「あなたの記憶をおもちください。記憶の風景をいただくかわりに、その抜け殻をお渡しします」。これは、2019年3月16日に原美術館で行われたYUKI FUJISAWAの発表に添えられた言葉です。このワークショップとモデルプレゼンテーションから構成される参加型イベント『“1000 Memories of” 記憶のWorkshop』を観に行った前田エマさんが、撮影した写真とともに、当日の記憶にあいに行きました。
記憶にあう<YUKI FUJISAWA>(前編)
3月だというのに暖かかった。
コートを着ずに、セーターだけで過ごした日のことを、
私はいつまで、覚えていられるのだろうか。
来年で閉館となる原美術館。
もともとここは、とある家族が暮らす家だった。
「あなたの一番大切な記憶をおもちください」
そう言われた人々は、一枚のなにかしらが印刷された紙を持って来た。
その記憶が金色の箔となり、服にプリントされ、誰かの一着になるという。
写真を持ってくる人、絵を持ってくる人、言葉を書く人……。
いろんな想いが、集まった。
私たちは、古びた絵はがきに似た、茶色くて薄いクッキーと
甘酸っぱい記憶を思い出したかのような、苺味のジャムを食べた。
夕方、雨が降って来た。
窓に散らばったビーズみたいな雨粒は、夕日に照らされて金色に光っていた。
雨は、すぐにやんだ。
それから何人もの女の子たちが、
記憶の破片を纏った服を着て中庭を歩いた。
いつかの誰かの大切だった服たちが
パラソルの下や、ベッドの上に置かれていたり
ハンガーにかけられたりしていた。
様々な人の記憶が、交差し合ったあの時間。
同じ時間に在ったとしても、同じものを見ていたとしても
嬉しいね、切ないね、私の記憶は私のものでしかない。