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石橋英子✕藤田貴大 わかりやすさや力強い答えから逃れる移動の美学

石橋英子✕藤田貴大 わかりやすさや力強い答えから逃れる移動の美学

新作は時空を超える一枚。マームとジプシー主宰と語る

2018年7月 特集:旅に出る理由
インタビュー・テキスト:野村由芽 撮影:永峰拓也
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現実には、物理的な時間があるけど、僕たちは時にその時間とは違う時間を生きることができる。(藤田)

藤田:風景を見ながら、頭のなかで次の土地での公演の事や次回作のこと、他にもいろんなことを考えているんですが、トンネルに入ると「あっトンネルだ」ってそれまで考えていたことが1回ストップするし、トンネルを抜けた後はまた違うことを考えたりする。移動しているときって、そういうことがあるじゃないですか。

それをかっこつけて言うと「ランドスケープ」みたいな言葉になるのかもしれないけど、もっとなんか物理的な「ブツッ、ブツッ」ていう切り替わりみたいなのが移動中にはあって、このアルバムにその感じがすごく出ているのが面白くて。

藤田:曲順がいいとかって言うより、そうやって現実に近い感覚に感情を持っていくリアリティがすごいなと。今回、「ファンタジーを削ぎ落とす」とライナーノーツに書かれていましたけど、まさにドリーミーなものではなくてもっとリアルな感じがしました。

石橋:「時を遮断して流れがバーンって切れて、どこに行くかわからず浮いてしまった感じになる」というのは確かに今回のテーマにあって、ドラムのリズム、コラージュの切れ目など、徹底してどこに行くかわからない感じを出したいと思いました。

かつて父がいた満州もそうですが、なにか悲劇があった場所は、場合によっては人間の操作によって時の影に隠れてしまう。でもその場所ではずっと止まっているなにかがあって、たとえ世のなかから忘れ去られても、ブラックホールやトンネルのように、口を開けてまた人が思い出すのを待っているような気がします。人間が同じ歴史を繰り返すことの象徴であるかのように。

石橋:そういう場所に思いを馳せると、過去に行ったり未来に行ったり、「いま」が消失する感じがあります。あと、旅の途中、すごく遠い海外にいるときに「もし自分がいま日本にいたらどういう生活をしているのかな」とパラレルワールドを想像することってありませんか?そういうときも、体感的な時間は止まっていると感じます。

―時間に追われたり、目の前のことに対処しているだけでは見えないことが、過去や未来といったここではない時間に思いを馳せることで、見えてくることってありますよね。忙しかったりするとなかなかその時間をつくることも難しいけれど、音楽を聴いたり本を読んだりすることも、心理的に旅することと言えそうです。

藤田:現実には、物理的な時間や世界標準の時刻、時差があります。でも、僕たちは時にその時間とは違う時間を生きることができるということや、ある場所に集中的に思いを馳せると、そこが真空状態で保管されてしまうといった感覚が、ひとつのアルバムで表現されている。

石橋英子『The Dream My Bones Dream』(Amazon

石橋:藤田さんのお芝居にも、物理的な時間感覚を歪めるようなシーンが多々あると思っていて。たとえば引っかかる部分が何回もリフレインされるとか。それが誰に引っかかったことなのかは観ている人にはわからないけど、多くの人が強烈な印象を受けるなにかがそこにはあって、繰り返し、注目を集めることで真空状態をつくり出すような構成がすごい。自分が作品に向かっていくときと同じものを感じますね。

PROFILE

石橋英子
石橋英子

茂原市出身の音楽家。いくつかのバンドで活動後、映画音楽の制作をきっかけとして数年前よりソロとしての作品を作り始める。ピアノをメインとしながらドラム、フルート、ヴィブラフォン等も演奏するマルチ・プレイヤー。シンガー・ソングライターであり、セッション・プレイヤー、プロデューサーと、石橋英子の肩書きでジャンルやフィールドを越え、漂いながら活動中。近年は坂本慎太郎、ジム・オルーク、七尾旅人、星野源、前野健太などの作品やライブに参加。劇団マームとジプシーや、映画・ドラマなどの音楽を手掛ける。

藤田貴大
藤田貴大

マームとジプシー主宰/演劇作家
1985年4月生まれ。北海道伊達市出身。07年マームとジプシーを旗揚。以降全作品の作・演出を担当する。11年6月-8月にかけて発表した三連作「かえりの合図、まってた食卓、そこ、きっと、しおふる世界。」で第56回岸田國士戯曲賞を26歳で受賞。以降、様々な分野の作家との共作を積極的に行うと同時に、演劇経験を問わず様々な年代との創作にも意欲的に取り組む。2016年第23回読売演劇大賞優秀演出家賞受賞。演劇作品以外でもエッセイや小説、共作漫画の発表など活動は多岐に渡る。
写真:©篠山紀信

INFORMATION

リリース情報
リリース情報
石橋英子
『The Dream My Bones Dream』(CD)

2018年7月4日(水)発売
価格:2,700円(税込)
felicity cap-283 / PECF-1155

1. Prologue: Hands on the mouth
2. Agloe
3. Iron Veil
4. Silent Scrapbook
5. A Ghost In a Train,Thinking
6. The Dream My Bones Dream
7. Tunnels to Nowhere
8. To the East
9. Epilogue: Innisfree

Amazon

イベント情報
『BOAT』

2018年7月16日(月・祝)~7月26日(木)全10公演
会場:東京都 池袋 東京芸術劇場 プレイハウス

作・演出:藤田貴大(マームとジプシー)
出演:
宮沢氷魚 青柳いづみ 豊田エリー 
川崎ゆり子 佐々木美奈 長谷川洋子 
石井亮介 尾野島慎太朗 辻本達也 
中島広隆 波佐谷聡 船津健太 山本直寛 
中嶋朋子
料金:S席5,500円 A席4,500円 65歳以上(S席)5,000円 25歳以下(A席)3,000円 高校生以下1,000円
※未就学児は入場不可
※65歳以上、25歳以下、高校生以下のチケットは劇場ボックスオフィスにて前売のみの取扱い

『石橋英子×マームとジプシー presents 藤田貴大の「The Dream My Bones Dream」』

2018年9月21日(土)
会場:東京都 渋谷 WWW

演出:藤田貴大
演奏:
石橋英子
ジム・オルーク
ジョー・タリア
須藤俊明
波多野敦子
山本達久
出演:成田亜佑美
料金:前売4,000円(ドリンク別)

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