3人目:張凱婷さん(高雄を拠点にするバンド、エレファントジムのベーシスト)
高雄出身の3ピースバンド「エレファントジム | Elephant Gym」。耳に残る澄んだベース、エモーショナルなギターリフ、そしてメロディックなドラムスが特徴で、日本でも2016年にアルバムをリリースし、『SUMMER SONICに出演するなど精力的に活動をしています。
今回、武居さんと私たちが訪ねたのはその「エレファントジム」で作曲とベースを担当する張凱婷(チャン カイティン)さん。もともとは台北で音楽活動をしていましたが、今は故郷である高雄に戻り音楽活動をしています。
現役ミュージシャンである張凱婷さんと、音楽がないと生きていけないと語るほどの音楽フリークの武居さん。初対面の2人ですが、あっという間に意気投合をして好きなバンドの紹介から、徐々に「自分らしさと音楽」へ話題が移っていきます。
「会う前から好きな音楽が似てるんじゃないかって予感がしてました」(武居)
ー武居さんは、「エレファントジム」の楽曲に対してどんな印象を持ちましたか?
武居:対談が決まってから、ずっと新曲の“moonset”を聞いていました。夜の遅い時間にボーッと聞いて、それがすごく心地よくて。あと、会う前から好きな音楽が似てるんじゃないかって予感がしてました。
エレファントジム“moonset”
張凱婷:聞いてくれたの? すごく嬉しいありがとう。え、じゃあ武居さんはどんな音楽が好きなの?
武居:好きなアーティストやバンドは数えきれないくらいいて。この人って言うよりも、その時の自分のムードに合った音楽を聴くことが多い。それこそ、コテコテのハードロックからJ-POPまで、好きな音楽の幅はとっても広いと思う。最近の気分でよく聴くのはthe HIATUSとかかなぁ。
張凱婷:わー! 私もすごく好き。私は濱瀬元彦をよく聞いていて(Youtubeで濱瀬元彦“Intaglio”を武居さんに聞かせる)。
武居:いいー! これ絶対、真夜中にお酒飲みながら聴くといいやつだよね。
「自分が生まれ育ったこの街が大好きだから。今は胸を張って高雄代表って言えます」(張凱婷)
ー「エレファントジム」は張凱婷さんと、張凱婷さんのお兄さんでギターのテル、ドラムスのティフの3人で台北で結成されたバンドですよね。音楽活動が順調だった中で、あえて地方都市である高雄に戻ろうと決めた理由は?
張凱:お兄ちゃんと昔から、実家を離れて2人で音楽をやると決めてたんです。それで2人とも台北の大学に進学して、親の目を気にせず思いっきりバンド活動をしようと思って「エレファントジム」を結成しました。
その頃、台湾では音楽活動をするなら台北しかないという状況でした。音楽に感度が高い人も、ライブハウスもレコード屋さんも高雄をはじめ地方都市には少ないから。バンドをするなら台北しか選択肢がなかったんです。
張凱婷さんとお兄さんの張凱翔さん(テル / ギター、ピアノ、シンセサイザー)
ー最初は高雄でのバンド活動は考えてもいなかったんですね。
張凱婷:そう。でも多くのバンドが活動する台北で、自分の思うようにできないことが増えていき、台北でこのまま音楽活動を続けていいのかと考えはじめました。
ー思うようにできないこととは?
張凱婷:例えば、台北では音を鳴らしたいなら、スタジオを1時間ずつ借りないといけない。自分が今やりたいと思っても、満室なら待たなきゃいけない。それに、高雄出身のバンドですと言いながらライブに出ても、自分たちが住んでいるのは台北だし、故郷を代表しているとは言えないなってずっと思っていました。
ー実際に高雄に戻って台北時代に感じていた不満は解消できましたか?
張凱婷:音楽を作る環境にはすごく満足している。今は古い家屋を改装しスタジオにしているんだけど、周りに誰もいないから24時間好きなときに音を鳴らせます。今やりたい! そう思ったらすぐにスタジオに飛んでいける。
それに台北で活動をしているバンドが多い中で、私たちは高雄出身で高雄に住んで音楽をしているから、他のバンドとは差別化できていると思う。今は胸を張って高雄代表って言えます。
スタジオで撮影したエレファントジムのMV
ーなぜ故郷を代表したいって思うのでしょう?
張凱婷:単純に、自分が生まれ育ったこの街が大好きだから。それに自分たちが高雄のことを高雄の外で発信することで、地元が盛り上がればいいなとも思っています。だから楽曲の中でも高雄について触れています。
武居:日本ではそこまで、自分の故郷を全面に押し出すバンドは多くないですよね。そこに高雄のバンドの面白さを感じます。
「過去のいい思い出も辛い思い出も、全部音楽と結びついているんです」(武居)
ー張凱婷さんはプレイヤーとして、武居さんはリスナーとしてそれぞれ生活のど真ん中に音楽があると思います。2人の中で、自分らしくいることと音楽ってどう結びついているんでしょう?
武居:私の母はピアノの先生で、だから生活の中に音があるのが当たり前だったんですね。常に家の中に音楽が流れている環境で育ったから、過去のいい思い出も辛い思い出も、全部音楽と結びついているんです。生活から音がなくなるほうが違和感を感じると言うか。
だから今では音楽から自分の状態を知ることができるようになりました。自分の体調や精神状態を、聴きたくなった音楽から知ることができる。
ー聴きたい音楽から自分のコンディションを知る?
武居:そうなんです。ある曲を聞きたくなったときに初めて「あぁ、私疲れてるな」って気づけるんです。こんな風にたくさんの曲に私の感情が染みこんでいるから、音楽を生きることから切り離すことができなくなっています。
ー張凱婷さんにとって音楽とはどんな存在でしょう?
張凱婷:私も武居さんと同じ。音楽がいつもそばにありすぎて、その質問に答えることすらすごく難しい。普通、音楽家は伝えたいことがあって、それを音楽にのせてたくさんの人に届けますよね。でも私は小さい頃から、楽器がいつもそばにあって、遊ぶように曲を作ってきた。だから、伝えたいことがあるから音楽を作り始めたわけではないんです。
ー音楽を作りたいというよりは、自然に漏れ出る感じ?
張凱婷:うん。私にとって音楽を作ることは、みんなが自転車に乗るように当たり前に「できる」ことなんです。だから技術的に自分が作った音楽が優れているかどうかは自分で判断ができる。だからこそ私は音楽を使い、いったい何を届けようとしているんだろうと、高雄に帰ってきてから真剣に向き合う時間が増えています。
普段何を聞いている? そんな音楽好き2人のお気に入りバンド紹介から、いつの間にか「生きることと音楽」というとても大きなテーマに話が移り変わり……。2人の音楽に対する熱い思いが、ひしひしと感じられた対談でした。
張凱婷さんおすすめの高雄スポット
「大立樂園」
エレファントジム“Midway”のロケ地にも使われている大立デパートの屋上遊園地。多くの高雄っ子が子ども時代に遊びに行ったことある、ノスタルジックスポット。
エレファントジム“Midway”
武居詩織さんと3人の高雄カルチャーを盛り上げるキーパーソンの対談を聞き、3人それぞれが高雄を「自分の街」と言っていたのが今も頭に残っています。街を盛り上げると聞くと、多くの人のために大きなプロジェクトを遂行するようなイメージを持ってしまいます。しかし、今回お会いした3人はみんな「自分がやりたいこと」を思う存分追求し、それが結果的に街をつくっていきました。これは台北にはない、高雄ならではの魅力。
志は高く、意気込みも満タン。だけど、マイペースで歩いていく。高雄に訪れて、このゆるさと情熱が共存する人と街のムードを、ぜひ一度味わってほしいです。
高雄のオフィシャルサイトでは、武居さんとともに、高雄で訪れたスポットを「食べる」「遊ぶ」にわけて写真でご紹介しています(TOPから武居さんの記事を選んでチェックしてみてくださいね)。ゆるやかで自分のテンポを取り戻せる高雄の旅を追体験することで、この心地よさが届きますように。
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