私はAV女優になりたかったわけだし、正しい道ってなんだろう? と思う。
─『最低。』では、AV女優の道を選んだ女性とその母の葛藤が物語の大きなテーマとして描かれています。親との確執を抱えている人がいることを踏まえてのエピソードだと思うのですが、紗倉さんご自身が、この仕事を始めたときのお母さまの反応は?
紗倉:高専のときにAVデビューしたんですけど、東京に行った電車の領収書とかを見て、こっそりなにかしていることは察していたと思います。母に最初に打ち明けたときは否定も応援もなく、ひたすら驚いていましたけどね。ただ、AVメーカーへの所属が決まってから、後戻りができない状況で打ち明けたので、「まなが決めたなら応援する」と結果的には認めてくれて。
─反対されていたら、今とまったく同じように仕事はできていなかったかもしれませんよね。
紗倉:できていないと思います。AV女優を始めた頃、学校にバレてしまって大変なことになったんですけど、そのときも母が一緒に嘘を貫いてくれて。最初は反対されると思っていたので親の反応には驚きましたけど、いろいろ考えた末に認めてくれたことを考えると、私以上に気持ちの強い人というか、愛情が深い人なんだと思います。
AV女優には「身バレ」という問題があって、それでやめてしまう人もいるのですが、「バレるくらい有名になれたらいいし、バレたなら仕事として向いているんじゃない」って言ってくれたこともありました。私はお金を稼ぐことも好きだし(笑)、根は暗いんだけど、いざ外に出ると活発になれるタイプ。そのあたりも理解して背中をおしてくれたんじゃないかな。
─強力な味方になってくれたんですね。紗倉さんのことを理解していらっしゃるお母さまですが、これまでどんなコミュニケーションをとってきたんですか?
紗倉:反抗期が長くて小4から中3ぐらいまでケンカばかりしていたし、私からはあんまり相談したりしないんですけど、悩んでいるときには察して話しかけてくれる。母親はネットストーカーで私のエゴサーチをいつもしているので、私より私に詳しいんですよ(笑)。グラビアで出ている雑誌は必ず買って、スクラップブックにしてくれていて。さすがにAVとか行為中の裸の写真は入っていないと思うんですけど、集めるのが楽しいって言っていました。そのせいで近所のコンビニでは、いつもエロ本を買うおばさんって言われているみたいです(笑)。
─紗倉さんのことをよく見ているのかもしれませんね。お母さまから言われた言葉で、心に残っていることはありますか?
紗倉:銭湯やお風呂場に行くと、「(身体の)線がいいわねえ。綺麗ねえ。」って。もともと自信がないタイプだった娘に、褒めて自信をつける言葉をたくさんかけてくれたのは大きかったと思います。母親のような存在がいなかったら悩みごとももっと多かったし、今みたいなかたちで仕事を続けられているかもわからないですし。
─素敵なお母さまですね。
紗倉:……そう言ってもらえると嬉しいです。「紗倉まなの母親はおかしい」「母親なんだから正しい道へ導くべき」みたいに、母親がAV女優という仕事に肯定的なことに対して否定的な意見を言われることも多くて。でも、私はAV女優になりたかったわけだし、じゃあ正しい道ってなんだろう? と思いますね。
自分の心を守るためには、ときに逃げることも大事だと思います。
─AV女優にかぎらず、仕事やプライベートで親との関係がうまくいかないと、自己肯定感が生まれにくいですよね。今まさに家族に自分の選択を反対されている人に対して、紗倉さんの意見をお聞かせいただけたら。
紗倉:具体的な解決策は、関係性によりけりなので難しいんですけど……。母親もひとりの女性だし、父親もひとりの男性だというふうに、自分と親を切り離して親もひとりの人間だと考えてみるといいんじゃないかなと思います。私も両親が離婚したときに、子どもながら、「ああ、父親と母親も男女なんだな」と思ったんですよね。母親は女性として自分の道を選ぶし、私もひとりの女性としてやりたいことを選択する。
AVにかぎらず表に出る職業の子で、メジャーになっても親が認めてくれず、勘当されている子もいるとよく聞きます。好きな仕事なのに、自己肯定感が生まれずに苦しく続けるのは切ないじゃないですか。たしかに、自分は親があっての存在だけれども、親に肯定してもらうために生きているわけではないと思うんですよね。
─『最低。』の原作に、「親の思い通りに生きるために子どもだって生まれてくるわけじゃないっつうに。立派な大学を出ろ、安定した職につけ、結婚してよき妻になれ、早めに子どもを産めだとか、散々や。それがゴールじゃないなんてまったくわかっていない──親なのに悪霊のようにとり憑いて、子どもは一生苦しむんや。やりたいこと、思う存分やったらええんちゃう?」というセリフがありましたね。
紗倉:そもそもやりたいことを探すのって難しいと思うし、せっかく好きな仕事が見つかったのに、それをがんばっていることを認めてもらえないのは悲しいですよね。母親も私もひとりの女性として、自分の価値は自分で肯定するという考え方に、振り切るしかないかなと思います。
もちろん、親と自分を切り離したくても、それこそ悪霊のようにしつこくつきまとわれることもあると思います。でも逆に親だったら、とことん逃げてもいいのかな、とも思うんですよね。血はつながっていても、やっぱり別々の人間。自分を全部理解されなくてもいいし、理解できないことが親不孝でもないと思うんです。親のために生きているわけではなくて、自分の人生を生きているんだから、自分の心を守るためには、ときに逃げることも大事だと思います。