<場違い繰り返したら 何年かすれば それが“普通” となっているでしょう>と、再メジャーデビュー作“余裕”のリリックにおいて、あえて空気を読まないことで、「当たり前」とされている価値観を書き換えていくことを歌う、ラッパー・あっこゴリラさん。そして、宮越里子さんとsuper-KIKIさんの姉妹は、同じ志を持つ人たちと制作しているZINE『NEW ERA Ladies』などにおいて、主にジェンダーに関する先入観や固定観念を問い直す活動を行ってきました。
日常のなかで自身が感じてきた違和感や疑問、怒りを、それぞれの手段で実践的に表明し続けてきた3名。一人一人が自分の心を消費せずに、今いる場所から生活をつくっていくにはどうしたらよいのか? 手探りで自身の視界を開いてきた彼女たちの言葉には、たくさんのヒントが詰まっています。初対面にもかかわらず、驚くほど意気投合した三人の鼎談は、super-KIKIさんが制作した、パワフルなお洋服を身につけて始まりました。
生まれ持った属性や社会からかけられた呪いを打ち砕くことができるのも、ファッションの力のひとつ。(super-KIKI)
super-KIKI・宮越里子(以下、KIKI・里子):今日はお会いできて嬉しいです!
あっこゴリラ(以下、あっこ):こちらこそ! お会いする前に(super-)KIKIさんのInstagramを見て、「私と一緒だ、間違いない。しっくりくる」と思ったんです。今日の服をスタイリングしてもらったんですけど、赤と青を組み合わせるところにシンパシーを感じて……というのも、私の前の家、カーペットが赤でカーテンが青だったの(笑)。こういうふうに自由で、パワーがもらえるスタイリングってなかなかないから、すごく嬉しい。
KIKI:めちゃくちゃ光栄です……。
—KIKIさんがお洋服という方法で表現を始めたのはなぜだったのでしょうか?
KIKI:もともと服をリメイクしたりするのは好きでした。私は喋りがうまいほうじゃないので何か伝えたいことがあるときに自分が身につけられるものにメッセージが入っていたらいいなと思って、持っている服にプリントし始めたのがきっかけです。生活に溶け込む(デモに持っていく)プラカードのような、個人の声を伝えやすくするツールのひとつだと思ってます。あとは、生まれ持った属性や社会からかけられた呪いを打ち砕くのも、ファッションの力のひとつだと思っていて。
KIKI:たとえば「太ってる」とか「痩せてる」とか「ババア」とか「若い」とか、中身より先に見た目をジャッジされてその考えを自分でも内面化してしまい「私にはこの服を着る価値がない」とか自信をなくしてしまうことってありますよね。でも自分が好きな服やメイクを選択して街を歩くことは、自分自身の想像力、自分の手で掴み取ったセンスを見せつけること。それが評価されたり、誰も評価しなくても自分自身が思いっきり「かわいい! かっこいい!」と思えればそれが自己肯定につながっていく。
あっこゴリラちゃんを見て、「空気を読まないことを完成させた人がここにいる」と思って。(里子)
—思うままに装うことは自尊心を守ることに繋がるし、なおかつ他者に向けて自己を発信する手段にもなるということですね。
KIKI:この間、『東京レインボープライド』というイベントで、同性愛やいろいろな性の自由とフェミニズムのつながりをテーマにしたフロートを姉がデザインして、私はイラストを描かせてもらって。韓国から来たDJの Seeseaさんが最高の音楽を流すトラックについてみんなで歩きました。そこに参加した人たちに、私のつくった衣装を使って自由にスタイリングしてもらい、歩いてもらったんです。
あっこ:写真見たけど最高だった!
KIKI:彼女たちや彼らがこうしてカラフルで思い思いの格好をして先頭に躍り出て、大声で「MY BODY MY CHOICE!」とか「クィアパワー!」「私の人生は私が決める!」といったコールをしている様子に、その場にいる人もエンパワーメントされたんじゃないかな。
里子:普段は服装がおとなしめな感じの子が、スパンコールやド派手な服を身につけたり、クィアでパンツしか履いていなかった子が初めてスカート履いてすごく楽しそうでした。パレードの最中も、見たことないくらいパワフルに踊って叫んだりしているのを見て、私も追いつけないくらいエネルギッシュで驚きました。
実は、そのときフロートに乗ってくれるDJやミュージシャンの人は誰がいいかな? って話していて、あっこゴリラちゃんの名前も出ていたんですけど。
あっこ:ええー!
里子:歌詞も行動もファッションもずっと注目していました。『水曜The NIGHT』っていうライムスター宇多丸さんの番組にあっこゴリラちゃんが出たときに、番組の最後にさらっと「次回は生理の話をしたいと思います」って言ってて、さすがだなって。
私は「空気を読め(KY)」と散々言われてきたので、ラッパーのRUMIさんが「あえて空気読みません」っていう曲を出したときに( “A.K.Y” )、いい意味で「やばいな」と思っていたんだけど、その番組を見て、「空気を読まないことを完成させた人がここにいる」と思って。しかもそれを自虐ネタじゃなくポジティブにやっているところがすごくいいなって。
KIKI:私は自分の活動に対していろいろとネガティブなことを言われることも多いのですが、実は結構打たれ弱いので(笑)、今回のインタビューで自分の顔を出して話をすることに対して、どうしようっていう迷いもあったんです。でもあっこちゃんの新曲(“余裕”)のMVを見て「あ、これは私も堂々とやらなきゃいけないな」って。
あっこ:それは嬉しいなあ。
KIKI:<何度でもたちなおれるんだ>って歌詞があるように、「失敗してもやり直せる」ってあっこちゃんが言ってくれてはっとした。「そうだよね、だったら精一杯やろう」って。
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