『日本のヤバい女の子』を知っていますか? ちょっとドキッとしてしまうこの言葉。昔話に登場する名もなき女の子の生きづらさや気持ちの機微を丁寧に紐解き、今をより良く生きるためのヒントを授けてくれるはらだ有彩さんの連載で、5月には書籍としての刊行も決定しています。
She isでは、テキスト・テキスタイル・イラストレーションを作る「テキストレーター」である彼女と一緒に、4月の特集「ほのあかるいエロ」のギフトでお贈りするオリジナルプロダクトとして自分の欲求に素直に触れるようなトランクスを作りました。今も昔も変わらない女性(と男性)の生きづらさや、はらださんが以前から不思議に感じていたという女性がいつの間にか縛られている暗黙のレギュレーション、そしてトランクスのテキスタイルに込めた思いについて語ってもらいました。
いまあるレギュレーションをばきばきにしたい。
はらださんが手がける「日本の民話に登場する女の子」をモチーフにしたテキスタイルブランド「mon.you.moyo」。昔から変身の象徴として用いられてきたという「文様」「模様」を身につけて、欲しいものを手に入れてデモニッシュに生きる「強くてヤバい女の子」に変身してもらいたい、という思いからこの名前をつけたそうです。彼女のもの作りの根源にある、「いまあるレギュレーションを壊したい」という気持ちについて話してくれました。
はらだ:実家が160年前から続く煎餅屋なんです。実家には古い道具や写真、文献がたくさんあるんですけど、時代の流れのなかでなくなっていったり、残っていくものにすごく興味を持つようになりました。昔から残っているものは、誰かが残そうと思ってわざと残しているものですよね。でも、消えてしまったものには、自然に消えてしまったものも、わざと消したものもあると思ったんです。その思惑に、すごく興味を持つようになって。
それはものだけじゃなくて、風習とかルールもそうだと考え始めたんです。今認識されている「これがいいもの」「こうするべき」っていうものも、どこにルーツがあるのかなと。とにかくレギュレーションを壊したいんですよ。
そんなルーツを探していくうえで、はらださんは昔話や伝記に登場する名もなき女の子たちに優しく眼差しを注ぎます。
はらだ:5月に『日本のヤバい女の子』っていう本を出すんですけど、これは昔話に出てくる女の子のちょっとした行動や言葉尻を捉え、当時の環境を想像して、その通説と、「実はこう思っていたんじゃないか」っていうことを、照らし合わせて掘り下げていく本です。
あのときはそんなふうに言っていなかったけど、本当はこう思っていたんだよねって、歴史のなかで生きてきた女の子たちに寄り添いたい。女性は社会的に弱い立場だった歴史が長いし、昔話に出てくる女の子のなかには名前すらついていない人もいます。そこに埋もれてしまった感情や出来事を抽出したら、たぶん今の女の子の生きづらさにも通ずるところがあると思うんです。
はらださんが昔話の女の子たちを通して見ていたのは、現代の女の子の姿。違うように見えて変わらない、生きづらさの共通点とはなんなのでしょうか。
はらだ:極端な言い方をすると、女の子は昔も今も、自分が知らない間にやらないといけないことを決められてしまっているんですよね。結婚、出産、家事、化粧もそうだし、今で言うと就職活動でヒールを履くとか、脱毛をしなきゃいけないとか。そうした「しなくてはいけない」から女の子を解放するということは、ひいては男の子を解放することでもあると思うんです。「女の子はこうじゃなきゃいけない」と「男の子はこうあるべき」っていうのは、きっと繋がっているから。
みんなが好きなように、より良く暮らせたらいいなって思うから、いまあるレギュレーションをばきばきにしたい。だから、そのルーツを探って、本当に従わなきゃいけないのかを自分で見極めて、生きづらさと寄り添えたらいいなと思っているんです。
なんとなく「秘めなければ」という雰囲気が蔓延している現状に働きかけられたら。
今回のテーマである「エロ」に対する、暗黙の了解で広がっている「秘めなければ」という空気も、まさにはらださんが壊したいレギュレーションのひとつだそう。
はらだ:エロやセックスについても、今の文化でたまたま隠そうという空気になっているから、とにかく秘めといてって言われますよね。でも、本当に秘めなければならないことなのか、なにがルーツで、なにが本当に正しいことなのかはわからない。
そういうものを秘め事にしないといけないと思い込む必要は全くなくて。なんとなく「秘めなければ」という雰囲気が蔓延している現状に働きかけられたらいいなって。
She is(@sheis_jp)にて #ほのあかるいエロ というテーマで「我慢ならないセックスと思いのままのセックス」について短い物語を書きました 一生分のセックスという単語を使った
【タナースとエロトス-セックスで生きたり死んだりすること-/はらだ有彩】https://t.co/PaEBhJEIxs pic.twitter.com/b5DLqJGJhz
— はりー (@hurry1116) 2018年4月19日
はらださんが特集「ほのあかるいエロ」に寄せてくれた物語「タナースとエロトス 〜セックスで生きたり死んだりすること〜」
秘めねばならないもの、恥ずべきものとして扱われがちな性の話。言われてみれば、なぜそう扱われているのかの起源はぱっと思い浮かびません。では、逆にただ明け透けにすることが良いものなのでしょうか。はらださんは秘め事の楽しさやかわいらしさについても教えてくれました。
はらだ:セックスを楽しむための演出という意味では、秘めることは魅力的に働きますよね。たとえば、サスペンスドラマで最初から犯人がわかっていたら面白くないじゃないですか。だから、ここでは見せるし、ここでは隠すっていう緩急のあるエンターテイメントは、本当にかわいらしいものだと思います。
でもそれは秘め事にするというプレイの範囲でだけ楽しくって。『刑事コロンボ』とか『古畑任三郎』みたいに、最初から犯人がわかっているパターンも十分面白いし、十分興奮するし、ケースバイケースです。秘め事でなくてはいけない必要性は全然ないし、どういうプレイを所望するかによりますよね。
とはいえ現状では、人と性の話ができなかったり、セックスのときに自分が本当に思っていることができないと悩む女の子も多いはず。そんな秘め事のルールに縛られてしまっている女の子たちの気持ちに、はらださんはこう言葉を続けます。
はらだ:自分が本当にしたいことだけを大事にしてほしいです。難しいと思うんですけど、明日死ぬと思ったらどうでもよくなることは放っておいてほしい。失ったときのことを想像して嫌なことって、本当に失いたくないことだから。
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