感度の高い若者が集う渋谷で、進化を遂げた二つのホテルについて紹介します。
人々が集うカフェ&バーやコンセプトショップを展開し、ライフスタイルを提案する「TRUNK(HOTEL)」
渋谷・キャットストリートに立つTRUNK(HOTEL)は、ブライダル業界大手のテイクアンドギヴ・ニーズによって作られたライフスタイル型ホテル。「ソーシャライジング」をコンセプトに掲げ、等身大で社会に貢献できるライフスタイルを発信しています。
ホテル内には広いラウンジにカフェ&バーがあり、宿泊客だけではなく近隣に住む客もコーヒーブレイクをしたり作業したりできる落ち着いた空間。アパレル関係者が多いのか、宿泊客を含め全体に洗練された空気感が漂っていました。
ホテルにはアーティストによるインスタレーション作品が展示されているほか、コンセプトショップを併設。「TRUNK」のロゴがあしらわれたオリジナルグッズが食品から日用品まで展開されており、ブランドの価値観が凝縮されています。
4,600平方メートルの延べ床面積のうち、客室数はわずか15室。そのかわり、収容人数が100名を超えるようなイベントスペースが4つあるほか、チャペルやミーティングルームなどもあり、ウェディングパーティーのみならず、CartierをはじめとするハイブランドのパーティーやDJイベントも行われています。
ただのホテル空間ではなく、渋谷という街を拠点にして人々が出会い、文化が生まれる空間となっています。
週末はDJによるライブも。ファッショニスタが賑わう「hotel koé tokyo」
宇田川町に立つhotel koé tokyoは、earth music&ecologyやkoeなどのアパレルブランドを手がけるほか、『岡崎芸術交流』など文化芸術事業にも関わる企業、ストライプインターナショナルによってプロデュースされた、stay、fashion、music&foodの3つの要素、つまり衣食住をトータルで体験することができるライフスタイル系ホテル。
建築設計事務所、SUPPOSE DESIGN OFFICEの谷尻誠氏と吉田愛氏によって設計され、木や石、ガラスの素材感を生かしミニマムでリッチな空間に。交差点に立つこのホテルはガラス越しに中が見えるオープンな設計になっており、いつも渋谷を闊歩するファッショニスタたちで賑わっています。
レセプションやカフェのある1階では金曜日と土曜日に沖野修二やtofubeatsなどカルチャーシーンを代表するDJたちが音を鳴らし、2階にはホテルの名前にもなっているkoéのショップが併設され、実際に購入することができます。このように、ホテルという冠の下で、ライフスタイルとカルチャーをトータルプロデュースしているのです。
泊まってもいいし、泊まらなくても楽しめる。「HOTEL」という名が与えられた文化の発信基地
誤解を恐れずに言えば、これらはホテル事業として収益を上げるために生まれた空間ではないのかもしれません。TRUNK(HOTEL)は本来の事業であるウェディングパーティーが行えるパーティースペースを空間のメインに据えているし、hotel koé tokyoでもアパレルショップの占有面積がかなり大きいけれど、あえて「HOTEL」という名を与えることで、街に対して開け、人々が溜まり、新たな文化を生み出すことができる空間を創っているのだと思います。
ホテルはとても面白い箱です。その街に住む人も、地球の裏側に住んでいる旅人も、この箱の中で一夜を明かす。Netflix社を筆頭に、IT企業たちがしのぎを削ってユーザーの占有時間を奪い合っている中、ホテルは悠々とユーザーの1日の大半という時間を手に入れています。
この状況の中で、もともとホテルのために立ち上がったわけではないブランドであっても、アンテナショップ的にブランドの価値観を落とし込んだホテル空間を持つことで、より深く、濃くブランドのファンとコミュニケーションを取ることができています。
これらのホテルは、「HOTEL」という名前を冠することで、衣食住にわたってブランドの世界観を堪能できる空間となっています。だから、泊まっても楽しいし、泊まらなくても存分に楽しめる。ホテルという開けた空間だからこそ、ライフスタイルに合わせた幅広い目的で過ごすことができるのです。
今までライフスタイルを提案し、カルチャーシーンを牽引してきた異業種が、ホテルに新しい風を吹き込んでいます。ぜひ、あなたの肌で体感してみませんか。