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能町みね子×植本一子 「こうあるべき」を壊す二人のパートナー観

能町みね子×植本一子
「こうあるべき」を壊す二人のパートナー観

「恋愛」も「結婚」も、決して一言ではくくれない

2017年12月 特集:だれと生きる?
インタビュー・テキスト:野村由芽 撮影:西田香織
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家族はお互いが生きながらえるための装置。(植本)

植本:人と一緒にいるってそういうことですよね。そういえば私、ゲイの友達に「一緒に住みませんか?」って、軽ーくだけど、本気で言ったことがあって。勝手だけど、彼はちょっと寂しいんじゃないかな? と思っていたのもあるし、うちは家族以外の第三者が入ったほうが風通しがよくなって、うまくまわるんです。そのときは、彼から断られちゃったんですけど。

─いまの話もそうですが、植本さんの本を読んでいると、血がつながっていたり、一対一の好き合った男女とその子どもというあり方だけじゃない家族の形に居心地のよさを見出しているように思います。もともと、ECDさんと結婚を決めたときにはどういうふうに考えていたのですか?

植本:結婚の決め手にはいろいろな理由があるんですけど、私はまともな結婚はできないだろうなと思っていたところに石田さんと出会って、「この人となら結婚できる」と思ったんですよね。それは尊敬できるところがあったのと、自分がいないとこの人はダメだって思ってしまった。石田さんを、孤独な人だなと思って、「私がこの人を助けてあげなきゃ」みたいな気持ちになってしまったんです。勝手かもしれませんが。

でも向こうからしても、子どもが一人増えたみたいな状態だったと思うし、お互いに「拾った」という感じがあったんじゃないかな。それで共依存みたいな関係が合致してしまったところがあって、すぐに結婚に進んだのかな、と今の分析では思っています。そこから紆余曲折あって、石田さんが病気になって、それを看取ってあげるのは二人の間の最後の仕事だと思っている。

─ECDさんに対して、この人は一人だと生き延びられないんじゃないか、というふうに感じていたということですね。能町さんがサムソンさんと籍を入れたいと考えた理由にも、「生き延びるために誰かと生きていく」という思いがある気がしました。そこが共通しているのかなと。

能町:それはそうですね。サムソンさんは結婚を「生命維持装置」と言っていました。私は炊事洗濯掃除が大嫌いで、一人でいるとどんどん生活が荒れていくんですよ。向こうも多分そういうタイプではあるんですけど、やっぱり誰かの目があるとちょっと立て直すというか、人がいるところで服を脱ぎ散らかしたままということはしなくなったり。

これまではお互いの家をたまに行き来するだけだったんですけど、この間初めて1か月同居したら明らかに生活がしっかりして。もちろん一人で生きていける人もいますが、人と暮らすことが生命維持装置だという側面はあると思います。

植本:本当にそうですよね。今は娘がいるので、家族はお互いが生きながらえるための装置だなとより強く思います。石田さんは病気になってしまったけれど、独身の頃はすごく不摂生だったから、結婚したことでそこは少しマシになったんじゃないかなとは感じているんですよね。もちろん本当のところはわからないけど。

私も結婚当初は、カメラマンとしても全然生計が立てられていなかったし、何かアクションを起こさないと世の中からも注目されず、このままだと自分が社会から消えてしまうという怖さを感じていました。必死だったんですよね。そのために結婚を選んだところはあったかもしれない。

恋愛と結婚が必ずしも延長線上にあるべきだと思っていない。(能町)

─生存戦略的な部分がありながらも、お二人とも表現者だからということかもしれませんが、どこか自分を客観視してより面白い方向へ人生をドライブさせているような感覚もあると感じます。とくに能町さんにはその感覚が強めかなと思うのですが、それはどこからきているのでしょう?

能町:そうですね……なんとなくかっこつけた言い方になってしまうのですが、常識に沿って生きている人を揺さぶりたいみたいなところがあって。少しパンク精神みたいなところがあるのかもしれません。自分の性別を変えたときにもそういう感覚があって、当時は男性から女性になる人というと、美人ニューハーフかお笑いの人かにイメージが固定されていて、そうじゃない人として表に出ていったらどんな反応をされるだろう? という気持ちがありました。

自分自身、世間で言う「常識的な生き方」ができないということが強烈なコンプレックスとしてあって、その裏返しで「なんとなく常識的だと思われていること」を揺さぶってしまいたいという気持ちはどこかにあると思います。

植本:うんうん。

能町:だからサムソンさんにすごくしつこく言っているのは、「結婚したとしても、お互いできるだけ不倫できるように頑張ろう」って。私はあんまり恋愛らしい恋愛をしてこなかったけれど、恋愛している人を楽しそうだなとは思いますし、自分の恋愛に対して、何もかも完全に諦めているわけではなくて。もしそういう刺激的なことが起きたら、それも面白いだろうなと。

恋愛と結婚が必ずしも延長線上にあるべきだと思っていないからこそ、自分が結婚した状態で、お互いに別の人と恋愛してみたいんですよね。ただ、この間、実は私が知らない間にサムソンさんは男を2回くらい家に連れ込んでいることが発覚して。それを聞いて「言ってよ!」って。

植本:(笑)。気を遣われたんですかね?

能町:気を遣うというか、言う必要ないと思っていたんでしょうね。全く嫉妬はしないけど、その話は聞きたいという妙な独占欲が生まれた不思議な経験でした(笑)。

PROFILE

能町みね子
能町みね子

北海道出身。近著「雑誌の人格」「雑誌の人格2冊目」(共に文化出版局)、「ほじくりストリートビュー」(交通新聞社)、「逃北」「言葉尻とらえ隊」(文春文庫)、「ときめかない日記」(幻冬舎文庫)など。ほか雑誌連載多数、テレビ・ラジオにも出演。

植本一子
植本一子

1984年、広島県生まれ。2003年、キヤノン写真新世紀で荒木経惟氏より優秀賞を受賞し写真家としてのキャリアをスタートさせる。広告、雑誌、CDジャケット、PV等幅広く活動中。13年より下北沢に自然光を使った写真館「天然スタジオ」を立ち上げ、一般家庭の記念撮影をライフワークとしている。著書に『働けECD わたしの育児混沌記』『かなわない』『家族最後の日』、共著に『ホームシック 生活(2〜3人分)』(ECDとの共著)がある。

INFORMATION

リリース情報
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能町みね子
『雑誌の人格 2冊目』

2017年12月22日(金)発売
価格:1,620円(税込)
発行:文化出版局
Amazon

リリース情報
リリース情報
植本一子
『降伏の記録』

2017年10月26日(木)
価格:1,944円(税込)
発行:河出書房新社
Amazon

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