カテゴリーを取り払い、人間としてのそれぞれの性のあり方を考えていきたいと思っているんです。
ー一部の特権的な人のみが舵を取ってビジネスをしている状態は、健全とは言えないですよね。そのようななかで、エリカさんが実践されているように、女性が主体的にビジネスをし、ものをつくることで、社会をつくり変えていくような試みには希望を感じます。
エリカ:私たちの取り組みを例としてひとつ紹介すると、世界中の人たちからセックスにまつわるエピソードを集めて、そこから選んだストーリーをもとに映像作品をつくる「XConfessions」というシリーズを制作しているんです。そこでは私の監督作以外に、ほかの女性の映像監督を招いて制作費を融資し、作品をつくってもらっていて。「XConfessions」には日本からもストーリーが寄せられていますし、制作を希望されている方もいるので、日本でもぜひ作品をつくることができたらと思っています。
XConfessionsで制作された作品
ーそれは素敵ですね! 「女性である」ということ以外にも、現在の社会において多数派ではない立場に置かれていることによって、これまで声を上げづらかった人たちがたくさんいます。性的な事柄も含め、マジョリティの視点から一方的に語るのではなく、より多くの人がさまざまな立場から主体的に発信できるようになっていくことが、社会全体の健全さに繋がっていくのではと思います。
エリカ:現在の主流なポルノコンテンツでは、多くの場合若くてスリムな白人の女性が欲望の対象となっていて、例えば黒人やアジア人、太っている人などは、細分化したジャンルとして扱われています。けれども私はそうしたカテゴリーを取り払い、人間としてのそれぞれの性のあり方を考えていきたいと思っているんです。例えば最近「XConfessions」で、72歳と74歳のカップルのドキュメンタリータッチの作品を撮ったのですが、すごく良い作品になったと思います。また、妊娠7か月の方が出演する作品もつくりました。
ーこれまで性を語ることをどこかタブー視されてしまっていた立場の方たちというか。
エリカ:従来のポルノにも彼らのような人たちが出てはいたんです。けれども、すごくニッチで特別なジャンルとして扱われてきました。私は、そうした形じゃなく、ありのままの姿を見せていきたいんです。
セックスに関するコミュニケーションは大切。学校や家庭における性教育も同様で、それらがより良いものになっていく必要がある。
ーエリカさんの作品において、さまざまな立場や、身体、心の個性を描いた作品が発表されることで、ポルノを見る人の層も広がりを持つのではないかと思いますが、そういった実感はありますか。
エリカ:まさにそうですね。例えばGoogleアナリティクスで私たちのサイトへのアクセス状況を見ると、視聴者の40%が女性なんです。これはメインストリームなポルノ業界と比べて圧倒的に多い数字ですから、明らかに見る層が広がっていると感じています。一般的に、女性はあまりポルノを見ないと言われてきましたが、それは嘘ですね。彼女たちが見ていなかったとしたら、ただ自分たちが見たいと思える魅力的な作品がなかっただけだと思うんです。
XConfessionsで制作された作品
ー先ほどお話したように、既存のポルノにおいては、多くの場合、人格を持った存在として認められておらず、「モノ」のように扱われていた女性たちも、エリカさんの作品においては性欲や性的な願望を持つことも含めて、一人の「人間」として描かれています。
日本においては例えばSNSなどで、差別や不寛容な考え方が見られることも多く、そうした状況を解消していくことにも通ずると思ったのですが、誰しもに感情があるということを考えながら、ものづくりをすることが大切なのだとあらためて思いました。
エリカ:コミュニケーションはもっとも大切なことです。なかでも私が重要視しているのはセックスに関するコミュニケーションですが、学校や家庭における性教育も同様で、それらがより良いものになっていく必要があると思っています。
私の望みのひとつは、カップルが私の作品を一緒に見て、自分たちの性的な事柄について話し合ってくれることです。実際にカップルで見てくれている方たちもたくさんいるので、私の作品の感想をパートナーに聞いたり、「今夜試してみる?」みたいな話をできるようになっていったらいいですね。