心が健康だったらなんでもできると思うんです。
子宮摘出という可能性も出てきているなか、湯川さんはどうやって焦らずに自分のペースで体と向き合えたのでしょう。
湯川:心が健康だったらなんでもできると思うんです。体が健康じゃないときに心が健康でいられるかっていったら、そんなに強くないですから。病気になっちゃった、さてどうしようっていうときに、少しでも前向きに考えられるかどうかが大事ですよね。
私の場合はやっぱり、音楽をやっていればすべてクリアになります。音楽をやっている状態がいちばん自分が元気になれるんです。ライブが多い月は病気の症状が軽くなったりとか、セルフメンテナンスの効果があるみたいで。心と体のつながりってちゃんとあると思いますよ。
湯川さんが尊敬するシンガーソングライター・遠藤賢司さんとの思い出を話しながら、心と体の健康がいかに互いに影響し合うか言葉を続けます。
湯川:エンケン(遠藤賢司)さん、去年の10月に亡くなってしまったんですけど、私の病気のこともずっと知っていて。エンケンさんがすごく具合が悪いときに「ふたりで電気治療しよう!」って言ってスタジオを借りて、アンプを4台くらい置いて、聞いたことのないくらいの爆音を出し始めたんです。「潮音ちゃん、エレキギターっていうのは電気治療だから。それで俺どんどん良くなってるんだ」って言っていて。でもエンケンさん、そのときはもうギターもスタジオに運べなくて、私がおうちに行ってギターを背負ってスタジオに持っていっていたくらいの状態だったんです。
そんな体力なのに、ドラムを叩きまくり、エレキギターを30分以上鳴らしまくり、アンプに乗ったりして。「対決だ!」って言われたから、エレキギターそんなに弾いたことないけど、負けじと鳴らしまくりました。気づいたら下に汗の水たまりができていて、びちょびちょになっていたんです。あんなに汗かいたの人生で始めてでしたし、エンケンさんを見たらどっかから血が出てるし(笑)。それが最後の対決だったんですけど、あれに誘ってくれたことで心と体がつながってることを身をもって教えてもらいました。「潮音ちゃん、めちゃめちゃロックだよ!」って言ってくれてすごく嬉しかったです。
湯川潮音 "裸の王様 遠藤賢司さんへ"
ギターも運べない状態で「どんどん良くなってる」と自分で言えて、演奏ができた遠藤さんの心のエネルギーの強さに圧倒されるお話です。湯川さんも言うように、心が健康であれば、体もそれに引っ張られていくのは本当なのかもしれません。
湯川:エンケンさん、本当にすごいですよね。ものすごく体力を使うライブをする方でしたけど、闘病中もライブをずっとやっていましたし、好きなことを最後までやりきる精神力や心のあり方がすごいなと思います。薬とかいろいろな治療法もあるけれど、その人が本当に好きだと思うことをやれているかどうか、気持ちいいか気持ち良くないかということも体に大きく影響するんだと思います。
なにか特別なことをしなくても、好きなことをやって日常に満足しているかどうかが心の健康に大きく影響してきそうです。湯川さんにとってはそれが音楽。好きなことをするための時間を上手に持つことが、健康への近道なのかもしれません。
湯川:たとえば、90歳を超えたおばあちゃんが必ず健康食を食べているとは限らなくて、毎日赤ワインにステーキみたいな人もいる。みんなぜったい「自分のこの時間が好き」「これをしているときが幸せ」っていうものがあるじゃないですか。そういう小さな幸せを積み重ねていくことが大事だと思います。
「やっぱり私には音楽です」と繰り返す湯川さん。しかし、体調が悪いときでもステージに立たなければいけないことも。特に「生理の日のライブは結構つらくて」と話します。
湯川:ライブの日に生理日が当たってしまったときは、腹巻とカイロは欠かせないですし、よっぽどだと痛み止めも飲みます。ライブが始まっちゃうと痛みも忘れるんですけどね。前にMCで、「今日は女の子の日なのに、ライブができた自分に感謝!」みたいなことを言ったこともあります(笑)。
大事な場所だから、お腹は温かくしていたい。
妊娠前のお話でもありましたが、「体を温める」ということを意識している湯川さん。She isとつくった「五線紙パンツ」もまさに体の中心であるお腹を温かく保つためのやさしいオーバーパンツです。
湯川:妊娠中は、ずっと腹巻をつけてスパッツをはいて、つねにお腹を温めるようにしていました。産んだあと、それをはずすとなんかスースーして心細くて、ちょっと寂しくなるんですよね。でも、持っている腹巻がマタニティのものばかりだったので、そうじゃなくていいものを探していたんです。
上になにか着てもシルエットに響かないようにこだわったという、この「五線紙パンツ」。お腹まわりはストレッチ性もあって、締め付けすぎず、お腹のうえまでしっかりとカバーできます。ウエスト付近の糸が五線紙になっており、その上には音符があしらわれています。
湯川:これは鼻歌の楽譜なんです。このオーバーパンツの企画会議の帰りのバスのなかで、コンセプトを考えながら唄った鼻歌を音符にして、お腹まわりに刺繍しました。お腹って声の源なんです。みんな喉から声を出していると思っているけれど、本当はお腹から出るもので。お腹の軸がしっかりしていると、力を全然使わなくても声が出るし、高い声も喉で頑張らなくても体幹から発せられる。
呼吸法の教室に通っていたんですけど、そのときにもお腹の軸をしっかり保つことが重要だと学んで。そうすると体がすっごく楽になるんです。そういう大事な場所だから、お腹は温かくしていたいですし、お腹を温めると心も安定するみたいですよ。ふだんはあまり意識するところじゃないけれど、意識すると結構変わると思います。冷えを気にしていない人でも、このパンツを履いてみたら気持ちいいことに気づくかもしれません。
体の不調を忘れられるような自分の好きなことをする時間をつくって心を健康にすること、そして普段聞き逃してしまっている体の声にもう一度耳をすましてみること。きっと毎日頑張りすぎて、知らず知らずのうちに息が切れてしまっている人もいるでしょう。
一度立ち止まって、自分を見つめて、やさしく労ってあげてください。難しいことはしなくて大丈夫。湯川さんがおっしゃるように、お腹を少し温めてあげるだけでもいいでしょう。それぞれ心地よいと思える瞬間をひとつひとつ増やしていくことで、心も体も健やかに、自分らしく整っていくはずです。
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