SNSで起きていることをすべて鵜呑みにしてはいけないとも思うんです。(東)
―東さんが主宰する縷縷夢兎は「縷縷夢兎を着るまで死ねない」といったツイートが散見されるように、コアなファンを抱えています。ご自身やブランドは、SNSからどんな影響を受けていると感じますか?
東:私の場合はもともと、縷縷夢兎のモデルになってほしい女の子探しのためにSNSにハマっていきました。
菅本:女の子探しって、あやしい(笑)。
東:(笑)。従来、モデルハントは街でするのが普通だったけど、私はSNS上に住み着く、まだ有名でない女の子を発掘して、服を着てもらうのが楽しかったんです。たとえばネットアイドルがそうだったように、私生活を明かさず架空の人物になりきって、ネットからいつでもいなくなってしまえるような、儚さのある子たちに興味があって。ファッションデザインよりも、彼女たちに着てもらうためにコンセプトが先行して縷縷夢兎をつくっていましたね。
東:今はあの頃みたいに別の人格を立ち上げるというより、その人の内面のリアリティをさらけ出す場所に変わってきていますよね。でもそこには矛盾があって「インスタ映え」に代表されているように、リアルを見せているようで、結局は虚構であるという矛盾も生んでいて。おしゃれなカップケーキはアリだけど、ラーメンはアップしないというような。
菅本:うんうん。
東:SNS映え用の可愛いスイーツを買って、写真を撮ったら捨ててしまうといったことが社会問題になったりしていて、SNSの使い方に正しい、正しくないという絶対的なルールはないとしても、SNSにとらわれてリアルを演出している様子を見ると、虚しくなってしまうことはありますよね。自分が何を大切にすべきかはもっと考えたいなって。
縷縷夢兎っていうものの本質は
きっとまだ1%も伝わってないんだなぁ、やばいなぁ、となりました
美少女揃えてインスタ映えコンテンツを提供する
それが縷縷夢兎だと思っているとしたら私はあと10年かかるなぁと思った
未来は遠いし明日は早い— 東佳苗✟縷縷夢兎(るるむう) (@usagi_kanae) 2018年2月3日
ブランドの転機となった個展『YOURS』(2018年)会期中の東さんの投稿より。
―SNSに助けられている側面がある一方で、批評的に見ている部分もあると。
東:そうですね。もちろんSNSがなかったら今の私はいないと感じますけど、SNSで起きていることをすべて鵜呑みにしてはいけないとも思うんです。SNSでつぶやけば反応があるし、縷縷夢兎のファンに出会えることもすごく嬉しいし、SNSが親友みたいになっていた時期もありました。共に生きていたと言っていいと思います。
しかも縷縷夢兎は一点物の衣装として制作することが多いから、なかなかファンの方が服を手にとることができなくて、アーティストや芸能人のような選ばれた人しか着られないイメージがあったからクローズドなコミュニティで盛り上がっていって。ファンの方に好意的に見てもらえるのはもちろん本当にすごくありがたいのだけれど、それとは別に、いつの間にかブランド自体を虚構のなかに押し込めてしまっているなという危機感も最近感じているんです。
菅本:縷縷夢兎は超熱烈なファンを抱えていますもんね。佳苗さんも神格化されている。
縷縷夢兎の服を着たゆうこすさん。
好きなものを好きだと表明して、それで愛されたなら、きっとその人はポジティブになれるし、輝くことができますよね。(菅本)
―ゆうこすさんもファンと強固なコミュニティを形成しているように感じますが、どんなことを意識していますか?
菅本:常に「共感し続けられる存在であること」。そのひと言につきますね。ほぼニートだった時期、ずっとSNSを観察していたんですけど「共感されている人が一番勝っている」と思ったんです。だからゆうこすの場合、「ぶりっこ・おっぱい・元アイドル」を男性に対して売りにしても、それは共感ではなくて欲望だから、すぐに消費されて終わってしまう。
それで、女の子全員に共感してもらうのではなく、本当はレースやフリルの服を着たり、ピンクのグッズを持ったりしてぶりっこしたいけど、周りの目を気にしてできない子たち「だけ」に向けて発信しようと決めたんです。
オファーが増えてきて嬉しい反面、私は私を消費したくないんです。分かってくれてる人とお仕事をしたい。これはわがままではないです。
その為にも今後もSNSで発信を続けます。まだ伝わってなかったんだなと反省して、私はやっぱり発信します。
中途半端にメディア出るくらいなら、本気でSNSしたい。
— ゆうこす♡菅本裕子 (@yukos_kawaii) 2018年4月18日
Instagramのフォロワーが30万人を突破したときに、ファンの方に向けて届けた投稿。
―すべての女の子ではなく、ゆうこすさんが大事にしていることに共感したいと感じる人だけに発信したんですね。
菅本:「モテ」って、イメージとしては相手に合わせるスタンスだと思われがちですが、私の場合は自分の好きなことを発信して、心から共感してくれる人だけがファンになってくれることが「モテ」だと思っています。自分が好きなものを好きだと表明して、それで愛されたなら、きっとその人はポジティブになれるし、輝くことができますよね。
吉野家でパスタを売ってもきっと売れないのと同じで、軸がぶれちゃうとゆうこす自身が死んじゃう(笑)。コミュニティが小さくても大きくなっても、まわりに好かれるために自分を合わせることはこれからもないです。
東:ゆうこすがそもそも持っている個性や嗜好が、世の中のマジョリティの「モテ」につながるものだったから多くの共感を呼んでいるし、ゆうこす自身の軸もぶれないというのもあるよね。たとえばどちらかというと趣味嗜好がマイノリティの人の場合、モテのためーーつまり人から認められるために服装を変える人もいるじゃない? 好きな人の好みに合わせて自分の服のテイストを変えたりとか、雑誌の特集だったら「黒よりはピンクを着たほうがモテる」とか。
菅本:うん。でもそこで私が言いたいのは、全身黒づくめが好きならそのままでいい! 佳苗さんが言うように、私はたまたまモテ服といわれるフェミニン系が好き。でも、黒づくめファッションが好きな人はそのスタイルを貫き通して、そのままの自分を好きになってくれる人を見つけてほしいです。合わせるんじゃなくて、合う人を待ったほうが、結果的にその人からモテるわけで、本質的なモテに繋がると思うから。