第1回「ローズマリーの最大値」

人生の中でもトップレベルに残るおいしい記憶のマリネ

2019年7・8月 特集:やすみやすみ、やろう
連載:河井菜摘の「好きになるには理由が必要」
テキスト・写真:河井菜摘 編集:野村由芽
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記憶に残る思い出や味、人、子供の頃に大好きだったもの、心の動きを辿ってみると必ず理由がそこにある。好きになるのに理由なんてない、という言葉はなんとも頼りなく思う。

自分がいいなと思ったアイテムを紹介する「買い物(かいもん)マガジン」というインスタグラムをやっていて、そこでは必ず「なぜいいのか」を書くようにしている。
このアカウントにはありがたいことに老若男女ファンがいて、親子や姉妹、夫婦、カップルで見てますなんて声も届く。
私の職業が漆と金継ぎの修復家で、職人が紹介するアイテムということもどうやら少なからず説得力があるようだ。

大学、大学院と6年間京都の芸大に通って漆を学んだ。漆制作は時間のかかるもので、展覧会前には大学に連泊してお風呂に入るためにしか家に帰れない、という日がザラにあった。
大学院2年目、展覧会前で連泊してボロボロになっていた時に、同じ院部屋だったかざゆちゃんという友達が疲れてるだろうからと差し入れしてくれたグレープフルーツのマリネが忘れられない。
フレッシュのローズマリーと少しほの甘いシロップに浸してあったグレープフルーツのマリネ。

疲れてるから酸味も甘みも嬉しいのに、ローズマリーの香りでこんなに果物が美味しくなるんだ……! とその香りが魔法のようでびっくりした記憶がある。
グレープフルーツの酸っぱい香りをローズマリー特有の柔らかな花のような香りでコーティングした極上の甘み。
何より、自分の疲れ具合を察して作って持ってきてくれたのが嬉しかった。

このマリネは人生の中でもトップレベルに残るおいしい記憶だった。
おいしかったけど、作り方も簡単だけど、きっとあの時を越えるおいしさはもう来ないだろうな、とも思う。
おいしいの理由は、単純に味じゃない。甘く香る冷たい瑞々しさと優しさが沁み入る自分の状況。
いろんなことが重なってできたおいしいは後からもやってきて10年後の今も続いている。

この香りは魔法のように特別だから、同じように疲れた人がいたら差し入れてあげたい、これはそんなレシピ。

【作り方】
1. 白ワイン大さじ2、水100ml、砂糖50g、ローズマリー2枝を小鍋に入れて沸騰させる。
2. 粗熱が取れた1に皮を剥いたグレープフルーツを漬ける。

3. 半日ほど冷蔵庫で馴染ませて出来上がり。

余ったシロップまでおいしいので、ソーダ割りにしてドリンクとして楽しんでください。

PROFILE

河井菜摘
河井菜摘

1984年大阪生まれ。京都市立芸術大学、大学院にて漆工を学ぶ。
2015年に独立し漆と金継ぎがメインの修復家として活動。
陶磁器、漆器、竹製品、木製品など日常使いのうつわから古美術品まで1000点以上の修復を行う。
同じく2015年にInstagramをきっかけに購入した鳥取の山の家で過ごしながら、京都・東京・鳥取の3拠点生活を送る。
Instagram「買い物(かいもん)マガジン」主宰。
買い物(かいもん)マガジン

INFORMATION

連載:河井菜摘の「好きになるには理由が必要」
連載:河井菜摘の「好きになるには理由が必要」
漆と金継ぎ修復家で「買い物マガジン」
主宰でもある目利きの職人がえらぶもの

第1回「ローズマリーの最大値」

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