今も一緒にいるあの子、ずっと昔、小さな頃に大好きだったあの子、今はもう別々の道に進んでしまったあの子。あなたの人生の中で、一瞬でも同じ道を一緒に歩いた女友達を少しだけ思い出してみて。
感情を分かち笑いあったり、時にはとっても憎かったり、くるくると表情を変えていく女友達との関係性。むずかしかったりもするけれど、多くの人がきっと女友達の存在に支えられてきたはずです。
She isでは、雑誌『GINZA』の挿絵やCDのアートワークなど様々な分野で活躍するイラストレーターのanccoさんと一緒に、6月の特集「おんなともだち」のギフトでお贈りするオリジナルプロダクトとして、女友達と分かちたいペアのハンカチをつくりました。さまざまな友達のかたちが描かれたこのハンカチに込めた思いはもちろん、anccoさんが出会ってきた、学校、仕事、そしてインターネットでできた友達について伺いました。
当時のインターネットは、自分じゃない自分が存在していてすごく楽しかったんです。
もともとは漫画好きが高じて漫画家を目指していたというanccoさん。でも、扉絵と最初の1ページを描き終わると満足してしまったそうで、「中学生の時点で漫画は無理だなと思っていました(笑)」と話します。それからイラストレーターを目指し始めた頃、イラストの発表の場としてのめり込んでいたのが、もともと大好きだったというインターネットの世界でした。
ancco:インターネットは今でこそ普通ですけど、当時はあまりやっている人が多くなくて。うちは当時だとちょっとパソコンの導入が早めで、小学2、3年生の頃にWindows95が来たんです。そこから知らない人たちとBBSで交流したり、メールしたりしていました。BBSとかお絵かき掲示板とか、「ふみコミュニティ」(10代の女性向けの交流サイト)とかに絵を投稿して、絵を通して交流するっていうことを小学生の時からやっていたので、今やっていることはその延長線上というか、昔とあまり変わらないかもしれないです。
anccoさんの作品
絵に熱中していたanccoさんですが、絵はあくまでインターネット上で公開するもので、学校の友達には見せておらず、「学校の友達とネット上の友達は別のカテゴリーだったんです」と続けます。
ancco:地元の村という狭い範囲で生活していたから、現実の外にいる知らない人と友達になれたのが嬉しかったんですよね。シシヤマザキちゃんも小学生の頃からすごいホームページを持っていて。「この人かっこいい!」と思って掲示板に書き込んだこともありましたし、ブログもずっと追っていました。大学生の時に初めて会って、ずっと見てましたっていうことも伝えて。小学生の時にネットで見ていた人とは、大人になってから2、3人会いましたね。
当時はネット上でできた友達と会うというのはまだまだ珍しい時代。ネットが繋ぐ人と人との距離感をanccoさんはどう考えているのでしょうか?
ancco:今はスマホがあるから、みんなネット上で自己表現をしているし、リアルの世界でもInstagramなどのネット上でのセンスがすごく評価されますよね。今は会うまでのスピードが速いし、街でも「あの人ネットで見たことある!」と思うこともあるし、それが普通になっているのがすごいなと感じます。
でも当時は、リアルとネットを切り離して考えるのが普通だったから、「私をこう見せなきゃ」みたいなプレッシャーがなかったし、リアルの自分がばれていないからこそなんでもできる感じがありました。そこがおもしろかったんですよね、顔や名前を出すこともなかったし。今のスピード感もおもしろいんですけど、私は当時のネットにあった匿名性がすごく好きで。自分じゃない自分が存在していることがすごく楽しかったんです。
13歳のとき、パソコンでイラストを描くのに熱中していたanccoさん
今でも匿名性を持ちながらネットを楽しむ人は多いものの、「誰かにこの自分を知られたら」と目配せしながら生活している人も多いはず。昔のネットには、そうした圧力から逃れる抜け道のような温度感があったのかもしれません。とはいえ、今でもネットがanccoさんの友達づくりの発端になっているというエピソードも。
ancco:最近、ドイツに住んでいる女の子にInstagramでフォローされたんです。雰囲気があってかわいい子だなと思って、私もフォローバックしたんですけど、その子が日本に帰って来ていた時にたまたま展示会で会って。「私、あなたのこと知ってるよ! フォローしてるよ!」って言ったら、相手も「ああ! 私も知ってる!」って。
今だとこの流れってめちゃくちゃありきたりで普通っぽいけど、やっぱりネットで知り合った人と実際に会って友達になることってすごいなって実感しました。会う前からその人の趣味や雰囲気を知って、「友達になれそう」って思ってるということだから。
私は最後まで変われなかったから、先生たちにかけられた大人の圧とか、未だに根に持っています(笑)。
インターネットにどっぷりの小中学校時代を経て、高校では進学クラスに入ったanccoさんですが居場所があまりなく、勉強の忙しさからインターネット上に絵を投稿することが難しくなっていきます。
ancco:めちゃめちゃ校則の厳しい私立高校に通っていました。その中でも、大学入ってナンボみたいな進学クラスに入ってしまって、朝8時に登校して夜6時くらいまでびっちり授業があって。なぜか先生が私たちと他のクラスの生徒を近づけないようにしていて、「おまえらは他のクラスのやつらとなるべく付き合うな」って言うし、他のクラスの子たちにも「あいつらは勉強に集中しなくちゃいけないから関わるな」って言ったりしていたんです。
他のクラスの人たちからもすごく嫌な目で見られるし、学校は勉強する場所でしかなかった。誰かに操作されている感じがすごくて、拠り所がなかったんですよね。そんな環境だったので、高校時代は勉強ばかりでパソコンをいじる時間があまりなくて、インターネットに絵を投稿するのを一度辞めてしまったんです。
インターネット上の友達ともこれがきっかけで繋がりがなくなってしまったそう。しかし、「学校」という決められた、狭く抑圧された世界に居心地の悪さを感じていたanccoさんを救ったのは、まさしく絵を描くことでした。
ancco:進学クラスに入ったけど、私はそもそも大学に興味がなかったし、最初は専門学校に入ろうかな、くらいしか思っていなかったんです。でも、学校の呪縛から逃れるためっていうのと、やっぱり絵を描くのが楽しかったから、地元の芸術系予備校に行き始めました。そこからは、予備校があることを理由に早めに下校して8時間授業を免れることができて。だから、高校時代は絵を描くことこそが拠り所になっていたんです。
とはいえ、同じようにつらい状況下にいた高校の友達たち。ですが、anccoさんのような違和感をみんなが感じているわけではないようです。
ancco:高校の時の友達とは進む道も違ったし、今では時々連絡するくらいなのですが、みんなはあまり学校のことを憎んでなさそうで。そういう状況にずっといると、きっと麻痺してしまうんですよね。私は最後まで変われなかったから、先生たちにかけられた大人の圧とか、未だに根に持っています(笑)。
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