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川上未映子さんと21世紀の結婚や出産、私たちの生き方の話をした

川上未映子さんと
21世紀の結婚や出産、
私たちの生き方の話をした

怒りと愛は矛盾しない、誰も犠牲にならなくていい

2017年9・10月 特集:未来からきた女性
インタビュー・テキスト:野村由芽 撮影:森山将人
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結婚したいなとか、子どもを生んでみたいなとちょっとでも思ったら、やってみたらいい。

—ところで、女の人は結婚や出産という選択肢によって、生活が大きく変化しますよね。いまは21世紀だし、「結婚しない」「出産しない」という選択が認められてきているとは思いつつ、ある程度の年齢になると、物理的に産むことが難しくなったり、日本では婚外子を育てることが難しい状況があるから、やっぱり「結婚してない」「子どもがいない」ということを、自分でプレッシャーに感じてしまうこともあると思うんです。「結婚しないの?」「子どもはまだ?」みたいなわかりやすいプレッシャーだけじゃなくて、自分のなかで「これでいいんだっけ?」って思ってしまうというか。

川上:結婚と出産も問題は大変ですよね。外圧と内圧の両方で。

—そうですね。前に人と話していて、「結婚できる」「結婚できない」みたいに、結婚が「能力」の有無で決まるかのような言葉遣いがあたりまえになっているよね、という話をして。そういう言葉って自分でも無意識に使っているけど、すると自分がちょっとすり減るので、やめたいなあとも思います。

川上:でも、局所的にはもはや、結婚しないでいられる女性の方がスペックが高いという感じにもなってきていますよね。結婚は「結婚してよかった」というよりも「この人と一緒にいてよかった」ということが本質だから、「結婚していない」ということに対して自分のなかで後ろめたさがあるとすれば、「私はどうしてよいパートナーと巡り会えないんだろう?」ということなのかな。だからそこを、She isの人たちは変えてほしいな。これから話すべきテーマはもはや結婚ではなくて、「パートナー選び」ですよ。

—まさに「多様なパートナーのありかた」という特集を今年中にやる予定でした……! 結婚や出産をめぐる議論って、すごく取り残されているなと。

川上:あとは、外圧は論外として、自分のなかで後ろめたさがあるとすれば、経験したことがないことに対して、「やっぱりやっておいた方がいいのではないか?」と興味を持っているということだと思います。たとえば私は旅行って全然興味がないから、まわりがいくら絶景を見たり、おいしいものを食べていても、行かないことで後悔することって考えられない。そういう意味でいうと、子どもに一切興味がなければ気にならないと思うんだけど、でもきっと、ちょっとは関心が、あるわけですよね。

—そうなのかも。

川上:その関心の内訳について考えてみると、気持ちが少し整理できるかも。つまり、その「そわそわ」が、どこ由来のものなのか。同調圧力が動機で、何かを決めたり決めなかったりすると、これはあとあとしんどいです。だからもし、自分の内側からこみあげてくるものであるのなら、自分の好奇心とか期待とか、ここまでやってきた自分を信じてやって、思いきってやってみるのもいいのでは?

—わああ……その発想は全然なかったですね。

川上:おそらく、結婚しなくても生きていけるような女性はみんなあれこれ気がまわるから、全部リスクヘッジして、周到にやろうと思うから難しいんじゃないかな? だって、ここまで自分を30何年間、仕上げてきただけでもしんどいのに、結婚や子どものように、自分の人生をまた変えるできごとというのは、当然しんどいことですよ。子どもは、これまで培ってきた人生の合理性なんてものを全力で潰しにくる存在(笑)。でも、どこかでやってみたいわけだよね。破滅願望のように(笑)。

—破滅願望(笑)。

川上:そうそう、よりよい破滅願望というかね。常に人間っていうのは変わってゆく生き物なわけだから、変わりたいという欲望は、すばらしいことなんだと思いますよ。いい結婚も、あんまりよくない結婚も、両方あります。いい親子関係も、苦しい親子関係も。基本的に人は後悔することを恐れるけれど、後悔するかしないか、こればっかりはやってみないとわからない。誰にもわからないんです。だから、賭けですよね。個人的には、結婚したいなとか、子どもを生んでみたいなとちょっとでも思ったら、私はやってみたらいいと思います。何をしていても生きるってことはどうせしんどいことの連続なんだから、未知のしんどさに出会うのも悪くないよ(笑)。

自分が変わっていくときに、相手も変わる準備ができる人を選ぶこと。

—ちょっとでも思ったら。

川上:うん。もし、子どもが気になっているんならね。たとえば川久保玲(コム・デ・ギャルソンのデザイナー)を愛していて、髪の毛を刈り上げているとしますよね。ところが、ちょっと道を行くゆるふわの人を見て、あっちの人生もよかったんじゃないか……とふと思う。なんなら自分はちょっとかわいいし、あの服装の方がモテるのでは? とかね、ふと思ったりすると。そしたら、明日はゆるふわな服を着てみたらいいんですよ。できるなら、したいなら、両方やればいいと思う。まあ着脱できる洋服と、一度産んだら産まなかったことにはできない子どもとでは大きな違いがあるけれど(笑)。でも、どっちかじゃないんですよね。バリキャリをやったら、パートナーも子どももすべてを諦めなきゃいけないという極端な話はなくて、さまざまなバランスで同居は可能だから。たしかに諦めなきゃいけないこともでてくるけれど、得るものも相当にある。何より、自分が変わるし、世界が変わる。違う場所にいけるんです。

—たしかに、世の中で二項対立として語られがちなことのほとんどは、共存することができるんだと思います。それを頭で知っているだけじゃなくて、少しずつでもいいから実践してみることが大事なんですよね。

川上:ただ、気をつけないといけないのは、やっぱり物事にはチャンスというのがありますよね。仕事をしながら、結婚も子どもも気になるな……というときにいい人に出会ったら、よーく見極めて、ちゃんと気持ちを伝えること。いまもしかしたら子どもを作るチャンスかも? と感じたら、ちょっと状況をフリーズさせてでも子どもつくる、とか。自分自身の心にちゃんと問いかけて、そのとき何がいちばん大切なことなのかを確認する。ぼんやりしちゃだめ。ぼんやりしてなかったら大体のことはうまくいきます。そしてそのときに大切なのは、自分が変わっていくときに、相手も変わる準備ができる人を選ぶことなのじゃないかな。

PROFILE

川上未映子
川上未映子

1976年8月29日、大阪府生まれ。 2007年、デビュー小説『わたくし率イン 歯ー、または世界』が第137回芥川賞候補に。同年、第1回早稲田大学坪内逍遥大賞奨励賞受賞。2008年、『乳と卵』で第138回芥川賞を受賞。2009年、詩集『先端で、さすわ さされるわ そらええわ』で第14回中原中也賞受賞。2010年、『ヘヴン』で平成21年度芸術選奨文部科学大臣新人賞、第20回紫式部文学賞受賞。2013年、詩集『水瓶』で第43回高見順賞受賞。短編集『愛の夢とか』で第49回谷崎潤一郎賞受賞。2016年、『あこがれ』で渡辺淳一文学賞受賞。「マリーの愛の証明」にてGranta Best of Young Japanese Novelists 2016に選出。他に『すべて真夜中の恋人たち』や村上春樹との共著『みみずくは黄昏に飛び立つ』など著書多数。

INFORMATION

リリース情報
リリース情報
『早稲田文学増刊 女性号』

発売日:2017年9月21日(木)
価格:2,376円(税込)
発行:筑摩書房
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