画一化された欲望を描く従来のポルノに課題意識を持ち、多様な性のありかたを肯定しようとする作品をつくり続けている、映像監督のエリカ・ラストさん。自身の感覚に寄り添ったポルノ作品をつくろうと思いたち、初めて制作した『The Good Girl』は、オンラインで公開後、大きな反響を呼びました。
エリカさんの作品は、これまで多くの場合において、欲望の対象として扱われてきた女性をはじめ、ある種の「特別視」をされてしまっていた人々が主体的に眼差し、それぞれが自然な性を謳歌することの素晴らしさを、ありありと伝えようとしているように思えます。
性やセックスは、個人の心と身体のとりわけパーソナルな領域に、なすすべもなく関わってくるものだから、その一連の営為を描くポルノからヘルシーなあり方を考えてみることは、誰のためでもない自分にとっての健やかさを見つける手がかりになるかもしれません。自らが抱いた違和感や気づきに率直に従い、自身の手で目指すビジョンを実現してきたエリカさんのお話には多くの示唆がありました。
既存のポルノフィルムには、自分自身が代表されていると感じられる作品がなかった。
ーこれまでポルノは、主な鑑賞者が男性であることから、男性の欲望に基づいた作品が多くつくられてきたジャンルで、女性の作り手が少なかった状況があります。そのようななかで、エリカさんがポルノ作品を撮ろうと思ったのはなぜですか?
エリカ:大きな理由は、既存のポルノフィルムには、自分自身が代表されていると感じられる作品がなかったことです。大学生の頃、当時のボーイフレンドから、一緒にポルノDVDを見ようと誘われて。私はスウェーデン出身で、もともと性に対してもかなりリベラルな考えを持つ人間ですから、ポルノにも興味があって、一緒に見てみることにしました。実際に見てみた感想として、たしかに自分の身体に性的なスイッチが入りはしたんです。ただ同時に、その作品が好きではないとも思いました。
ーそうだったのですね。
エリカ:身体と頭が一致しない感じでした。たまたまかもしれないけれど、私が見たポルノは、女性が男性を満足させるために性行為をするような内容だったんです。言ってしまえば、女性がセックスのためのツールとして使われていて。
そこで私は周りの人たちに、ポルノについてどう思うか、意見を聞いてみました。そうすると、男性は基本的に疑問を感じず満足していたのに対して、女性は私と同じような感覚を持っている人が多かったんです。どこか正しくないと感じたり、違和感を覚えていた。そうした会話を通じて、もしも自分がポルノをつくるとしたら、どのようなものをつくるかを考え始めました。
日常にはもっといろいろなセックスの形があって、私はそのことを表現していきたいんです。
ーご自身でポルノ作品をつくってみたことによって、何か変化はありましたか?
エリカ:一緒に仕事をするポルノ女優さんたちはセックスに対してとてもポジティブな考えを持つ人が多くて、彼女たちと関わることで私自身もセックスに対してどんどんオープンになっていきました。日常生活の中では、性的な事柄についてオープンな姿勢でいることがなかなか難しいのは事実です。だから、ほかの人たちがどんな風に性交渉をしているのかを知るためにも、多様なポルノ作品が存在することが大切だと考えています。
現在の主流なポルノには男性が女性を支配するような関係性を描く作品が多いけれども、日常にはもっといろいろなセックスの形があって、私はそのことを表現していきたいんです。また同時に、どのようなセックスをするかだけではなく、人々がセックスの中でどのように感じているか、どのようにコミュニケーションを取っているかということについても描いていきたいと思っています。
ーエリカさんの作品と、従来の多くのポルノが異なる点として、登場する人たちの感情の流れが描かれていますよね。それは、作品の中に出てくる人たちを都合の良い欲望のはけ口として扱うのではなく、血の通った一人の人間として扱うということだと思ったんです。
エリカ:ありがとう! セックスはポルノ業界の人々のためだけのものではなく、すべての人たちにとって重要な事柄です。だから女性として、さまざまなセクシュアリティのあり方を、社会に対して積極的に表明していきたいと思っています。
私も含めて女性たちは、多くの場合、既存のポルノに不満を持ってきましたが、だんだん女性たちが自ら作品をつくり始めることができるようになりました。女性は世界の人口の半分を占めていますから、我々の活動がもっと広まっていって、ようやく公平になると思うんです。それはポルノだけじゃなく、社会全体の話ですけどね。ビジネスにおいても男性が中心であるのは間違いないですし。
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