親の育ってきた環境に思いを馳せることは、自分を理解することにも繋がります。
─家族というのは、不思議な存在ですよね。血がつながっていて、近いからこそ、それだけの関係だから遠く感じることもあって。
紗倉:そうですね。家族との関係を書くことが好きで、これまでも『凹凸』(2017年)や『最低。』で書いてきました。ひとりの人間の背景には、いろんな歴史や時間、人が存在していて、それらのさまざまなつながりが人格を形成しているとことに面白さを感じています。
もちろん家族だけが大きな影響を与えるわけではないんだけど、やっぱり自分が受け継ぐ血だけは何があっても自分で選択できないというのは大きいですよね。私は母親の子ども時代に出会うことはできないけれど、親の育ってきた環境に思いを馳せることは、自分を理解することにも繋がるなと。
─紗倉さんご自身が母になる、ということは考えたりされますか?
紗倉:周りに結婚する人が増えてきて、自分の結婚観について考えるようになりました。前までは絶対に結婚したくないと思っていたんですよ。家事は全くできないし、旦那さんの両親と揉めたくないし、子どもも育てられるのか自信がないし。結婚しなくても付き合うだけで幸せだって思っていたんです。でも最近は、別に型にとらわれた結婚生活をなぞらなくていいし、機会があれば一回くらい結婚してもいいかなって思うようになりました。
よく「自分の子どもがAV女優になったら、認められますか?」と聞かれるんですけど、その立場に立っていないので、まだ自分のなかではよくわからなくて。原作を書いた『最低。』の映画を観て改めて、AVという職業を客観的に見られた部分もあります。まわりから見た自分や自分の職業を追体験できたというか。そういう経験を繰り返しながら、自分の将来はもうちょっと考えていきたいですね。
自分を傷つけない方法を知っている女性は魅力的。
─『最低。』における女性の描き方にしてもそうですが、紗倉さんはひとりの女性が選択する人生について、いろんな方向から考えられていますよね。『ミスiD』の審査員や雑誌のお悩み相談の連載も受け持たれていますが、さまざまな女性の内面を意識的に見ている紗倉さんにとって、魅力的な女性とはどのような方ですか?
紗倉:自分を傷つけない方法を知っている女性は魅力的だし、カッコイイなと思います。たとえば、私の周りにはネットに傷つけられまくっている人がとても多いんですよ。でもネットなら、情報の取捨選択で自分の傷つき具合を調整できますよね。なのに、周りを見ていると、特攻隊のようにわざわざ傷つく方向にドーンと進んでいく子がいるんですよね。私も、もともとそういうタイプなので気持ちはわかりますけど、いかに自分を傷つけないかに意識を向けられたら、とっても楽に、生きやすくなると思います。
─自分の心を守るためには、ときに逃げることも大事だという先ほどの言葉にも近しいですね。
紗倉:「逃げてもいいよ」って伝えたい気持ちが強いんでしょうね。傷つくことでしかわからないこともあるし、傷ついた経験が人の痛みの理解につながって、優しさに変わることもあります。でも傷つくことに慣れてしまうと、知らないうちにどんどん自らを痛めつけることになるんですよね。逃げかもしれないけれど、匿名でいろんなことを言われてしまう時代だから、自分で自分を守らなきゃいけないと思います。
私自身はエゴサーチもしないんですよ。ときどき、不慮の事故で心ない発言も目にしてしまいますけど、それは家のなかに出たゴキブリみたいなもの。見なかったことにして、そっと画面を閉じます。見ないようにすると、とてつもなく楽に生きられますよ。「傷ついていないのに、人のことなんてわかるか!」と言う人がいますけれど、全然そんなことないと思うんです。ハッピーな考えなら、ハッピーなままでいい。最終的に、最高の味方は自分しかいないわけですし、自分を肯定できるようになればすっと力がぬけて、楽になりますから。
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